外伝〜《勇者(偽)と勇者(真)その3》村人モブ、勇者と日本語で談笑する〜

ここは防音などが施される、普段は国を揺るがす重要な機密を話し合う場所だ。

その場所に今、俺と勇者が居た。アリアさん、ヘルティス、王様も居たかったらしいが、仕事があるのと混ぜると危険だと思ったので全員追い出した。


「とりあえず始めましてかな? 勇者。……おい、そんなにじろじろ見るなよ、照れるだろ?」


「気持ち悪いことを言うな!」


俺が頬を染めながら言うと、目の前の勇者(真)が机を叩きながら身を乗り出して反論してくる。


「冗談だよ冗談。俺も内心驚いてんだからさ。本当にそっくりだなって」


「……君が僕の代わりに勇者(偽)となった……この世界の住民なんだね? ……とてもそうとは思えないな。本当に日本人じゃないんだね?」


疑り深い勇者だなぁ。


「違うって。俺はモルティーブ。みんなからはモブって呼ばれる」


「……君、それで良いの?」


「聞かないでくれよ。俺だってモルティが良かったんだからさ」


「そ、そうか」


「そうだよ」


変な空気になったじゃねぇか! どうしてくれんだこのやろう!


「……じゃあさ、『犬も歩けばーー』」


「『棒に当たる』だろ?」


「やっぱり君日本人だろ!?」


「違うって!」


本当に違うのに!!!!!


「じゃあ『俺を置いて先に行け!』」


「『なーに、すぐに追いつくさ』」


「やっぱり君日本人だろ!?」


「違うって!」


なんで信じてくれないんだ!!!!!


「『別にーー』」


「『倒してしまっても構わんのだろう?』」


「やっぱり君日本人だろ!?」


「しつこいな! 俺は日本人じゃないって!」


「じゃあなんでこのセリフ全部知ってるんだよ!?」


「俺の村に伝わってるんだよ!」


「嘘だろ!? 他にはなにがあるんだ? 教えてくれ!」


「なるほど、確かに知りたいだろうな。『……だが断る!』」


「しつこいのお前じゃねぇか!」


***


「なるほど。つまり僕のような日本人が、君の村の人々の子孫だと思うよ。だから勇者武器が使えたんだろうね。顔が似てたのは偶然だろうけど、結果オーライだ。ありがとう」


「そう言うことか。謎が解けたよ。実はもう1人の俺説とか考えてたんだけどさ」


「あはは、これだけ僕と君が似てたらそりゃしょうがないよね」


勇者とお互いの状況を整理し合うと言う話になったので、俺の今までを話すとそう推理してくれた。

結果、俺が勇者みたいな日本人の子孫だと言う結論になった。案外あっているかもな。


「それよりも俺が質問したかったことはさぁ、俺が聞いてた口調と違うんだけど、どう言うことだ?」


「……あぁ、そう言うことか。あれは向こうの世界のキャラに成り切ってたんだよ。だから素の僕はこっち」


「いやふざけるなよ! 俺もあんな厨二病っぽい発言しなきゃいけなかったんだぞ!」


「なっ、しょうがないだろ!? テンション上がってたし、つい調子になっちゃったんだよ! 君だって自分が勇者だ、特別だなんて言われたら浮かれるだろ!?」


「その通り!」


「じゃあ許してくれよ」


「『だが断る!』」


「君それ言いたいだけだろ!!!」


***


「とりあえずだな。お前は日本に帰れるんだ」


「うん、ありがとう。僕が逃げ出したのに、魔王を倒してくれて」


「まぁ、勇者の武器、武具があったからな。あれはもう事故。そう流してくれ」


「まぁ、流そう。それで、僕は何をしたら良いのかな?」


「ちょっと人間関係が面倒くさいんだよ。とりあえずおまえは帰れるまで隠れていてほしい。俺は日本に帰る体で村に帰るから、お別れをするんだ」


「なるほど、つまり僕が帰るときに、君は村に帰るんだね?」


「あぁ、入れ違いだな」


「了解した。僕はどこにいればいいかな?」


「……やっぱり俺の部屋が一番安全かな? 他人に目が付くと色々面倒くさくなるし」


「了解した。ならば君の部屋に行こう」


話し合いでそう決まったので、勇者を俺の部屋に案内した。


「大抵ノックされるから、俺がいないときに誰か訪ねてこられたら俺のふりをしてくれ。と言っても王様、ヘルティス、アリアさんら『聖域サンクチュアリ十二騎士トゥエニナイツ』の面々は知ってるから安心してくれ」


「了解した。君はどこにいくんだい?」


「村に帰る前に、ヤリ残したことがあるんだ」


夜の町にな!


「へぇ、お土産でも買い忘れたのかい?」


「あぁ、一番に卒業したって言う自慢話の一つでも持って帰るつもりだ」


これで俺も童貞卒業!!! もうロリコンなんて言わせないぞ!


コンコン


扉を叩く音が聞こえた。


「誰だ? 俺が出るからとりあえず隠れていてくれ」


「分かった」


俺は勇者にそう言って「許可する」と言った。……この口調は実は演技だ。だが真似したその口調も演技だった。つまりは演技を演技していたと言う事……悲し。


「失礼しましゅ……します」


うん。姿を見るまでも、声質が分からなくても誰が入ってきたか分かる。


「勇者様……その、昨日の夜の勇者様は激しかったですね。わ、私、あの時の興奮が忘れられなくて」


やっぱりエミーリオだったか。頬を染めながらクネクネと動いている。

昨日の夜は確か……そうだ、お詫びに添い寝をする予定だったが、その前に魔王軍との戦いを再現していたのだったな。


「ふむ、つい興が乗ってしまった。そっちも喜んでくれて何よりだ。また来い、いつでも相手をしてやろう。その時は朝まで眠らせるつもりはないぞ」


いや〜、あの時は勇者ブシとか忘れて楽しでしまった。だが、悔いはない。もうすぐ帰るしな。

エミーリオも喜んでくれたようだし、結果オーライだ。


「えへへ、言質取りましたよ。今日もーー」


「あ、すまないが今日は外せない用事がある」


夜の街夜の街夜の街ーーーっ!!! ヤルぞ、ついに俺はヤルんだ!


「そ、そうですか。……残念です。……ではまた来ます。私、勇者様が好き……じゃなくて! 勇者様の話が好きなので! そ、それではしつれいしましゅ! ……します!」


エミーリオは言い間違えが恥ずかしかったのか、最後まで噛みながらそそくさと出ていった。

いや〜、やっぱあの子ブレないな。どんだけドジなんだよ全く。


「もう出てきていいぞ」


そう言ってベッドの下に潜り込んだ勇者にそう言うと、勇者はゆっくりと出てきた。だが、その目がおかしかった。

……うん、これはあれだ。アリアさんと同じ目をしている。


「……ロリティーブ(ボソッ)」


「お前もか!? なんなのそれ流行ってんの!?」


勇者にロリコン扱いされた。

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