5. 月光

 森をわけいった深く深く、静かな泉。

 動物も、虫すら寄り付かないような深い場所に彼女はいた。

 泉の中心に一人で立っている。


 濡れた衣はぴたりと体にまとわりつき、彼女のしなやかな身体の曲線を顕にしていた。

 青白い月の光に照らされて、彼女は亡霊のようにただただそこに立ち、月を見上げていた。


 まるで許しを乞うかのように月に伸ばされた細い腕は虚しく宙をかく。

 彼女はか細い息をはいてだらりと腕をおろすと瞳を閉じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る