第43話

 玲はこいつの思いに気付いてたんだろう

 だから、俺にあの夢を見せたんだ

 最後くらいは僕の好きなようにさせてくれ……か

 そして桜の木を切り倒し、俺の体も真っ二つに切られた

 ――まてよ

 こいつは桜の木になりたくて、玲とともに桜となって生き続けるはずだった

 だが、その桜の木は切り倒された

 それは――どういうことなのか


「ええ。夢の中であなたの思いが入ってきたとき、このまま桜の木になっても構わないと思ったわ」

 玲が立ち上がり、ゆっくりと窓辺へ近付いてくる。

「あのときのあなたの心が、ずっと寂しさに耐えてきた、悲しみにつらさに気付かないふりをしてずっと耐えてきたあなたの心が入ってきた時、たしかに私はあなたと一緒になって夢を見続けようと思った」

 俺の背後に彼女が立ち、ゆっくりと手を伸ばす。そして俺の体に腕を回す。


 でも――抱きしめられているのは俺じゃない


「でもね……私はそれを選ばなかったの」


 背中に彼女のぬくもりを感じるが、それは俺をすり抜けてゆく


「この先私は結婚することも子供を産むこともなく、たぶん一人で生き続ける。それなら寂しい現実よりも誰かと一緒にいられる夢の中を選ぼうかと本気で思ったわ」

 彼女は腕に力を込める。

「だけど、それじゃだめなの。あなたの悲しみを取り除くのは、あなたを救えるのは私じゃないの」


 …………


「聞こえてる? それができるのは中川君――あなただけなのよ」


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