昔話 その4

 最高のチーム

 終/切望

 ナナ/友情

 ルナ/激情

 ガルム/失敗

 イクソス/喪失

 全部/破壊


 言葉/取得/スムーズ/進化/と/円滑

 夜/二人/本/見る/思考/書く

「お前はどうして思うという言葉の概念が理解できないんだ? イクソスは思いました、とかそういう書き方が出来ないやつだな」

 呆れた顔/イクソス/二人きり/テント/

 ノート/ペン/言葉の取得/文法の取得

「だって、現実にないものでしょ?」

 見る/聞く/触れる/自分以外/自分/思考共有は不要

「お前に細かな情動を期待した俺が馬鹿だ」

「失礼な。僕だってありまーす」

「お前の思考は常に己の目で見たものへの感想で感情が一切ない。何かあれば、ある、なければなし。決定事項のようだな」

「そのほうがわかりやすいだろう」

「……そうだな」

「ふぁー、勉強も疲れたし、寝ようか」

「もうすぐ遺産が手に入る。そうしたらここからおさらばだ」

「だといいけど、無理かもよ」

「不吉なこというな」

 静寂/夜/起き上がる/煙草/火

 眠る/イクソス

 機械音/眠れない/眠らない機械の音

「完璧なものってそのうちケチがつくんだよ、イクソス」

 言葉、取得

 イクソスが寝ている。

 目の前で/見つめる。


 遺産/ジャンルの奥部にある石でできた建物/人はいない/いくつもの蔦/

「以前は人がイタそうデス」

 ガルムの探索能力による情報提供

「国が災いによって傾いた、デス。一人の人物がそれを引き受け、民はみんなここを去ったト」

「どういう意味、それ」

 ルナ、つっこみ。

「昔の禍祓い、らしいデス。民がいると禍いに思わせ、あとは逃げる」

「つまりは人身御供、それで助かるかはわからないけどねぇ」

 思わずつっこみ。

「ばかみたーい」

「こんなところで一人いるなんて寂しいわぁ」

 ルナ、辛辣/ナナが同情

「けど人の匂いはしない……いや、これはレネゲイドウィルスの匂い?」

「もっと匂いで探知できるか、終」

「やってみます」

 終/人から獣/黒豹が鼻を鳴らす

「……この建物一帯からレネゲイド反応があります。けど、なんか栓されてるかんじで、漏れ出してる?」

「ガルム、過去、ここで起きた災いとはなんだ」

「探索開始、リサーチ終了……強靭な能力を持った民の国、それを妬んだ隣国がこの国へと呪いを放ち、国の人々は狂い死んダ……この国の者たちはオーヴァードだった?」

「知らん。が、遺産がありそうだな」

 クールなイクソス

 命令

 探索を行う

 ルナが得意の肉体変化、終とガルムの探索能力、奥へと進む

 広い部屋の一番奥/石で作られた玉座に人が刺さっている

 腐ることも、死ぬこともなく、血を流し続けてじっとしている

「きたか」

 少年

「ここに封じているのは、能力食いの呪いだ。それを生きて封じるために僕はここにいる。僕を殺した者にこれを与えよう」

 血を流して少年

「敵を殺すが己も殺す力だ。僕は、他の力を食らうことができるから相殺し続けてきたけど、君たちはどうかな」

 笑う

 激痛のはずなのにそれを感じさせない/狂い

 痛みと苦しみと孤独に狂った成れの果て/ジャーム

 ジャームの衝動は自分の国を殺したそれを食らい続ける

 飢餓/推測

 イクソスが動く/走る

「ユキサキっ!」

 少年の首を殴って飛ばす

 胸に刺さる黒い刃を抜く

 長い剣――古い形/軽い

 剣――影となって手のなかに収まって消える

 石畳みに転がる首

「ヨルムンガンド」

 囁き。

 大地を覆う蛇?

