第8話「ドラゴンゾンビ戦」

 ドラゴンゾンビーーー。

 ドラゴンがアンデット化して生まれたモンスター。ブレスこそ吐かないものの、アンデットと化したことで身体能力のリミッターが外れ、生前のドラゴンよりも高い物理攻撃を誇る。

 腐ってもドラゴンなので、耐久力にも申し分なく、かなり討伐の困難なモンスターとなっている。

 アンデットモンスターには『ターンアンデット』が効果的なのだが、このサイズともなると......。


 小さな屋敷ぐらいあるそれは大きく腕を振りかぶりーーー。


「二人共!私の後ろに下がれ!!」


 咄嗟に剣で受け止めると共に、激しい金属音とものすごい衝撃に襲われる。体が十メートルほど後方に吹き飛ばされる。


「ダクネス!」

「ダクネスさん!」


 前方でクリスとレナの声が聞こえる。前衛で高い防御力を誇る私ですらここまでのダメージだ。あの二人が先程のような攻撃を受ければひとたまりもないだろう。


「なんて攻撃だ。咄嗟の防御とはいえここまで吹き飛ばされるとは!私は前衛として先程の攻撃を一人で引き受けなければならない!......んんっ!これから私はどうなってしまうのだッ!」


「いやいやダクネス、全部が全部受け止める必要ないから!避けれるのは避けたらいいから!」


「だめだクリス。あれほどの重くて気持ちいい攻撃を受けずにはいられるか!」


「今気持ちいいっていった?」


「言ってない」


「言ったよね?」


「言って......ない......」


「ちょっとクリスさん!ダクネスさん!次の攻撃が来ますよ!避けて下さい!」


 レナがそう叫ぶと間髪入れずに次の攻撃が来る!


「私が壁になろぉぉぉう!!」


 私は二人の壁になるよう、身を投げ出した。


「え?ちょっ、ダクネス!?何やって......」


「クリスが何か言ってるがもう遅い!さあ、ドラゴンゾンビよ来い!貴様のその汚らわしい体で私を屈服させてみあふぅぅ!!」


 素晴らしい!素晴らしいぞドラゴンゾンビ!こんなにも重くて気持ちいい攻撃は初めてだ!


「もっとだ!もっと来い!貴様のその攻撃で私を満足させてみろ!」



「あ、あの......クリスさん?えっと......ダクネスさんってMとはわかっていたのですが......その......これは......」


「うん。ここまで行くともう手遅れだよねー」


「あはは......。ですがまあ、あのドラゴンゾンビの攻撃をあそこまで受け続けて死なないというのは凄いですね」


「ははは......。ダクネスはね?スキルポイントをすべて『物理耐性』、『魔法耐性』、各種『状態異常耐性』に全振りしてるからね......うん」


「えっ、そうなんですか!?......ちなみに『両手剣』スキルというのは......」


「勿論取ってなかったよ?すごいよね!」


「道中ダクネスさんの攻撃が当たって無かったのは私にレベリングをさせるためとかじゃなく......」


「単に当たらないだけだよ?」


「それじゃあ、盾としては最強だけど攻撃面に関してはポンコツじゃないですか!」



「んんっ......!」


 なんか何処かで罵られている気がする!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 しかし、ここまで攻撃を受けてきて今更なのだが、


「ドラゴンゾンビなんて聞いてないぞ、クリス!」


「いっ、いやー、宝と一緒に不穏な空気の正体も討伐しようと思ってたけど、ははは、まさかドラゴンゾンビだなんて思ってなかったよ......」


「不穏な空気?!そんなものを感じていたなら先に言え!ギルド総出とはいかないものの、もう少し人員を増やせばなんとかやるものを!私達三人だけでは少々分が悪いぞ!」


 クリスは右頬を掻きながら困った顔をしている。クリスは時々かなりアホなことをすることがあるが、ここまでとは......。しかし、攻撃が気持ちいいのはいいのだが、このままではジリ貧になり全滅しかけない。私達のパーティーはバランスが取れているのだが、圧倒的に火力が足りない。私がそんなことを考えていると後ろからレナが、


「二人共下がって下さい!ドラゴンにはドラゴンです!降臨せよ、『サモン』!!!」


 そう叫ぶと眩い光と共に私達の眼前に一匹のドラゴンが現れた。


「ドラゴンさん!あのドラゴンゾンビさんを倒して下さい!お願いします!」


 レナの言葉を聞き入れたのか突然現れたそいつはドラゴンゾンビと取っ組み合いを始めた。


「「え?」」


 クリスが鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている。多分私も同じような顔をしてるだろう。そこにレナが駆け寄って来て、


「ダクネスさん、大丈夫ですか?怪我でもあれば言って下さい!私の回復魔法でヒールしますから」


 いやいやそれはそれでありがたいのだがそうじゃないだろう。あのドラゴンは何なのだ?

 私の思いを察したのか、レナが


「あのドラゴンさんですか?あのドラゴンさんは私の神器で召還し、使役させてもらってるんです!」


 え?神器?召還?使役?


 ただ者ではないとは思っていたがまさかの神器持ちだったとは......。


「私の神器はランダムにモンスターを召還して、対価も無しに使役することが出来るものなんです!」


「あれ?けどさっき、ドラゴンにはドラゴンって言ってたけどランダム召還なの?」


 クリスがそう尋ねる。たしかにランダム召還ならドラゴン以外が出てくることだってあるわけだし。むしろ都合良くドラゴンが出てくる方が確率的に低い。


「あ、そこに関してはですね、この神器さんは私専用で使っていく内に私に馴染んで来てですね、ある程度の思いも反映してくれるようになったんです!」


「なるほど!それはすごいね!めちゃめちゃ便利だね、その神器!」


「そうなんですよ!けどモンスターを召還するまでに少し時間がかかるので、誰かが前衛で守ってくれないと召還どころじゃないので......」


「なるほどねー。たしかに前衛は必須だね」


「そういうことか。私がドラゴンゾンビに一方的に攻められているのが逆に良かったと言うことか!」


「ええ。結果的にそうなりますね。すみませんダクネスさん、盾になってもらってばかりで」


「いや、誰かを守るのは騎士として当然の務めだ。しかし、もうちょっとだけ、攻められていたかったものだな......」


「「………」」



 そしていつの間にかレナの召還したドラゴンがドラゴンゾンビを倒していた。


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