失態⑧ 

 眩しい日差しが降り注ぐ中、俺は校内のプール場に来ていた。

 今日は土曜日。本当は登校日ではないが、かくかくしかじかでプール掃除を頼まれたのだ。



「やっぱりこの面積を一人で掃除するのは、かなり大変そうだなぁ……」



 訪れているのは俺一人だけ。まぁ春香と名取は頼まれていないし、当然っちゃ当然なのだが、なにかこう、違和感を感じる。だって俺なんにもしてないんだもんっ。



「とりあえずやってくか~~……って、へ?」



 んーと軽い伸びをしていると、なにか背中に柔らかいものが当たった。なんだろうこれ。弾力があって、しかも凄く大きい。……ん?大きい?



「おはよっ。正幸君」



 後ろからブラウスの名取に抱き着かれていた。



「ちょ、おまなんでここにいるんだ――ってか急に抱き着くんじゃねぇ!」


「でも、正幸君私のおっぱい好きでしょ……?」


「揺らすな揺らすなっ!目に毒だから!」



 両腕で挟み込んでボヨンボヨンと上下させる名取。それがえろすぎて、思わず元気になっちゃいそうになる。


 そんな時、更衣室の方から弾けた声が聞こえて来た。



「まー君っ。今行くからちょっと待っててね~~」



 そしてすぐに、これまたブラウス姿の春香がこちらに駆け寄ってきて――固まった。



「……なんであんたがここにいるのよ泥棒猫」


「……それはこっちの台詞セリフ。屑犬女は早く帰って」


「は?私はおばさんに頼まれたからここにいるんだっつーの」


「それはおかしい。だって私が頼まれたんだから」


「それ、どういうことよ……もしかしてっ!」



「仕組まれたっ」と同時に発する二人。なんかこの子たち、色んなところでちょいちょい馬が合う時があるよね。姉妹みたいだ。



「あーもう、せっかくこっそり相談したのにっ……」


「屑犬女はやっぱりズルい。そういうところがいけない」


「そういうあんたもこっそり相談してたんでしょっ!」



「バチバチバチ」と火花を散らしながら睨み合う。俺はその光景をただただ茫然と見ているだけしか出来なかった。飛び火を食らいたくないからねっ。



「とにかくやるわよ!人手が多い方が助かるしそれで良しとするからっ」



俺と春香と真奈は各々に散らばって、その場所の掃除を開始した。


チラと二人の様子を見る。……喧嘩している時はどうなることかと思ったけど、根は真面目だ。二人共黙々と作業をしている。


俺には春香と名取がなぜあそこまで仲が悪いかなんて分からない。それに、その理由は多分俺は知らなくて良いことだ。だから聞いたりするつもりはない。


だけど、少しばかり仲良くなってくれればなとは思う。大切な友達と友達が喧嘩をしてるところなんて見たくないんだ。



「はぁ……どうしたら良いんだろうなぁ~~……」


「どうしたの?なにか考え事?」


「あぁ。ちょっと思い悩んでて……」


「そっかそっか。ならさ――」



おもむろにブラウスのボタンを外していき、こう呟いた。




「――私が癒してあげよっか?」













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