第28話 変態後輩と露出未遂

「――おい起きろ。遅刻するぞ」


 俺のベッドで相変わらず布団に包まれてすやすやと寝息を立てる奏多。

 どうせ、その布団の下は全裸に決まってるので、体を触って起こすわけにもいかず、声をかけて起こそうとしているけど、こいつはマジで中々起きない。


「……むにゃ、せんぱぁい……?」

「起きたか……どうした?」


 布団に体を包んだ状態で上体を起こした奏多は、何かを探すようにゆっくりと辺りを見回し始めた。

 何を探してるかは知らないけど、下着や衣服じゃないことだけは確かだな。


「……わたしの赤ちゃんはどこですかぁ?」

「こっわ!? お前どんな夢見てたんだよ!?」

「……わたしとせんぱいに子供が出来る夢ですぅ……」

「聞いたら聞いたで怖いわ! いいから、起きて準備しろよ? 俺は朝食準備してるから」

「はぁい……起きてますぅ……起きてますよぉ?」


 ……大丈夫だろうな?


 心配をしながら、俺は諸々の準備を終えて、奏多の様子を見に部屋に戻る。

 ちなみに、未来さんは奏多の部屋でまだ寝てるはずだ。

 流石に俺たちが学校に行く時間に未来さんを合わせて起こすわけにもいかないからな。


「くぅ……すぅ……」

「何で優雅に二度寝決めてやがんだお前はぁ!?」


 やっぱりダメじゃねえか! 無理にでも起こしておけばよかった!

 結局、奏多が寝坊したおかげで俺まで遅刻ギリギリになって、朝から全力ダッシュをするはずになった。


◇◇◇


「はぁ……はぁ……ここまで来たら、遅刻はまずないだろ……はぁ……」

「せんぱいすみません。わたしのせいで」

「本当にな……二度寝しなければ余裕で間に合っただろ……お前朝飯すら食えてないし」

「まあ、朝食ぐらい抜いてもなんとかなりますよ!」

「……ほら、とりあえずゼリーとカロリークラフトでも食ってろ」


 奏多用に家から持ってきておいた栄養補給食を鞄から出して渡す。

 

「ありがとうございますっ。流石せんぱいですね」

「備えあればってやつだ」

「むぐむぐ……あっ、ふぉういえばふぇんぱい」

「飲み込んでから喋れ。おら、水」


 カロリークラフトは固形物でパサパサしてるからな、飲み物も準備済みだ。

 なんかこいつが何をしでかすか分からないから、いろんなことに備えるようになってしまって、見事に重宝してる。


「そういえばせんぱい。どうやらわたし、下着を着用してくるのを忘れてしまったみたいです」

「……上と下、どっちだ?」


 俺クラスに慣れると、もはや下着の付け忘れ程度じゃ驚かない。

 むしろ、真顔でどっちを忘れたのかを確認レベルだ。

 完全に毒されてる。


「上下セットで付け忘れましたっ! てへっ!」

「両方!? せめて片方にしろよ!」


 ……よくよく考えれば、ブラを付けてるのにパンツを履き忘れるような状況なんてあってたまるか!

 ブラの付け忘れならよく聞くけど……その逆、もしくは両方を忘れてくるのなんてこいつだけだろ!?


「というかもっと早く言えよ!」

「いえ、遅刻したらあれかなと思って」

「遅刻なんかよりノーパンノーブラの奴を登校させる方がまずいわ! クソッ……お前今日体育はあるか?」

「ありますよ。じゃあ短パンと体操服を制服の下に着ればいいんですね?」

「……そうだけど、えらく聞き分けがいいな」


 いつもならもう少しごねてから、渋々着るってパターンなのに。


「んー……せんぱい以外に見られて喜ぶような趣味はありませんからね。それじゃ変態じゃないですか」

「俺が見ても見なくてもお前は紛れもない変態だよ!」


 どの口が変態じゃないなんて言いやがる! お前が自分のことを変態って認めてるのはもう知ってるんだからな!


「とりあえず、公園のトイレとコンビニのトイレのどっちで着替えるかだな」

「個人的には公園のトイレの方が興奮しますよね! コンビニのトイレでなんて話はあまり聞きませんし、メジャーなのは公園のトイレだと思います!」

「何の話だよ!? 俺着替えの話してたよね!?」 


 って、こんなことしてる場合じゃない。 

 早くこいつに体操服を着用させないと……でも、体育が終わったら汗もかくだろうし、ずっと体操服を着せておくのも無理があるよな……。


「仕方ないから未来さんに連絡して持ってきてもらうか……」


 公園に行き、奏多が着替えてる間に未来さんに連絡を取った。

 ……あー、朝から疲れた……。今から学校が始まるってマ? もう帰って寝たいんだけど……。


◇◇◇


「はいこれ。司ちゃんの下着。妹がごめんね、大地君」

「いえ……こちらこそわざわざ来てもらってごめんなさい」


 2時間目が終わったあとの僅かな休憩時間に、未来さんが奏多の下着を持ってきてくれたので、俺は校門まで出向き、紙袋を受け取った。

 

「全く……司ちゃんは帰ってきたらお説教だね。寝坊した上に、下着まで忘れるなんて……しかも上下って……」

「心中お察しします……」


 妹が変態ってどういう気分なんだろ……妹がアホだと疲れるってことなら分かるんだけどな……。

 というか性知識は無いのに、見られたりそういうのは恥ずかしいっていう感情はあるのか? 未来さんは一体どの程度までの知識を知ってるんだろうな。


「じゃあ、俺は今から授業なんで戻ります。ありがとうございました」

「うん。司ちゃんによろしくね」


 未来さんが手を振って、校舎の中に戻る俺を見送ってくれた。

 あー……疲れた心と体が癒やされていく……。


 自分のクラスに戻る前に、これをあの変態に届けないとな。

 急いで奏多のクラスに向かうと、クラス内で談笑している奏多を見つけた。


「……ん?」


 クラス内に足を踏み入れると、何故か違和感を感じた。

 何だ? 奏多との仲を誤解されたままの俺がこのクラスに来ることはそこまで不自然じゃないよな?

 いつもみたいに……『ああ。奏多に会いに来たのか』みたいな視線じゃないような気がする。


「あ、せんぱい」

「ほら……未来さんが持って来てくれたぞ。……ところで、何か妙な空気なのは俺の気のせいか?」

「あー……それはですね。さっきお姉ちゃんと校門で会ってるせんぱいの姿は1年の教室からは丸見えで、せんぱいがわたしっていう彼女がありながら綺麗なお姉さんと密会しているように見られたらしいですよ」

「……はぁ?」


 何かと思えば……そんなことか。

 奏多のお姉さんとは思わないかもしれないけど、そこは普通俺の親族だってことを最初に疑うだろ……なんですぐに恋愛方面で物事を考えるかね……。


「もう授業が始まるし、俺は戻るぞ」

「はい。……でも、いいんですか?」

「放っとけ。否定するのも面倒だ」

「そうですか……まぁ、わたしは噂だろうとせんぱいが他の誰かのものだなんて言われるのは嫌なので、全力で否定して回りますけどね! せんぱいの女はわたしだけだって!」

「そっちのが迷惑なんだけど!?」


 面倒な誤解は受けたものの、どうにか奏多の露出は避けることが出来た。

 ……最近1日が濃すぎてやたらと疲れるわ……。

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