俺ジナルな卒業アルバムは闇が深い

ちびまるフォイ

カタログマジック

ネットで「卒業アルバム即売会」というのを見つけた。


「おいおい、こんなの個人情報の安売りじゃないか」


などと口では言いつつも、カタログを取り寄せる感覚で購入してしまった。


家に届いた卒業アルバムはどこの学校なのかも含めて、

あらゆる個人情報はわからないようにしていた。


本気を出して画像を特定すればわかるのかもしれないが、

しがない普通のサラリーマンの俺にそんなスキルはない。


「てっきり、卒アルっぽく似せたものかと思ったけど

 ガチで本物の卒業アルバムなんだなぁ」


最後の方にあるページには


"大学いってもがんばれ!"

"またこんど遊ぼう!"


といった寄せ書きがびっしりと書かれている。

本当の俺の卒業アルバムで空白だったページが文字で埋まっていたので少し嫉妬した。


クラスの紹介ページには誰が漫画家に向いているとか、

将来いい奥さんになれる人ランキングなどが書いてある。


名前は出席番号に置き換えられて書かれていた。


「ははは。出席番号26番がめっちゃ人気じゃん」


クラス写真でも26番は美人だった。

人のよさそうな笑顔をこちらに向けている。

きっとクラスでも敵を作らないいい人だったんだろう。


「あーー、こんな人と一緒のクラスだったら

 俺のハリのない学生生活も少しは充実したのかなぁーー」


自分の部屋の真っ白な天井に向けて叫んだ。

白い天井が、空白のままだった自分の卒アルの寄せ書きスペースに見えてきた。


「……待てよ。これ自分でオリジナル卒業アルバム作ったら面白いんじゃないか?」


子供がさまざまな漫画のキャラのいいとこ取りをして、

"ぼくがつくったさいきょうのキャラ"を作るように

目をキラキラさせながらオリジナル卒業アルバムを作ることにした。


そのためにまずは大量の卒業アルバムを取り寄せることにした。


ひとつの卒業アルバムを切り貼りするだけでは限界がある。

俺は業者の発注レベルでさまざまな卒業アルバムを取り寄せた。


「まずはクラスのグループわけを考えないとな。

 人気者グループ、オタクグループ、ヤンキー、地味……」


各グループの人数が偏らないように調整していく。楽しい。


「担任の先生はどうしようかなぁ。個性強めの担任にしようかな」


担任の先生を決めると、クラスのスローガンが掲げられている場合は拝借する。

どういうクラスにしたいのか、どんな構成がいいのか。


まるで自分の理想の学生生活を構築しているようで時間を忘れる。


「ふぅ……だいたいできたな。おや? これは?」


1冊だけ、他とは異なるどす黒い背表紙の卒業アルバムがあった。

とにかく数を揃えていたのでどこで注文したのかは覚えていない。


中を開くと、『裏卒業アルバム』とあった。

掲載人数は普通の"表"卒業アルバムよりぐっと少ない。


名前の代わりに記載されている出席番号の下には退学日などが記載されている。


「これって、まさか途中でいなくなった人の卒業アルバムか!?」


寄せ書きには『担任死ね!』や『こんな学校やめてやる!』『一流のバンドマンになって見返す!』など

表の卒業アルバムにはない強い言葉が書き殴られていた。


「おいおいおい、これは卒アルに加えなくっちゃ!!」


最高の素材を手にしたような気分になった。

すでに卒業アルバムの構築作業は架空の学園生活を作る作業になっている。


裏卒業アルバムの人たちを在籍したことにすれば、

卒業アルバムを通してストーリー性が生まれてくる。


寝食忘れて卒業アルバムを作り終えると、不思議な達成感が生まれた。


「できた!! これが最高の卒業アルバムだ!」


なんとなく過ごし、なんとなく卒業した本来の学生生活とは対照的。

美男美女がばっこする、波乱万丈な歴史を匂わす卒業アルバムが完成。


誰かに見せたくてたまらない。

友達に電話しようとすると、連絡先に知らない人の名前が登録されていた。


「……あれ? これ誰だろう?」


プロフィールを確認しようかと指を伸ばしたとき、

友達らしき人から電話がかかりそのまま受けてしまった。


『もしもし? 〇〇? 今いいか?』


「え? あ、ああ……」


『実は、▲▲高校の同窓会があるんだけど、お前行けそう?』


「▲▲高校!? それは俺が作った架空の卒業アルバム高校じゃないか!」


