第44話

 ――ああ、聞こえてるよ

 お前の声はずっと聞こえてたよ

 そして……君の声も

 お前たちの話を聞いていろんなことを思い出したよ

 俺って……卑怯だよな

 つらいことから逃げ、悲しいことから逃げて嫌なこと全部押し付けてさ

 ――でもさ

 考えてみたら、今までの俺の人生って楽しくなんかなかったんだよな

 なんでだろう……

 嫌なこと見なくて済んで、つらいこと悲しいこと苦しいこと――全部知らずに済んだのに

 ――そうか

 たぶん、それを知らないからだろうな

 いろんなことがあるのが人生なのに、つらいことや悲しいことをなくしたら、楽しいこともきっと楽しく感じないんだな


 玲……俺はこいつを救えないよ

 こいつのこんなに深い悲しみなんて取り除けないよ

 ――でさ

 さっきから思ってたんだけど……

 俺、ずっとこっち側でいいよ

 今まで嫌な思いばかりさせてきたから、こいつに楽しい思いさせてやりたいんだ

 次につらいことや悲しいことがあったら、俺が出るよ

 ――あれ?

 そしたら楽しいことが楽しくなくなるのか?

 なんだか難しいな……

 まっ、いいか

 交代したいときに教えてくれたら代わるからさ、今までの分いっぱい楽しんでくれよな


 ――なんだ?

 首の後ろがやけに熱くてチリチリする

 この感じ……どこかで――



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