いつかの色に気付いた風景で

@folmine

横断歩道のその先で

子供のころから想像力が豊かだった。いつも友達がいる。

 いや、それですら想像だったのかもしれない。


 桜のにおいが舞う季節。

その中を黒や紺の制服を着た少年少女が歩く、僕はそれを見ながら複雑な感情を抱きつつ歩いていた。

何度見ても悲しくなる。学生時代が嫌だったとかではない。

ただ、こんなことをしている自分に憤りを感じていたのかもしれない。


久しぶりに友達と話したいと思い電話をとった。だが、連絡できる友達はそういなかった。

悩んでいるうちに、一本の電話がかかってきた。

・・・カチャ

 「もしもし」

 「久しぶりだね」

 「おう。どうしたんだ。なんかあったか」

 「なかなかなじめなくてさ、あの頃を思い出したくなっちゃって」

幼馴染の真里谷は家が近所でよく昔は遊んでいた。

中学生、高校生と時を追うごとにあまり会えなくなっていった。

 「結局どうしたんだ。悩んでただろ」

 「働くことにしたよ。福利厚生もよさそうだし」

 「そっか、じゃあ俺が行くことがあったら担当よろしくな」

 「やだよ、来たらぶっ飛ばすからね」

そのあとも色々話したが、他愛もない話だった。

 「さ、俺も働くかな」

そう言って制服を着て、自分の部屋を出た。


 桜に実がつく季節。

この時期は嫌になる。暑いし、臭いがきつくて耐えれそうにない。

新人は大抵この時期にリタイアしていく。

 「あっちいな。今日もすました顔してんな、叶留」

 「・・・」

こいつはしつこく絡んでくる同僚、小間。

小さいくせに生意気で、これで優秀だから先輩たちもこいつには何も言わない。

 「嫌になるな、この仕事」

 「ああ、そうだな」

 「!、珍しいな」

 「そうか」

そう言ってる間にまた爆音の狂劇が始まった。見える先にはまた学生。

気付けば辺りは一面、紅葉。いつの間に秋になったのか。そんなことを考えながらまた日が進んでいく。


本当の紅葉、それを感じるのは空気が少し寒くなってきたからだ。

大概の経験をしてきた。涙もはるか昔に枯れた。そう思っていた。

 「うわああああ、天誅!」

そういいながら、突っ込んでくる。


 浅いな。


そんなことを考えながら、ビルの影に隠れる。敵が透明化の能力を使う。

歪みつつも横断歩道の向こうに見える、その風景。ただの見慣れた風景。

なのに、その日は違って見えた。

なぜだろうか、運命というのはあるのかもしれない。

あの日もそうだった。


あれは異様に涼しい夏だった。平凡な電柱、平凡な縞々、それが一変した。


劈く悲鳴、純白の縞々にバラが咲く。そう、あの時が一番泣いたかもしれない。


そして、爆音と共に手元から一凛のバラが咲いた。そのバラは抱き締めている間にいつしか枯れてしまい、昇っていくのを感じた。そう、真里谷が僕の手から離れていった。


 俺の世界はその日から色を失った。


目の前に現れた少女は、とても似ていた。そして、あの風景が広がっていた。

 コンクリートに映える白色、真っ赤に光る信号機、オレンジが広がる空。


そして、落ちた。あれ、俺こんな背低かったっけ。

 「お・・い・・だ・・じ・・か。し・・り・・ろ」

小間の泣いた顔が見える。なんて言ったんだ。なんで泣いてるんだ。

しっかりしろよ。らしくねえな。いつも通り笑ってくれよ。

 「あ・・あり・・がとう」

 「なにが、ありがとうなんだよ。しっかりしろよ。おい。まだ。。。」

最後ってのはしっかり聞こえるんだな。でも、もう昇ってきすぎて聞こえねえや。


 「なんで、なんで来ちゃったの。でも、隊服似合ってるよ。かっこよくなったね」

 「ありがとう」

 「なんでだろうな。油断してたわけじゃない、ただ、久しぶりに世界がきれいに見えたんだ」

 「そっか、この世界はどう、何色に見える?」

 「きれいな、赤だ。真っ赤に染まっちまってる。でも、純白なお前に会えてよかった。ありがとう」

 「私は、この時のために待ってたんだから、一緒に行くよ」

 「ああ、一緒に行こう」


全部、想像だったのかもしれない。戦争に行く人はいろいろ自分の心を守るために作り出す。その一種なのかもしれない。


でも、見えた世界に偽りはない。本当に最後は一緒だったのかもしれない。

 その真相を知るのは本人たちのみである。


いや、こんなにもきれいな世界でそんなことを考えること自体が。

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