「あれ……吸収しちゃった。ごめん。消えたって、あいた」

 イクソスの鉄槌/右頬/激痛

「この馬鹿、すぐにぺっしろ、ぺっ!」

「隊長、犬じゃないんだから」

「やだやだ、ユキサキさん、しっかりして、て、あれ生きてるし、しっかりしてる?」

「効果無効化?」

「もしかして、遺産がユキサキさんに食われたとか、ひぃ、こわい、ユキサキさん、こわい、近づかないで」

「君ら、僕のことをなんだと思ってるんだい。ぺって言われてもほら飲み込んで出てこないし、僕は平気だよ。イクソス」

「お前というやつは……はぁ、もう知らん。作戦完了、帰るぞ」

 イクソスのため息。

 仲間たちの安堵

 

 ヨルムンガンド/大地を覆う蛇/すべてを食らいつくす


/


「隊長、大変です。システムがすべてダウン、通信が途切れました」

 テントを張っての野宿準備完了/ガルムの報告

 通信機能/途切れる

 すべての情報伝達の遮断/あきらかに何者かのハッキング/敵

「敵の位置など予測出来なくなったのか?」

「……不可能です」

「包囲される可能性がある、すぐに」

「もう包囲されちゃってるわよ。隊長」

 忌々しげなルナ

「人の気配が複数あります、隊長」

 終/獣化して報告

 獣の五感/敵の察知

「いくらなんでも早すぎる」

「こちらの情報が筒抜けってことかなぁ」

 つっこむ

「……ガルムの機能は全てダウンしているんだ、そういうことだろうな。いいタイミングだ。敵は俺らをみんな血祭にあげるつもりだ。全員、武器を装備、敵襲に備えるぞ」

 沈黙

 全員が武器を持つ

「ここで迎え撃つつもり?」

「ああ」

「死ぬよ」

 断言

「囲まれて、蜂の巣にされるんだ。だったら出来るだけ殺したいと思わないか、ユキサキ」

「僕はただ死ぬのはごめんだよ。僕たちは生き返るけど連続で殺され続ければ回復出来ない。そのうえ生け捕りにされて敵の拷問はね」

 オーヴァードの欠点/生き返ること

 死んでからのロス01秒/その間に弾丸で継続的に撃たれて殺され続ければ対応できない


「……っ」

 オーヴァードの殺し合いは不毛/殺し合いになればどちらも生きたまま繰り返すことになる

 が

 生け捕り――悲惨

「私たちはひどい目にあわされるってことね」

「ルナ」

「アンタも女でしょ」

 ルナの言葉にナナが震える。心は女のナナを気遣うルナ

「隊長、それでしたら自分が囮になります」

 終が提案。尻尾を振る

「ここで夜目がきくのは自分ですし、敵の位置もだいたい把握できてる。戦うなら僕ほどいい奴はいません」

「終、それは……許可できない」

「隊長、ここで全員がジャーム化して敵を殺し続けても不毛ですよ。僕はルナやナナに生きてほしい。僕の相棒であるガルムにも」

「駄目です。隊長、終を止めてください。終、僕のパートナー! 僕ハ君ノ相棒だけど今はフォローできなイ。君は100%捕まル!」

 機械のガルムが感情を出す

 100%。そんな数値を口にする危険性

 終/笑う

「うん。それでひどいめにあっらたさ、僕、弱虫だからさっさとジャーム化しますね。そうしたら、いっぱい敵を殺してやります。いっぱいいっぱい殺してやります。僕の命は僕のものだ。この生も力も、ルナ、君のこと大好きだよ」

