ファーストキスが幽霊と……ってマジ?

山田響斗(7月から再開予定)

短編

 夜。

 月の光さえ届かない新月の夜。


「じゃあ、俺はあっち探してくる。」

 廃墟と化した建物に友人と来ていたが、探索のために二手に別れることにして、俺はひらけた場所に向かった。

 その場所は、元々高校だったらしく、骨組みが剥き出しになった建物の中にも、教室の面影が残っている。


「はぁ、怖ぇな……。」

 友人に対しては強がっていたものの、1人になると17歳の心が心細さを感じ始めた。

 悪ふざけで来たものの、手に持つ懐中電灯が照らす物に一々、恐怖心を抱いてしまう。

抑えようとする度に、より強く、鮮明に恐怖が俺を覆う。


「ここは……更衣室か?」

 どうやら開けた場所は体育館だったらしく、近くには更衣室の様なロッカールームがあった。

錆び付いて、開くかどうかすら怪しいそのロッカー達は、まるで悲しそうに、佇んでいる。


入口から一つ一つ、鉄の塊を照らして見ていくが、そのどれもが一様に等しく見える。

「特に何も無……生えてる!?」

 その時、見えてしまった……ロッカーから下半身が生えているのを。

 正確には地面に寝そべるようにして、部屋の壁に沿って並べられたロッカーから、制服のスカート、そして女性の足が生えている。


 すぅー……。

「あれ?」

 まるで、ロッカーに吸い込まれるようにしてその足が消えていく。

心無しか、構って欲しそうにも見える。


 もしかして、隣の部屋に行ったのか?

 そう考え、隣の行為部屋に向かうことにし……。

「がおー……うっ!?」

「うぉわっでっ……うっ!?」

 目の前に現れたのは女性の幽霊……と言うよりは、少し透けた人間みたいに綺麗な顔をしている。

 ……が、そんなことを気にする暇はなかった。

 重なり合う唇……つまりこれは、いわゆる接吻と呼ばれるヤツだ。


「ちょ、ちょっと何してんのよ!」

「いや、今のは明らかにお前が主導だっただろ!?」

「いや、それは……その……私は、そんなつもりじゃ無くて!」

 幽霊と話しをする時点で、現実離れしているのに、うっかりキスからのツンデレ要素まで……。

 まるで、少年誌のノリみたいだ。


 暗くて見えなかったが、懐中電灯で照らすと、清楚で綺麗な顔をしている幽霊。

その霊は、少しだけ嬉しそうな顔をしていた。

「ちょっ、眩しいからやめてよ。」

「いや、幽霊って意外と綺麗なんだなぁって思ってさ。」

「き、綺麗……!?そ、そうでしょうね。」

 否定はしないのかよ。

 と思いはしたが、そもそも幽霊に対して突っ込んでも、誰の何に響くのか分からないし……。


「私は、他の霊とは違うのよ。ちゃんと保湿もしてるし……。」

「幽霊にも、保湿とかあるんだ。」

「お肌のケアは大事だからね?あと早寝早起き、適度な運動と栄養のある食事も。」

「幽霊なのに、健康優良児?」

 そんなことを呟くと、彼女は頬をふくらませて眉を寄せた。

 くっ、不意にも可愛いと思ってしまった自分が居る。


「幽霊だって、1人の女子なんだから……あ、いや、これはあなたにそういう目で見て欲しいって訳じゃなくて、その……ち、違うから。」

「1人で何、アタフタしてんだよ。」

 思ったけど、幽霊で清楚系ツンデレとか、キャラ盛り込みすぎだろ。

 ずりぃよ。


「幽霊って呼ばれるのも、なんかヤダな。私は、湮野ほろの ひる、葫でいいよ。」

「名前、簡単に教えてくれるんだな?」

「な、何よ?仲良くしたい訳じゃなくて、幽霊って言われるのが嫌なだけだから。」

 どうもカオスな状況だが、少しづつツンデレワードを出すのが楽しくなってきた。

自分で自分が怖い程、ひしひしと適応能力を感じている。


 会話を楽しんで居ると、どこからか声が聞こえてくる気がした。

 友人の声かな。

「もうそろそろ、帰らないとな。」

「え、もう帰っちゃうの?」

「寂しいのか?」

「そ、そんなんじゃなくて!……いや、そうなのかも。いつも、誰も来ないから……。」

ついに彼女は、"デレ→ツン"では無く、"ツン→デレ"を発動した。

 悲しそうな顔をしているのを見ると、帰るのも惜しくなってくる。

 だが、流石にこんな所に1晩泊まるような度胸は、生憎持ってない。


「また、来るよ。」

「本当に?」

「あぁ、俺のファーストキスに誓って。」

「わ、私も初めてなんだから。……って、何その顔?違う、嬉しいんじゃなくて悲しいの……そう、悲しいのよ!」

 もう、ツンデレの勢いが凄すぎて、途中から何を言っているのかよく分からなかった。

 まぁ、可愛いからいいけど、何故か1人でも楽しそうだ。


「俺は、渡野わたりの白陽しろひだよ。」

「白陽……、来るんなら早く来なさいよ?」

「わかったよ。」

「絶対だからね?」

「分かったってば。」

 何度も繰り返し質問する彼女は、視線を落として寂しそうにしていた。

 そんな彼女に背を向けて、帰り始めた俺は、一言だけ最後に言うことにした。


「何か、いきなりだったけど俺は嬉しかったよ。」

「嬉し……な、何言ってんの!?早く帰りなさいよ!」

「今、帰ってるよ。」

 またいつかこの場所に来て、ただ彼女と話していたいな。

 あの娘が寂しい顔をしなくなるまで、揶揄ってやろう。


 ***


「おい、白陽。話し声が聞こえたけど、何かあったか?」

「あぁ、電話があってな。」

「ふ〜ん、そうか。」

 廃墟……いや、廃校を背にして歩く2人。

 その日、俺の持つ懐中電灯が少女を照らす事は無かった。

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ファーストキスが幽霊と……ってマジ? 山田響斗(7月から再開予定) @yamadanarito

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