第6話 脱部下作戦継続

 次は春美だ。

 猫耳に、猫のしっぽ、猫を飼いたくても飼えない事の鬱憤晴らしだ。だめならあと黒子しかいない。

 僕は大理の時と同じように研究部屋へ呼び出した。

「やあ春美さん」

「あら理比斗くんじゃない。いつも言ってるけど春美でいいよ。今日はどうしたの?」

 猫かぶりやがって。今日は本物の猫被せてやるよ。しかし、さすがアイドルと言ったところか。僕はアイドルは詳しくなく、名も見た目も知らないが母や高子の話によると有名で人気もあるらしい。僕は知らんがテレビで見ない日はないとか言っていた。本当に忙しいならこうしてウロウロと高子の家に来てないだろう。全く研究部屋が併設された家ってなんだよ。

 切り替えよう。

「アイドルなんてやってたら夜道は怖くないかい? と思って」

「うーん。私くらいならアイドルやってなくても夜道は怖いかな」

 そーかい。

「でもボディガードを四六時中つける訳にはいかないだろう?」

「まあね、検討はしたけどね。大理に頼んだけど、俺はお嬢様は守るが君は守れん。みたいに言われちゃってさお硬いよねーアイツ」

 そのアイツなら分身できたらやってるだろうよ。悪いやつじゃないのは身をもって知ったばかりだ。

「そこで、だ」

「うん。あ、分かった。理比斗くんがボディ、ガード? いや、そりゃあないか。どう見たってヒョロくて弱そうだしね。あ、ごめん。別に悪口のつもりはなくって、ただ思った事を言っただけで、傷つけるつもりはなかったんだけど」

 思っただけなら別に言わなくてもいいだろう。これはもしや嫌われているのか。いい兆しだ。

「いや大丈夫。事実だから。そんなつもりもないから。提案は防犯用の道具でも作ろうかと」

「へーいいじゃない。くれるの?」

 もらうこと前提か。

「春美さんの好み次第だけど」

「じゃあもらってあげる。もう出来てるの?」

 やはりもらう前提じゃないか。

「試作品はね」

 手を出してきた。渡せという事だろうか。図々しい。むしろこれくらいがちょうどいいか。

「これ」

「何、これ?」

「猫耳型センサー」

「えー、理比斗くんの趣味?」

「まあそんなとこ。どう?」

 実際は猫が飼えないからだ。親には家は狭いからだと言われた。

「でも猫耳を外でつけるのはなー」

「いいんだよ。別に気に入らなければ」

「他は?」

 切り替え早いな。

「猫の手。犯人撃退用だよ」

「あとは?」

「猫のしっぽ。その他猫のような見た目の物」

「猫ばっかじゃない」

「まあ、モチーフが決まってセット的に作ってたから」

「信じらんないこれじゃコスプレじゃない」

 春美は部屋を出て行ってしまった。

「ふふふ」

 いい感じだ計画通りだ。これで変な物を作っているという話が高子へ伝わればお嬢様な高子の事だ。渡した物を返せとは言わずに僕を追い払うだろう。もらった物は使い。そして自由の身となれば、

「ハハハハハハ」

 我ながら良案。なんという事だ。笑いがこみ上げてくるとはこういう事か。

 ちょろい。ちょろいぞ。やはり大理が厄介なだけだったようだ。もっと正攻法でいけばよかったのだ。最初からこの作戦でいけば問題など起きなかった。役に立つが見た目に難ありという。いや、うまくいったんだ。失敗を悔やんでも今更仕方あるまい。


 数日後。近所の公園で春美を見かけた。

「春美さん? こんなところでどうしたの? それに」

「ん? あーこれ? ちょっとつけてみたら意外と悪くないかなーって。むしろ可愛いかも。本当に撃退できたし。あと春美でいいよ」

 呼び捨てにこだわるなぁ。それに何を撃退したのだ。

「それに、ウケも良かったし」

 誰のだ。

「で、完成品は?」

「え?」

「これは試作品なんでしょ?」

「あ、ああ、ごめん。てっきり気に入らなかったものかと思って、確かに遅くなっていたけど、すぐ完成させるよ」

 まさか、こんな事になるとは。一応はもらうと言われプレゼントと思って黒子に届けてもらったが、失敗だったか。しかし、どうしてだ。何があればこんなにも簡単に、数日で意見を変えられるというのか。

「あのさ、理比斗くん」

「なに?」

「ありがと。そんだけ、完成品楽しみにしてるね。それじゃ」

「おう」

 春美はスキップしながら高子の家の方向へ行った。

 くそう、好感触だったのに何だ今の態度は、全然真逆じゃないか。なんなんだ。とことん分からん。それに。完成品なんて遅れてるどころじゃない。まだ手もつけてないぞ。何もやってない。

 僕も高子の家の方向へ走った。

 どいつもこいつも思うように動いてくれない。あとは黒子だけだ。

 しかし、何を作ればいいんだ。

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