「終、この馬鹿」

 ルナが終を抱擁

「こんなときに口説くな。男でもときめいただろう」

「ありがとう。じゃあ、最後の命令違反、許してね、隊長」

「俺がかわりに」

 イクソス/動揺

 掴む肉体

「君じゃあ、終ほどの囮は務まらないよ。わかってるだろう」

「ユキサキ、しかしっ……なにか、いい方法が、っ……ガルムっ」

 静寂

 ガルムの答え

 イクソスは両手で顔を覆う

 顔をあげる

 ロス01秒/決断

「……みんな、行くぞ。騒ぎの音がすれば敵を薙ぎ払って逃げるぞ」

「了解」

 武器を手にとる

 なじむ鉄の音と匂い

 夜/広がる/血

 叫び/雄たけび/息が弾む/汗/花火/


 --生。


 一糸乱れぬ仲間--吐息

 ジャングルのなか/走り続けてようやく来た場所は不明/不愉快な熱/汗

「静かになったね」

「ああ」

 横にいるイクソス

「みんないるよ」

「そうか」

「終の声がしない、死んだかな」

「……銃弾の音もしない。が、その程度でオーヴァードが死ぬか」

 吐き捨てる

「隊長」

 ルナの声

「ここら辺一体に私の一部をばらまいたんだけど、奴ら集まってなにかしてるわ」

 奴ら/敵

「……終を捕らえたのか」

 確信

「どうする? 助けにいく?」

 イクソス/首を振る/否定

「動くのは朝だ」


 沈黙


 再びの音/悲鳴/弾丸/笑い声/不愉快な音――無視をするには大きい


「あいつら、終を殺し続けてるっ」

 ルナの噛み殺した怒りの声

 ルナの肉体分裂による他の場所への分身を残しての視覚共有による情報

「あいつら終を裸にして首輪つけて、殺してる。犬みたいに蹴ったりして……殺してるやるっ」

「やめろ、ルナ。もう見るな」

「いやよ!」

 激動

「あいつら、あいつら、ただの人が、人がよってたかって終を玩具にして、笑って、酒をかけて、火をつけて、燃やしてやがるっ」

「ルナっ」

 イクソスが止める


 悲鳴/炎の柱/爆発


「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!」

 炎を纏った巨大な黒い獣/出現

「あれは」

「終っ!」

 ガルムの悲鳴

「解析不要……理解、あれは相棒の終です! 隊長、敵はみんな撃退してイマス。すぐに迎えに」

 炎を纏った獣が人を噛み砕いて、木々を燃やしている

 悲鳴/悲鳴/弾丸の音/獣は止まらない

 見つめるイクソスの顔/悲嘆

「……終はジャーム化した」

「けど敵を殺してくれてル」

 ガルムの悲嘆

「それは終の衝動が破壊だからだ。自分を殺した相手を殺したいという願いだからだ。目の前の敵を殺し尽くしたら、次はこの大地そのものだ。もう私たちのこともあれはわかるまい」

