第2話◇風が当たった

 仕事帰り、電車の帰宅ラッシュの波に揉み込まれて乗車。


 立つ場所を維持するため、重心をとることにに意識を集中。


 カバンは胸の前、両手でしっかり押さえる。


 駅に着くたびに右へ左へヨロヨロ。


 圧迫された電車からようやく降りたものの、再び改札へ続く流れに乗る。


 流れはそのままエスカレーターへ。


 乗り換えフロアでようやく少し解放された。



 繰り返される毎日の風景、そこに溶け込む自分。


 大勢の中のひとり。


 大波に流される一滴ひとしずく


 ざわざわ、ゴーゴー


 雑踏と電車の音がぐるぐる耳に響く。



 壁ぎわに避けると目の前を通り過ぎる人、人、人……。


 視界もぐるぐる、ぐるぐる。


 よろけたところにはエスカレーターエリアを囲む手すり。


 下方に電車が入って来る音がした。


 ゴーッ! ぶわっ!


 エスカレーターに乗っていた人達の頭上を通り抜け、風が吹き上げて来た。


 前髪が浮き上がる。


 パチパチパチ


 瞬きをするうちに前髪が下がる。


 少しドキドキ。


 いつもと同じ帰宅ラッシュの波。


 少し足を止めてみた。


 流れからよどみに避けてみた。


 ついさっき、いつも流されているものとは違う流れを感じた。


 ぶわっ!


 吹き上げて来た風。


 当たって私の前髪をかき上げていった風。


 大勢の中のでも


 大波に流される一滴ひとしずくでもない


 


 風が当たっていった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る