テンプレファイト

博元 裕央

・『ラブコメ総括地獄』

 今日も今日とてインターネット投稿小説という修羅の巷、燃え盛る地獄の炎から、作品タイトルである【テンプレファイト】の文字が黒抜きでガーンと登場! その後、やや細い黒い文字で【制作:博元裕央】。


 乾いた太鼓をBGMに、個別エピソードとしてのタイトルが改めて表示されます。一文字赤くする事は残念ながら仕様上不可能なのですが、それより果たしてこのパロディの元ネタはもう一つの主題であるラブコメに慣れ親しんだ世代の読者は果たして知っているんでしょうかという疑問はさておきながらの実況ナレーション、今回のタイトルは『ラブコメ総括地獄』。


 さあ、始まりました。


 薄汚れた着ぐるみめいた主人公が、今日もヒロインの小声告白を聞き逃しそうな難聴面を晒して何時もの荒れ地小説投稿サイトをふーたらふーたらと歩いております。


 そこに登場、着ぐるみが使われ過ぎ……意味深な暗示なのかは各自個人解釈でお願いします! ……くたくたになって口が歪んで何故か緑色に塗り直された幼馴染みヒロイン、着ぐるみがへたれて本来ピンと立って稼働しているべきアホ毛が垂れちゃってるセカイ系ヒロイン、雑な管理で濡れたままほっとかれたりでもしたのか皺が寄っちゃったり膨らんだりくたくたになるだけでなく原型が分からないシャープだった顔がコッペパンみたいになっちゃってるバトルヒロイン、髪が何か縄暖簾みたいになっちゃってる着ぐるみの年上系ヒロイン、過去の酷いアトラクション用着ぐるみを流用したのっぺりした顔がでかい上に目が虚ろな後輩荒廃系ヒロインであります。


 おっと幼馴染み系ヒロイン、このヒロインレースをどうにかしろと主人公につっかかります、これを即座に主人公殴打! 隠し持っていた角材で殴打! ざまあとばかりに滅多うちであります! たちまち倒れ伏す幼馴染み系ヒロイン! 足蹴にされ転がり落ちていきます幼馴染み系ヒロイン、反撃できない社会のストレスを社会に反撃せず暴力的とはいえ素直に慣れないだけの女にぶつける主人公の着ぐるみの中の人の嘔吐を催すような憎悪の怨念が籠った凄まじい攻めであります。それをもっと他の方向に発せられないのか、何よりこの既に去った一瞬の流行幼馴染追放ざまあネタへの風刺をそのままにしていいのか。


 ですがその隙に残りの4ヒロインが主人公の周囲に回った。テンプレを使い回したヒロイン達の更にテンプレな包囲網、二重の意味でガチガチのベタベタで、主人公、これは抜け出せません。


 主人公両手両足を引っ張られております。特に強くなりたい動機も強くなってしなければならない事も無いにも関わらず成長系の能力を持っていてステータスウィンドウがゲームとあんまり関係も無いのに開くからと昆虫の本能めいて薄気味悪い条件反射的に強くとしてきた主人公は中々耐えますが、両手に花ならぬ両手両足に牛裂き、このままでは使い古された主人公は短時間でバラバラ四等分の花婿!


 おっと主人公、振りほどいた。そして好感度が下がる前に、おお、分身です! どうせ無個性だからって他の完結済作品の主人公の使い終わったくたくたの着ぐるみに適当なパーツを付けて合成を使わずに自分の数を増やしました! 元々見分けのつきにくいテンプレな量産型主人公ならではのテクニックと言えるでしょう!


 死んだ幼馴染みヒロインを除いて全員に行き渡るように、4人に分身しました。マルチエンディングを目指すようです! 実験的! 僕達には伏線回収やキャラへの誠実さ的に出来ない!


 あ、ですが! 残念ながら他のヒロインのルートで負けヒロインになるのは御免だと、分身主人公四人全員の独り占め逆ハーレムを目指してヒロイン達が戦い始めました!


 主人公にハーレムルートを目指す権利があれば逆もまたしかり! 残念ながらこの結果は量産型主人公故の個性の無さ故に当然適当に取って付けたように描写された分以外の人徳も固有の魅力も無い所から来た、当たり前の結果です!


 最早無法地帯であります! キャットファイトなのにあられもないのに着ぐるみがくたくたなせいで無法痴態セクシーおいろけっぽさは少しもありません!


 そして宴もたけなわではございますが、実に残念ですが放送時間ごふんかんが終わります、それではこれにて!

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テンプレファイト 博元 裕央 @hiromoto-yuuou

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