 人を噛み砕いて、飲み込む獣

 人食いも厭わないバケモノ

「お前たちは退避しろ。あれの決着は私がつける」

「隊長」

 ナナの懇願

「安心しろ、俺はちゃんと帰ってくる。ただあれを仕留める。このまま暴走をし続けて、ここを焼け野原にされてみんな燃え死んでは叶わん」

「僕も行くよ」

 視線/合う

「相棒だろう?」

「……わかった。お前たちは退避後、落ち合うために目印を残しておけ」

 沈黙/敬礼


「どうするの」

「お前は黙ってみてろ。俺がしくじったら逃げろよ」

「了解」

 軽口/進む

 火の熱

 雄たけびをあげる人間/すべて燃えて溶けている

 イクソス/片手をあげる/静止

 視線/合う

 後ろに下がる

 イクソス/進む

 血をしたたらせる

「……我は猟犬、法と秩序のみに従い、徒花咲かすことを本望とする」

 声

 歌う/否/自己暗示

 軍の訓練中/自己暗示における能力向上テスト/唯一最高点を出した--イクソス

「我が最命のブランカ!」

 広がる血

 大地に滴り、形、構成

 すべてが大地に突き刺さった銃/単発式銃火器

 素早く手にとる/撃つ/捨てる/掴む/撃つ/捨てる/掴む/撃つ/捨てる

 一撃/一撃/一撃

 素早い連続/継続/巨大な獣は逃げることもなく肉を抉られる

「汝の名は我が勝利!」

 完全自己暗示にはいったイクソス/単発式銃火器による血の弾丸の連続/重い一撃

 獣が声をあげる/腕を伸ばす/ひっかく、爪

 銃で防ぎ、さらに接近し、撃つ

 構成した武器を捨て獣の腕にのり、さらに進む。どんな場所も登ることのできるパルクールを習得したイクソスは軽やかな進行

 炎を纏う獣の上の進行に皮膚が解けていく、血も沸騰/時間がない

 獣の顔の横に接近

 目に一撃

 悲鳴

 開いた口にさらに一撃/武器構成/一撃/

 獣の長い尾、イクソスの背中を叩き、地面に落とす

 獣がさらに腕を伸ばし、イクソスの腹を刺して、内臓を引きずり出す

 溢れる血、肉

「ブランカっ!」

 イクソスの声

 獣の中にあるイクソスの血で作られた銃弾が集合、そしてはじける

 獣はなかから爆発

 血肉の雨


 黒い夜の闇のなか

 すすけた大地

 イクソスと終

 バケモノが向き合う


「ああ、たい、ちょう……ですね、その匂い。目が……見えなくて、ああ、けどころしたくて、破壊したくて、どうしたらいいでしょうか? たいちょう」

「迎えにきたぞ、終、よくがんばったな」

「……ごめんなさい、役立たずで……あなたをころしたい、ころしたい、ころしたい、ころしたい、ころしてやるぅっ」

「十分だ。さぁ、おいで、破壊したい気持ちのまま俺を殺しに来い。俺がお前を殺してやる」

 獣が声をあげる

 飛び掛かる

 肩に噛みつく

 受けるイクソス

 終の顎に銃口を開けて、撃ち貫く/脳/完全な破壊/完璧な死

「……おかえり、終。お前をこんなところで独りぼっちで死なせてやるものか。俺が連れていく」

 口を開いて、啜る/血

 獣の肉体/痙攣/停止/死

 終の肉体、大地に転がる

 イクソスが振り返る

「ユキサキ、いるな? 行くぞ」

「お疲れ、イクソス」

 沈黙/

 進む/

 前へ/


 その日からルナ/不満ばかり/くすぶる怒り/怒りを向けるのはイクソス/常に噛みついていく/イクソスは相手にしない

 ジャングルの暑い環境

 仲間の反乱/不穏

 気配

 空を見ると黒い影/鳥――否、人

 人が一人。浮いて、いくつもの銃が空中から出現

「いかん! 全員、隠れろっ」

 爆音響く/ジャングル

 集中攻撃――いくつもの火炎武器を召喚、連続攻撃、停止――弾切れ。

 確認/木々が薙ぎ払われている

 人が再び動く

 火炎武器の召喚

「ちくしょう!」

 ルナが叫ぶ/飛び出す

 ライフルの一撃/空中の敵/当たらない

 敵が動く

「ルナ!」

 イクソス/手から血を溢れさせ、壁/集中攻撃/防ぐ

「ルナ、イクソス!」

 ナナ、叫び

「ナナ、ガルム、敵の攻撃を逸らすよ!」

 手持ちの武器――M1903A4/弾は一発

 ナナ、ガルムの攻撃妨害

 敵/弾をはじく/透明な壁?

 相手の能力、空中維持、空間干渉ならば複数は不可能

 敵の意志、ナナとガルムに向かう――撃つ

 頭を狙う/が/肩を貫く

 敵、動きが一瞬停止/痛みの声などなし――推測

「全員、退避!」

 イクソスの声

 ルナを抱えて走り出すイクソス、全員が続く


 イクソスが荒い息で倒れる

「隊長、しっかりしてっ」

「平気だ、少し、血が足りないだけだ」

「あれだけの弾を防ぐのに血の壁なんて作るからだよ。どれだけ血を失ったの?」

 イクソスが睨む。そのあと笑う

「生命維持には問題ないが、走るのは苦しい程度だ」

「隊長の馬鹿!」

 ルナ、噛みつく

「……あいつ、なんなの、重力を使ってるの?」

「メイビー。知らない力だ」

「そんなのチートじゃん」

「僕たちの実験のときは5つ、6つしかシンドロームはなかったけど、それ以外が発見された可能性はある。未知のウィルスだからね」

「ちくしょう」

 ルナの怒りの声

 ナナとガルム、木々のなかから駆け寄ってくる

「よかった、みんな無事ね! あいつ、私たちのこと探してるみたい」

「半径5キロ地点、敵の小部隊も確認、隊長」

「……武器がほぼない状態で戦う羽目になるとはな」

 ため息のイクソス

「君は血を失くし過ぎだよ。終のあと血を失ったままだし」

「ばかよ、隊長」

 ルナが呟く

「私があいつを倒す。ナナ、協力して」

「うん、わかった」

 あっさりと返事する臆病なナナ

「待て、ルナ、ナナ。相手の能力がわかっても」

「エンジェルハィロゥの力で空に浮かんで重力で空間干渉して武器をばんばん仲間からもらって空中から撃つんでしょ? チートにどうするって? そんなのあいつの脳みそ叩くしかないじゃない」

「私は、ルナの相棒だから、私も戦います」

 ナナ、笑顔

「しかし」

「イクソスは戦えない。だから僕たちで相手するしかない。……あの空中の敵だけど撃ったとき反応がなかった。つまりは薬中だよ。痛みや苦しみを感じないようにされてる」

 ナナとルナの顔が強張る。

 オーヴァード武器計画において痛感問題/痛みによる行動の鈍り/回復するための怠り/痛みがない/死んだという感覚がない/イコール/死んだ自覚がないと蘇生意識が働かず永遠停止

