白虎竜②
明朝、ゾグルは精鋭5人を連れて湯の
今回の狩りは「飛ばし」で行う手筈となっていた。「飛ばし」は飛竜に対して用いられる方法で、挑発された竜が空を飛ぼうとした瞬間、無防備になった腹を狙うのだ。比較的装甲の薄い部位を狙いやすい利点がある反面、射程の短い
先頭を歩くゾグルが足を止める。視界の先、川がぐるりと湾曲した内側に石などが堆積して陸地が出来ていた。熊の背中のような大岩がいくつか並ぶその場所に薄灰色の塊が鎮座している。小さな山のようなその生き物は日の光を遮るため翼の内側に顔を隠し、尻尾を丸めて眠っていた。
ゾグルたちは岩陰を縫うようにして慎重に近づいて行く。そして身の丈ほどの大岩の側に身を屈めると武器を包んでいた油紙を解いた。
コージョーたち挑発係も既に配置を終えた頃だろう。ゾグルが鳥笛で合図をすると崖の上からも合図があった。
川の流れに乗って、生暖かい風が肌を撫でる様に吹き抜ける。秋晴れの日差しがやけに眩しく、反射光が岩壁を白く塗りつぶす
履き物の中は既にぐっしょりと濡れている。湿気を含んだ空気は重く、息をするたびに不快感がこみ上げてくる。
鳥が1羽、バサバサと音をたてて飛び立った。
ゾグルは背後の男たちに目配せをすると鳥笛で抑揚をつけた特徴的な音を吹いた。
音色を合図に雷の様な轟音が谷を駆け巡る。それと同時に
竜狩りに使われる銃は親指の第一関節ほどの大口径だが、それでも数発では致命傷になり得ない。
「頭骨は高く売れる。傷つけるな!」
遠くからコージョーの声が聞こえて、2度目の斉射が行われる。計十数発の鉛玉を受けた竜はようやく身を屈める。
ゾグルはそれを見ると号令をかけ、稲妻の如く走り出す。次の瞬間には、巨体は空を掴み中空へ飛び出そうとしていた。ゾグルは
瞬刻、雷鳴が走る。
硝煙の匂いと白煙が当たりを包んだ。
「逸れたか」
ゾグルは小さく呟いた。
◯
「大成功だな」
コージョーがゾグルに語りかける。
「あぁ。これだけの竜を誰一人欠けずに討伐出来たことは大きい。……やっと、やっとだ……。親父に……追いついた!」
一際大きな背中をした男の瞳は歓喜に震えていた。
不意に
彼は円を描く動作をしながら叫び続ける。
「……がある。こいつ、つ……だ」
「何だってー!今向かうから待ってろ!」
コージョーが大きな声で吠えるが、トンイは叫びながらこちら走ってきた。
「た、卵がある!」
風が吹き、ふっと日が陰る。
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