VS新聞配達‼

さとうたいち

新聞マニアの父


うちの父は新聞マニアである。マニアといっても、ヴィンテージ新聞を好きな方ではなく、紛れもない新作が好きな方のマニアなのだ。


そう、それは朝。ポストに投函される音を聞くため、父はまるで、iPhone発売のように、ポストの前で夜を過ごすのだ。


コケコッコー


このために、新聞配達が始まったら鳴くようになってるニワトリを買った父。その歌で起きる、父。48歳。


楽しいのであろうか。人生、楽しいのであろうか。人の幸せに他人がツッコんじゃだめだよ、てっぺんくん。だれてっぺんくんて。


そんなことを書いていたら、陸上部の新聞配達がやってきている音がする。


ダッダッダッ


父の家。そして僕の家。さん都海運牛努め下三丁目十の十十十を目指し、やってくるのだ。この住所は高い確率で焼肉屋さんだと思ってくる方がいます。※ジュージュージューて意味だよ多分


陸上部の新聞配達、金地小五郎くん。17歳。父は新聞配達人の名前や年齢まで把握している。先日は陸上部の練習方法に口出しをしていたくらいだ。


金地くんは優秀である。百メートル走で全国一位にはならないけどすごく優秀で、なる早で結婚できるくらいの優秀さなのだ。ちょうどいい優秀さだ。親友と呼んでくれる友人が結構いるタイプだ。


そんな金地くん、新聞配達はわずか3秒で終わらせる。すごワザだ。ハンパない。なんてったって、うちの父しかとっていないからな。


金地が配達しているのは、シュークリームおあずけ新聞。名前の通り、あれな新聞なので誰も取る人はいない。取るのは新聞マニアのごく一部の人のみ。


そんな新聞配達人、金地がどんどん近づいてくる。


ダッダッダッ


あと二メートル。


ダッダッダッ


あと一メートル。


ダッ


あと十センチ…!


ダッダッダッ


え?


ダッダッダッ


え?ちょ、え?


ダッダッダッ


金地くん?え、金地くん!?金地!おい!


金地は一件しかない配達箇所を通り過ぎ、走り去っていった。


え、え、ちょっとまって!父が暴走してしまいます!「暴走してしまいます!」父は、新聞を与えないと暴走してしまいますのですございます!


「全国民に継ぐ、父、暴走してしまいます!」(全国放送)


そう、父に新聞を与えずらんば、今日こその景色下手ずるせよなのだ!母上に伝えなければ!


「母上、父、暴走してしまいます!」


母上「なに!?なぜだ!?」


「金地、通り過ぎました!」


母上「今すぐ追え!今すぐ追え!私はママチャリで回り込む!」


「はい!」


というわけで、我、金地、追う!金地、待ってろよ!


一方その頃、シュークリームおあずけ新聞本社では。


社員「お願いします!」


社長「だめだ!うちはシュークリームをおあずけする新聞だ。芸能人のスキャンダルなど報じない!」


社員「そこをなんとか!」


社長「だめだ!」


社員「はい!わかりました!辞めさせていただきます!」


社長「え、ちょまてよ。あ、ナチュラルにキムタク出ちゃった。いやあのさ、会社には君一人しかいないんだよ。辞めないでくれよー。シュークリームおあずけ新聞の歴史、止まっちゃうよ?いいの?」


社員「いいです!入社した当初から、社長のエゴ新聞だと思ってたんで!間違えました!クソ新聞です!」


社長「辞めることになった途端、言うね!」


社員「それにアルバイトの金地くんいるじゃないですか!社長には見えてないってことですか!ひどいっすね!さすがエゴイスト!間違えました!エクソシスト!」


社長「なに、すーごいわかんない。着眼点が悪口の方にいっちゃって全然わかんない。」


社員「そうですか!では、さようなら!」


ダッダッダッ


社長「まってよー!」


ダッダッダッ



さて、こちらの金地追いかけっこのお話に戻りますと…あら、こちらはターゲットを見失ったようであります。


「ちょ、え!?お母様!?」


お母様「なぜだ!?なにゆえだ!?ま、まさか…!!」


「なんですか!お母様!」


お母様「あいつも…飛べるのか…!」


え?あいつ飛べんの?え?あいつもって何?おっかあも飛べんの?てことは僕は遺伝子的に飛べんの?