 痛みのないぶん、能力の安定

「敵は新しいシンドローム使い。そのぶん能力が不安定なんだろう。だから薬漬けにした」

「つまりは避けるとか自己防衛がないぶん殺しやすいってことね?」

「そういうこと。使い捨てにするつもりなんだろう」

 ルナ/吐き捨てる罵り文句

「人格崩壊してるってこと?」

 ナナの確認

「たぶんね。じゃなきゃ、撃たれたときの反応がなさすぎる。あの重力というか空間干渉の能力は本来かなりの演算能力が使用されるはず。規模が自分のみならまだしも、あそこまで複数の行動を起こすのは普通なら脳が焼き切れる。薬で人格崩壊して命令だけ聞くやつにそこまで複雑なことは出来ない」

「かわりに演算計算による支援行動者の可能性98%」

 ガルムが断言

「可能性シンドロームはノイマン」

 続ける

「そして、そいつは強い磁場を持ってる。じゃなきゃ空間干渉なんて大技を使用して演算が狂わないはずがない」

「理解。強い次元干渉における最大の難点は磁場。磁場による重力、空間干渉の能力定着、そのうえでの行動支援」

「つまりもう一匹を叩けば」

「あれも落ちる」

 ルナ/笑う

「私が敵のところにいって、そいつを叩き殺すわ」

「じゃあ、私は、あの空のふわふわしているやつ」

 二人/決定

「おい、お前ら」

 イクソスが慌てる

「そんな危険なことを」

 イクソスの唇を塞ぐルナ

 乱暴なキス

 血を落とす

「ばいばい、隊長。私、いっぱい甘えたわね。私のこと覚えていてね。私の名も、記憶も、存在も、そしたら今回の危険な任務の怒りはチャラよ」

 優しくルナ、笑う

 ナナのキス

「ふ、ふふ。ナナのことも覚えていてね。ナナ、本名好きじゃないから、ナナでいいな。必ず敵、殺すから生き残ってね」

 イクソスが何か言おうとする前にナナが手を伸ばして黙らせる/化学物質による睡眠

「ガルム、隊長を連れてこのまま逃げて。ユキサキ、フォローをお願い」

 ガルム、イクソスを背負って移動開始

「いいけど、もうこのライフルの弾切れてる。使えるのM870でこっちも弾は二発だよ」

「私の武器も使っていいわ。もういらないし。ちょっとだけ私の目をあんたにあげる」

 ルナ、裸になる

 そのまま溶ける液体状態で素早く移動

 一部の液体がユキサキ/左眼球に入る/視界共有/

 移動

 移動

 発見

 敵の個体――十二人。その中枢部に機械に繋がれた個体発見

 ルナ、人型になる

「うおおおおおおおおおおおっ!」

 接近した敵にタックル、ナイフを奪い、中央の個体に向かう

 撃たれる

 ルナ/倒れる

 フォロー

 視界が黒く染まる前にショットガンの引き金を引く

 悲鳴があがる

 空中の敵が移動開始/同時

「こっちよー」

 ナナが飛び出し声をあげる

「敵はここよ」

 空中の敵、行動停止/銃弾/発射/ナナを撃ち殺す


 ロス0.1秒


 ルナが蘇生。個体に接近、ナイフでそれの首をかき切る。蘇生開始する個体

「いいや、お前はここで死ぬんだよ。お前も私も地獄に落ちるんだっ!」

 ルナの体が――自爆

 あたり一帯包む

 視界共有の痛み

「っ!」

 ユキサキ/その場にうずくまる

「いたた、なんて乱暴な一撃だ」

 ユキサキ/ぼやく

 落下音/空中の敵が落ちた


「う、うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 獣の声

 手足をばたばたと動かす/敵の個体

 近づく血まみれのナナ

 敵の肉体/小さない/子供--観察/五歳の女の子、確認

「……子供だったの。そっか。……一人は寂しいのね、そうよね、私もよ。私、子どもがいたのよ、これでも」

 ナナが敵を抱く

 敵/ジャーム化確認/

 瞬間/敵の周りに次元の穴の出撃/

 多次元攻撃/防ぎようがない/

 ナナの肉体を抉って消滅/消滅/この辺り一帯を抉り続ける

「大丈夫よ、苦しいことも悲しいことも、私がもっていくから」

 ナナが視線を向ける/合う

「ここら一帯に私の毒を振りまいたから、この子も私も死ぬわ。ユキサキ、風にのってこの毒があなたたちのところにいかないように死ぬまではとどめてあげる。だから逃げて」

 ジャームの次元干渉/ナナの肉体に穴が開く/無数/死亡


「うあああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 幼い子供の悲鳴/だんだんと弱くなる/毒の効果/停止/死亡確認