『……は? 何いってんだお前。寄せ書きにも同窓会やろうねって書いただろ』


「いやそれも俺が別の卒アルから移植したもので……」


『とにかく、案内状が届いてたら返事出せよ。残りはお前だけなんだ。

 みんな会いたがってるんだから無理してでも来いよな』


電話はそれまでだった。


パッチワークのように切り貼りした卒業アルバムだったはずなのに

電話口ではそれが当たり前のように話されていた。


「現実に……反映されてるのか……?」


何度見返しても寄せ書きには"10年後に同窓会で!"と書かれている。

偶然の一致だと考えるには高校名の一致がそれを邪魔してくる。


連絡先のプロフィールの写真を卒業アルバムと見比べてみると

どこか面影のあるひとりを見つけてしまった。


「同窓会、か。これはチャンスなんじゃないか!?」


家に届いていた架空の高校の同窓会のお知らせには「参加」に二重丸して返送。

同窓会開始の前に卒業アルバムの再編集を試みた、


すべては同窓会というセカンドチャンスを活かすために。


「クラスアンケートでは俺がぶっちぎりで1位にしなくちゃ。

 自分の写真も変えちゃおう。クラスは女子だらけにし直しだ!」


初稿はストーリー性重視で男女比率は一定だったが、

大人になったみんなと再開する同窓会となったら話は別。


クラスの殆どを他校から選りすぐった美人で埋め尽くし、

自分のクラス写真はイケメンに上書きした。


クラスのアンケートでは常に自分が上位になるように編集し、

クラスでぶっちぎりの人気者で女子のあこがれに切り替えた。


これにより、同窓会が始まる前にも関わらず

"同窓会楽しみだね"といったラブロマンスを匂わす連絡ももらった。


「ふふふ……同窓会が楽しみだぜ!!!」



1ヶ月後、同窓会の会場に入るとずらり美人が並んでいた。

まるで女優の立食パーティのようだ。


こんな機会に巡り合わせてくれた卒業アルバムに心底感謝する。


男子が俺と主催した男子の2人しかいないクラス編成にしたので、

参加した女子は俺がクラスの人気者その人であるとすぐにわかってくれた。


「〇〇くん!? 〇〇くんだよね!?」


「フッ……気づかれちゃったかな。そうだよ」


今日のためにホワイトニングしまくった歯をキラつかせた。


会場にいた女子たちがわっと俺の周りを取り囲む。

気分はまるで王様のようだった。


「〇〇くんなんだね!」

「10年ぶり~~!」

「すっごーーい!」


「すごい? ははは、そうだね。結構変わったからね」


憧れの先輩を見るように目をキラつかせる元同級生の女子たち。

好意を好奇心という形で表現してくる。


「高校の頃、バンドマンになるっていってたよね!

 文化祭のときでも超かっこよかった! 今はやってるの!?」


「え、ええっと……今は……やってないかな……ははは」


「学校の弁論大会のときもかっこよかったよね!

 卒アルのクラスアンケートでも弁護士になりそうな人1位だったもん!

 今はどんなすごい仕事をしているの!?」


「その……今は……普通の、か、会社員……とか……」


「クラスでも一番スポーツ万能でかっこよかった!

 今でもスポーツはやってるの!? みたいなぁ!」


「今は……特に……あは、あははは……」


みるみる自分の額に脂汗が湧いてくる。

どんどん女子たちの目から「憧れ」の色が失われていく。


このままではまずい。過去の栄光メッキが剥がれ落ちてしまう。


「お、俺のこともいいけど、みんなのことを聞きたいなぁ!

 今、みんなはどうしているの!? 好きな人とかいる!? 俺とか!?」


「私は結婚して今子供が2人。幸せよ!」

「私は今付き合っている人がいるの」

「私はちょうど昨日プロポーズされて」

「私は5人から求婚されたから、無理難題を依頼したところ」


「そうだよね! だってみんな美人だもんねぇ!!」


全員が口を揃えて付け入るスキがないことを親切に教えてくれた。

自分でもコントロールできない涙が出てきた。


「▲▲くんは? 高校のときあれだけモテたんだから、今だってもちろん変わってないのよね!?」



最後の一撃が入ると俺の心臓は動くのを止めた。

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