認識-2

 この町の中心には塔がある。

 正確に言えば、塔の周りに町があるというべきだろうか。

 塔を中心にできた町なので、こういう場所はとうまちと呼ばれる。


【赤魔道士】にクラスチェンジし終えた俺は、それに見合った装備を身につけた。


「この装備も久しぶりだな」


 ミスリルの軽鎧の上から赤いローブを羽織り、腰にミスリルのロングソードを佩く。

 兜や盾は装備できない。

 身につけること自体は可能だが、そうすると魔法やスキルの効果が下がったり、動きが鈍くなったりするのだ。

 ちなみに装備できる武器は片手で扱える剣と杖のみ。


 こういったことは【赤魔道士】に限らず、クラスごとに相性のいい武器や防具があり、相性の悪いものを装備するとクラスによって得られる恩恵が著しく下がることもあるので、気をつけなければいけない。


「うむ、似合っておるの。ではいこうか」


 クラスチェンジに立ち会ってもらったギルドマスターとともに、ギルドから直通の通路を通って塔の入り口に向かう。


「お、ギルマスじゃないですか」


 入り口を見張る衛兵が、ギルマスに声をかけてきた。


「ほっほっ、ごくろうごくろう」

「どしたんすか。現役復帰っすか?」

「いや、ちょいとこやつの面倒をな」


 ギルマスの視線を追った衛兵と、目が合う。

 彼はよくここで目にする人だが、いつも片眉を上げてなにかを窺っているようで、あまり好きじゃない。

 彼は片方の目を見開き、もう片方の目を細めてじっと俺を見据え、軽く顔を近づけてきた。


「おー、ウォルフんとこの【赤魔道士】じゃねぇか」

「……どうも」


 ここでも【赤魔道士】呼ばわり……。

 いや、事実ではあるんだけどな。


「ソロになったというんでな、どれくらい戦えるのか見てやろうと思うての」

「お、やっと辞めたのか。そいつぁめでてぇや!」


 そう言った彼は、嬉しそうに両目を細めた。彼のこんな表情を見るのは、初めてかもしれない。


 そうか、足手まといの俺が抜けたことで、狼牙剣乱が次の塔に行けたことが、そんなにめでたいのか。


「レオン、お前さんランクはどうなっておる?」

「暫定Dですね」

「それだと何階までいけるんじゃったかな?」

「あー、Dだと35階までっすけど、暫定なら30階っすね」

「では21階から行こうかの」


 塔には10階ごとに転移陣があり、攻略した階であれば、いつでも転移が可能だ。

 俺はギルマスと一緒に、21階に転移した。


「とりあえず30階まで、ソロで攻略してもらおうかのぅ」

「え!?」


 20階台はそれほど難易度の高い階層じゃないけど、初級職がソロで攻略できる場所じゃないはずだ。


「お前さん、最上階を何度も攻略しておるんじゃろう? いまさらなにを驚いとるんじゃ」

「いや、それはメンバーがいたから……」


 ギルマスの言うとおり、ここのところはパワーレベリングついでに何度も上層階から最上階までを周回したけど、上級職ばかりのメンバーが弱らせたモンスターにとどめを刺すだけの、簡単な作業だったからなぁ。


「心配するでない。なにかあれば儂が助けてやるでの」

「はぁ、そういうことなら」


 そんなわけで、俺は冒険者になって初めてソロで塔の攻略に挑むことになった。



「あっという間に25階まできたではないか。思うとったよりずいぶん順調じゃぞ?」


 自分でも驚きだった。

 たしかにパワーレベリングでは弱ったモンスターばかりを相手にしていたけど、だからって瀕死になるまで弱らせるのは難しい。

 ときには充分体力の残った敵を相手取ることもあり、ある程度の戦闘はこなしていたので、それなりに経験を積めていたのだろうか。


 上層階のモンスターに比べて、中層階の敵は驚くほど弱かった。


 あと、なにげに驚いたのが、よぼよぼに見えるギルマスが、結構速いペースで走る俺にぴったりとついてきて、かつ息も切らせていないことだ。

 やっぱギルドマスターって地位は伊達じゃないんだな……。


「しかし複合属性の、しかも《ブレット》系を使えるとはのう」

「一応【黒魔道士】はレベル20初級リミットレベルなんで」


【赤魔道士】が使える攻撃魔法は、《地》《水》《火》《風》の単属性と、各属性の矢を飛ばす《ボルト》系のみだ。

 しかし【黒魔道士】は《炎》《氷》《雷》といった複合属性に加え、《ボルト》系よりも威力の強い《ブレット》系の攻撃魔法を覚えられる。

 そして1度覚えた魔法は、別のクラスになっても使うことができた。

 他のクラスになると魔法効果は著しく下がるのだが、【赤魔道士】に限っては、初級魔法ならそこまで効果を下げずに使用可能だ。


「剣術、体術もなかなかじゃし、敏捷性も大したもんじゃわい」


【戦士】【喧嘩士】【斥候】を極めているからだろうか。

 ギルマスがいうとおり、本気で戦ったとき、以前よりも身体が動くようになっていた。

 もしかして、俺って結構強いのか……?


「でも、そろそろひとりじゃあ、しんどくなってきましたよ」


 とはいえ25階まで来ると、ソロでは厳しくなってきた。


「ふむ。先ほどから気になっておったんじゃが、なんで支援魔法を使わんの?」

「え、だって支援魔法はメンバーの支援に……」


 もしかして、自分にも使えるのか?

 俺はパーティーのサポート要員で、支援はあくまでメンバーを強化するためにだけ使っていたし、それが当たり前だと思っていたんだけど……。

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