ROUTE4 「おりがくん」がおうちに来ました

 お兄さんに手伝ってもらうことにした。


 確かに、わたしひとりじゃどこをどうさがせばいいのかわかんない。さっきみたいに一瞬見かけるのを待つだけなんて、いつになるかわかんないし。


「くろづるさんが、お兄さんに手伝ってもらえって言ってた。だから、ケンタ捜すの手伝ってもらえますか」


「ケンタか。首輪は?」


「してないの。先週からひとりで学校をうろうろしてて。わたし、飼い主がいないならうちで飼わせてくださいって、先生にお願いしたの。お母さんも、いいよって言ってくれた。でも……」


 お兄さんが優しそうな顔で聞いてくれるから、だんだん涙が出てきちゃった。


「いなくなっちゃったら、お母さんはもう飼ってもいいって言ってくれないかもしれない。それとも、知らない人に連れてかれちゃったのかな。どうしよう……」


「お母さん、今家にいる? これから会いに行ってもいいかな」


「え、なんで?」


「子どもが知らない男とうろうろするのはまずいから。ちゃんと挨拶して、話をしておかないと。電話持ってるなら、先に話しといてくれると助かる」


「電話、持ってる」


 わたしはリュックから電話を取り出して、家にかけた。


「あの、名前教えてください」


折賀おりが美仁よしひと


 その名前をお母さんに伝えると、電話の向こうのお母さんの声がぐわっとおっかなくなった。まるで宿題を学校に置き忘れてきたときみたいに。


『今すぐ! うちに連れてらっしゃい! 早く!』



  ◇ ◇ ◇



 お母さんによると、お兄さんは「うちのおばあちゃんの命の恩人」なんだって。ビックリだよ。


「みゆりはまだ一年だったから覚えてないかな? 折賀くん、おばあちゃんが外で失くした荷物を一緒に捜してくれて、おばあちゃんを背負ってここまで連れてきてくれて、さらにとなりの駅まで走って荷物を取りに行ってくれたんだよ。つまり、おばあちゃんと、おばあちゃんの大事な荷物の恩人ってこと」


 そのおばあちゃんは、去年亡くなったけど。お兄さん――「折賀くん」は、うちに飾ってあるおばあちゃんの写真に手を合わせてくれた。


「今度はみゆりの捜しものに付き合ってくれるなんて。ほんとに不思議なえんよね。あ、二人ともお昼まだでしょ、これから何か作るからよかったら食べてって」


 お母さんは、早口であれこれ言いながら台所をうろうろ。折賀くんにまた会えたのが嬉しいみたい。


「うーん、あんまいい材料がないなー」


「じゃあこれ、よかったら」


 折賀くんが差し出したエコバッグには、ラーメンの材料がひとそろい。ちょうど三人分。


 お母さんはお礼を言って、さっそくラーメンを作ってくれた。


 食べたらいよいよ、ケンタ捜しのスタートだ!



●・○・●・○・●・○・●・○・●・○


つぎは

⇒ROUTE8 「ケンタ」をさがしに行きます

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897049162/episodes/1177354054897223800

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