第5話 脱部下作戦開始

 部下とは言うものの特に仕事が来る事もなかった。あるにはあるがあれを作れ、これを作れというものだけだ。想像していたサラリーマンっぽさはない。

 暇という訳ではないが思いついた事を試すために自分から動き始める事にした。

 今日はすでに大理を研究部屋に呼び出してある。

「やあ、大理。調子はどうだい?」

「いえ、別に、しかし何故あなたが俺の名前を?」

「高子の誕生日会の時に聞いたよ」

「そうですか、あなたがお嬢様を呼び捨てにするのはいささか気に食わぬ、いえ、気分がよくありませんが」

「おや嫉妬かい?」

 僕はわざとかぶせるように言った。

「それ以上ふざけるようでしたらどうなっても知りませんよ?」

 うまくいった。が、これ以上は危険だ。

「悪い悪い。別にそんなつもりはなかったんだ」

「そうですか?」

「ああ。それで、大理、体をコントロールできてないだろ?」

「何故それを?」

「見りゃ分かる。そこでいい話がある」

 拘束具をつける。それをパワードアーマーとして大理に渡す事を伝えた。

「やけに気前がいいのですね」

「僕は恩を仇で返すような人間じゃないんでね」

「本当ですか?」

「本当だ。でどうだ? 大理次第だ」

「お願いします。他の方が犠牲になる前に俺が犠牲になりますよ」

「物騒だねこりゃ」

「ええ。俺はまだお嬢様ほどあなたを信用していないので」

「そーかい。いいよ別に。まあ決まりだな。数日待っとけ、何にしてもあとちょっとしたら黒子の採寸があると思うからそれからだな」

「な、俺が最初じゃないんですか? 黒子さんに手を出して」

「変な言い方するなよ」

 言うだけ言って僕は大理を残して高子からもらった研究部屋へと戻った。


 黒子の仕事は速かった。

 研究部屋に戻ってから10分とかかる事なくやってきた。

「ありがとう」

「いえ、では、失礼します」

 警戒してるのは大理だけではないのか。それとも仕事だからか? まあいい。

 僕は黒子からもらったデータをもとに開発を始めた。

 大理の様子なら一番文句を言うと考えて間違いないだろう。

 黒子や春美よりも高子への思いは強そうだ。

 これは希望的観測だが、きっと全力を出しても満足してくれないタイプだ。

 つまり、全力を出して大理にぶった切られればいい。役立たずだ、と。

 そして、お嬢様自身に断らせてやればいいのだ。見当違いだった、と。

「ふふふ、我ながらいい作戦だ」

 これで自由の身となれる。

 脱出は奥へ入ってからでもできるものだ。


「できたぞ」

 僕はさっそく大理を研究部屋へと呼び出した。

「おお、これが!」

 なんだ、やけにテンションが高いじゃないか。

「ああ。着てもらうまで合うかもお気に召すかも分からんがな、っておい勝手に」

「素晴らしいですよこれは」

 何?

「まだ説明もしてないけどな」

「いえ、直感的にも使い方の分かるデザイン。素晴らしいです。お嬢様の話したとおりです。さすがの実力。疑ったりして申し訳ありませんでした。理比斗さん」

 おかしい。そんなはずは、それに、

「理比斗さん?」

「ええ、これからはそう呼ばせていただきます」

「へ、へー、そうかい、ははは、そりゃーいーや。ははは」

「よかったですか、ハッハッハ」

 大理は笑いながら部屋を出ていった。

 何だコイツ。急に態度が変わりやがって。くそう、あてが外れた。もっと厳粛で気難しいやつかと思ったら全然そんな事ないじゃないか。

 それに僕の作った物が僕以外の人も直感的に使えるなんてどういう事だ。

「すごいですね」

「うお!? お、驚かせるなよ。黒子」

「驚かしてませんよ。褒めただけです」

「そうだが」

「それにしても凄いですよ。あの大理さんの力を制御可能にするなんて」

「そうなのか? 僕には少し滑らかになったようにしか見えないんだが」

 そうだ。どうなってるんだ。こんな予定ではなかった。

「ワタシには分かります。今まで暴走気味で動くたんびに自分を傷つけていたのが嘘のようですよ」

「そうなのか?」

「ふ、まだまだですね」

「ま、まあ、何にしても力になれたのならよかったよ」

 僕は研究へ戻った。これ以上黒子の相手をしていても仕方ない。今日は失敗という事で次だ次。次の作戦を立てよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る