 暴走した次元/敵の肉体を潰し/消える

 敵の死亡確認/そのまま退避

 ルナ/自爆

 ナナ/戦死


 数キロ離れた場所から信号キャッチ

 ガルム

 確認/接近

 木々のなかにぐったりとしたイクソス/抱えるガルム

「信号をキャッチして来たんだけど……機能ダウンしてるんじゃなかったけ? それともそういう嘘をつくのやめたの? 君だよねぇ、僕たちのこと売ってるの、ガルム」

 確信のある質問。ガルムの沈黙。明白な答え

「おかしいと思ったんだ、僕たちの居場所がばれてる。通信機械なんかはほぼダウン中なのにさ。そんなことができるのは機械なんかに精通している雷使い、ブラックドックのシンドロームだと思うけどさ、ここにいるの君だけじゃない。ガルム」

 脳漿だけの存在。それを機械に埋め込んだ。完全なるロボット。けれど心は? 終というパートナーを常に傍らに置いていた。パートナーはバランス。精神的な、肉体的な。

 精神、大量の力に飲まれるための楔。相手がいることへの安心感。

 肉体、不得手を補う。

 終は獣のため考えることが苦手、そのぶんガルムが考える。ルナは肉体を操ることが得意、そのぶん動きがのろい。ナナは化学物質を作り出してフォロー。

 イクソスは――長距離攻撃タイプ。ユキサキ接近攻撃タイプ。

「君がすべての機械をダウンさせて、ここのことを伝えてるんだね。機械は寝なくていいからね。それにノイマンは演算が得意だからね」

「……」

「答えてよ。ガルム」

「イエス。私は裏切者です」

 正解。

「私は軍、上層部より命令によってここの情報を流しました。私には上からの命令を直接聞くようにされています

 裏切れば自爆します。私は人の作った機械」

「……ガルム」

 目覚めたイクソス。どこから聞いていた? どこまで聞いていた?

「隊長、ここでこれを話すことは命令違反にはなりません。遺産回収後、上層部はそれを横取りしようとする一派と対立する者とわかれました

 私は横取り派のまわしものです」

「ガルム」

「私は彼らの命令を裏切れないのです」

「ガルム!」

「先ほどからここの位置情報を流せと命令がきています。命令無視を五分、正確には300秒待機、無視

 約200秒後に命令違反の判定、のち自爆となります」

「ガルム、命令だ。俺を裏切れ。ここの場所を告げろ」

 必死のイクソス

 点滅する機械、予想以上に上の判断は早い

「否定。否定。否定! 命令違反実行……もう、やだよ」

 ノイズ交じりの機械音、幼い言い方。これがガルムの本当の姿

 物理的に戦うことが不可能なほどに貧弱な少年――推定年齢は十歳。脳だけを移植された天才の子供

「終が僕のせいで死んだ、ルナも、ナナも。僕が裏切って……隊長は生きて、生きてほしい。隊長はバディもいるらんだ」

「ガルム、やめろ」

 ピ―――。

 機械音

「コード8999発動、以下自爆システム発動、危険、危険、危険、危険……バイバイ、隊長。ここに敵への信号を送ったから、逃げて。一人でも多く巻き込んで死んでやるんだ。ねぇ隊長、褒めてほしいな。頭撫でてほしいな。僕は機械だから血も吸ってもらえないけど、覚えていてね。

 僕の名前、終やナナやルナみたいに覚えていてね」

 必死のイクソスの体を掴んで引きずる。抵抗を力でねじ伏せて、地面を蹴る。木々のなかを進む。前進、逃げるために前へ。背後で爆発音。足底に力をいれて、その場に伏せる。半径数メートルを吹っ飛ばす威力。

 ガルムが死亡を確信。

 このままだと、ここも危険。

「イクソス、平気かい?」

 胸のなかでじっと背後を見ているイクソスを見る。

イクソスが見つめてくる。

「ユキサキ」

「なんだい」

「お前だな」

「……なにが」

 確信。はぐらかしてもばれる。なぜなら

「俺たちをみんなここまで追い込んで殺したのはお前だな、裏切者のユキサキ」

 ユキサキ/笑う

 道化のように/快楽、快楽、快楽!

「そうだよ、イクソス。僕が裏切者だ」

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