母上「ほら見ろ!息子よ!金地あそこじゃ!」


空を指差す母上。空を飛ぶ金地。追いかけて飛ぶ母上。呆然と立ち尽くす僕。空はいつもよりも青く感じた。



社長「ちょっとまって!ねぇ!待ってってば!」


社員「しつこいんだよ!クソ新聞野郎!」


社長「訴えることできちゃうくらい悪口ひどいからね!?」


社員「あ!あれは!絶対に誰も買わない新聞を唯一買っているという変態の息子さんだ!」


社長「お客さんじゃん!なんてこと言うんだよ!」


ききーーっ!


社長「すいません。うちの社員が」


社員「もう社員じゃねーよ!お前も突っ立ってねぇでなんか言えよ!」


僕は頭の中が空っぽになって、空に指を指すことしかできなかった。


社員「え?」


社長「なに?」


社長と社員「人じゃん!!いや金地くんじゃん!!いや絶対に買わない新聞を唯一買っている変態の奥さんじゃん!!」


社長「なんか勢いで言っちゃったよ!」


社員「そんなことより空飛んでんじやんけ!どういうことだよ!おい!説明してくれよ!どういうことなんだよ!どういうことなんだって!」


社長「ドラマぐらい聞くじゃん!ドラマでしかやらないのよ!その聞き方」


僕はただ呆然と立ち尽くすだけだった。太陽はいつもより燃えていて、富士山はいつもよりでかかったんだ。


社員「しゃべれ!おい!何してんだよ!お前はボーリングのピンか!倒してやろうか!なあ!11ポンドで倒してやろうか!」


社長「やめなさい!それより見て!ほら!」


母上と金地が空から帰ってきている。それはまるでフランダースの犬の逆再生のよう。


社員「もっといい例えあったろ!」


社長「なににツッコんでるの!?虚像?虚像がいるの?」


社員「いや虚像だったらお前と一緒にこんなことやってねーよ」


社長と社員「てへへへへ」


社長「じゃないよ!」



社長と社員の路線がどっか行ってる合間にママンと金地が地上へ戻ってきた。僕は相変わらず顎がしゃくれているままだ。 


社員「それ関係ねーよ!」


社長「虚像?」


社員「いや虚像だったらお前とこんなんやってねーよ」


社長と社員「てへへへへ」


社長「やめない?これ」



降り立った金地は「Sorry」と書かれたコピー用紙を八十枚ほどばらまいた。


母上「反省しとるけん。許しやってや。」


社長「西の方の人だったんですね。いや、というか何がですか?」


謝る人を間違えたのである。最初からここまで三秒の出来事であった。


社員「短っ!超人たちの集いなの?」


ということはまだ大丈夫!行け!金地!走れ!金地!君の走力なら行ける!行けぇーーーー!




社員「いやてか、飛べるじゃん」


金地は飛んだ。屋根まで飛んだ。屋根まで飛んでこわれ


母上「縁起でもないこと言うでない!」


社長「どこの人なんだろ」



そんなこんなで金地は無事に新聞を届けた。僕の父親はこのどんちゃん騒ぎなんて知らずにただただ、いつもと同じようにシュークリームおあずけ新聞を読んでいた。


一件落着だ。


あ、あのあと、社員がどうなったかって言うと。それはまた、別のお話。


あ、あのあと、金地がどうなったかって言うと。それもまた別のお話。


そして、あのあと、僕がどうなったかって言うと。それもまた別のお話。



社員「別の話多すぎだろ!ばかか!」


社長「言わないの!そんなこと言わないの!」



ということで。


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VS新聞配達‼ さとうたいち @taichigorgo0822

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