弟子との日々

内弟子

 ユーリアの一日は、ユクドを起こす所から始まる。

「ユクド、そろそろ起きる時間ですよ」


 起床した彼女は隣のベッドで寝そべる彼を優しく揺する。

 最初こそ、同じ部屋で男女が共に寝る事に抵抗を覚えていたが、今は諸々の理由から、安心して眠る事が出来ていた。

 最も、それも本当にここ最近の事であるが。


「ううん。もう少し寝かせて」

「なに言ってるんですか! だからあれほど遅くまで本を読むのはダメだと言ったんです!」

 

 内弟子として一緒に住む事が決まってから、暫くは緊張から、多くの主導権をユクドが握っていた。だが、現状はお察しの通り。


 布団を無理やり引っぺがされそうになるのを、情けなく丸まりながらしがみ付く事で抵抗する、低血圧な男が一人。


「っもう! 取り敢えずご飯の支度をするので、急いで目を覚まして下さいね! 二度寝厳禁です!」


 力負けしたユーリアが、仕方なしに丸まるユクドから離れ、手早く髪を整えると、隣の食堂へと向かう。


「おはようみんな。今日も宜しくね」

 誰もいない暗い部屋で、ユーリアは声を上げる。

 当然そこに答えるはない。何せこの家に住んで居るのはユクドとユーリアのみなのだから。

 けれど、声の代わりにユーリアに応える様、このが起こる。

 

 ゆらりと灯る明かり。

 部屋の四隅から順々に火が灯ると、最後には部屋の中央。メインのランタンにも灯りがつく。


 明るくなった部屋で、ユーリアは調理場へと向かう。

 木で出来た窯を優しく撫でると、一瞬にして、十分な火力を作り出した。

 そこに幾つかのパンを乗せたトレーを直火に当たらない所に配置をし、上部の鉄板代わりの板上にスライスした肉を乗せて焼く。


「ふーふーん♪」

 ユーリアの軽やかな鼻歌が、部屋に響く。

 この奇天烈な調理場も、慣れてしまうとこれ程便利な物も無い。

 何せ、下準備に薪を焚べ火をつける必要も、火加減を調整する必要も無いのだから。


 調子良く進む調理。

 窪みの出来た表面。そこに伸びる小枝に触れると、綺麗に透き通る水が、溢れるように流れ出す。

 その水で幾つかの果物を洗い、手で簡単に皮を剥く。

 

 焼けた肉とパン。小皿にフルーツを並べたら、それはもう立派な朝食の完成だった。


 部屋の中央にある机の上。 

 作った朝食を配膳すると、まるでタイミングを見計らった様にユクドが目を擦りながら、部屋へと入ってくる。


「やっと起きましたか。もうご飯が出来ましたよ。早く食べましょ!」


 ユクドと出会って幾日が経って。

 この家の支配権は、もうユーリアのモノになっている事を、ユクドはまだ気付いていない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 作者より。

 いつも拝読して頂き有難うございます!

 中々更新できず申し訳ありません。

 今後とも定期的に更新は続けていきますので、長い目で見て頂けたら幸いです。

 それでは、今後とも宜しくお願い致します!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る