たとえばそれはシンデレラのような。

第1話 最底辺の男

7月。都内。

そびえ立つ高層ビルの合間を、ボロボロのママチャリが走り抜けていく。

等間隔でママチャリからなるギシギシという音は、街を包む蝉の音と共鳴しているようだ。

太陽は容赦なく、ママチャリを漕ぐ彼へと光を浴びせかける。

気持ちいいぐらいの快晴。

今日は絶好の体育祭日和だ。


「はぁ…はぁ…」


首に伝ってきた汗を拭って、立ち漕ぎに変えてペダルを懸命に踏み込む。彼の銀色の髪が風で静かに揺らされていた。


ビル街をぬけ、「大桜学園」とかかれた門を通り抜けた。自転車をゴミ置き場横に止めて、発展したビル街とは真逆の時代を感じる校舎へと走る。


時刻は8時半前。遅刻ギリギリだ。

人目を気にしながら彼________マリウスは教室へと向かった。


本館3階。2年F組の教室の扉に手をかけ、短いため息をついた後にゆっくりと扉を開けた。

教室に入るなり、賑やかだった教室は水を打ったように静かになった。


うつむきながら、窓側の1番後ろ、つまり教室の隅にある自分の席へと向かう。

クラスのあらゆる所から汚物でも見るような冷たい視線がマリウスに向けられた。


(はぁ…こうなるから寝坊はしちゃダメなんだ…)


席につきカバンから小説を取りだして読み始めた。





マリウスがクラス中から白い目で見られる理由。

スクールバスがあるのに1人だけ自転車登校をしている理由。

教室の隅に自分の席がある理由。

それらは全て、血液型のせいだ。





この世にはα型、β型、γ型という血液型がある。

人口10億人中無能力のα型が50%、身体強化のβ型が40%、魔力や変形などの特殊強化のγ型が10%という割合で、これに加えてβ型とγ型は99.99%の+、0.01%の-で区別される。


血液型はα型、β型、γ型の順にできる仕事の幅が大きく変わる。だから比例して社会的地位もその順になるのだ。


マリウスはというと、+α型。

つまり、地位的には1番下だ。

しかし割合では1番多い血液型だ。1人だけ差別されるのはおかしい。

こうなってしまった理由は、基本的にβ型以上しかいない大桜学園に運良く合格出来てしまったせいなのだ。

この学園の試験には「血液型による自己PR」があり、大抵はそれでいい結果だった生徒が合格する。

学力テストは形だけだ。

しかしマリウスはそんなことを調べずに地方から受験し、運良く全教科満点をとってしまった。

それで学園側も不合格にするわけにもいかず、入学できたというわけだ。

α型はこの高校にマリウスただ1人。

つまり、完全に場違いということだ。


このような理由で入学してからマリウスは「α型だが首席」という経歴がよく思われず、友達の1人もできなかった。


つまり、嫌でもクラスメイトと協力しないといけない体育祭はマリウスにとって絶望的な行事なのだ。


(血液型なんて無ければいいのに。)


何万回と頭に浮かべた言葉を、再び脳内で繰り返した。

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