偏差値

偏差値の意味 "学校の偏差値"は存在しない

 Aさんは偏差値120、Bさんは偏差値-20、こんな数字を見たらどんな点数取ったんだと思いますよね。

 こちらは、平均50点のテストでAさん60点、Bさん40点の時の偏差値です。そんな馬鹿なと思うかもしれません。ですが、100人が受けてAさんBさん以外の98人が全員50点だった場合、実際にこの偏差値になります。

 高校や大学受験に関わって良く用いられる偏差値、今回はその意味を解説します。


1.偏差値は「テストを受けた人の中での位置」


 偏差値とは「平均を50として、集団の中での位置を示す数値」、つまり集団(=そのテストを受けた人)の中でのレア度です。そのテストを受けてない人は関係ないというのは大切です。偏差値はテストの難易度関係なく、他者と比較した位置を示すためにあります。

 例えば、3人が受けたテストで、A:60点・B:50点・C:40点の結果1と、A:80点・B:70点・C:60点の結果2があります。それぞれの得点は違いますが両結果とも偏差値は同じA:62.3・B:50.0・C:37.7になります。

 平均点は違っても、3人が10点刻みで並んでいる順番も点差も変わらないので、途中の計算式は全く同じです。難易度に左右されず他者と比較した位置を示すのが偏差値の特徴です。

 計算は「偏差値=(得点-平均点)÷標準偏差×10+50」です。標準偏差という語が厄介ですが、この値は得点の散らばり「分散」の合計が大きいほど大きくなります。一番散らばっていない結果、つまり全員が同じ点を取った時は、分散も標準偏差も0になって、偏差値は全員50になります。

 なお、50を足す直前の数値は-なら平均より低い、+なら平均より高いと分かりやすいです。しかし、50を足すせいで数値の意味がわかりづらくなっています。

 必ずしも平均点と差があれば、偏差値が大きくなるわけではありません。全員の得点の散らばり方が重要です。


2.偏差値120もありえる、70出せないテストもある


 極端な例として、冒頭のAさん:60点・Bさん:40点・他98人:50点の時の偏差値を見ていきます。ほとんどの人が同じ点を取っているため、AさんやBさんが(点数としては平均とあまり離れていなくても)激レアになっています。もちろん、現実のテストでは中々ここまで得点が集中しません。

 例えば、10人がテストを受け、Aさんが満点の100点・Bさんが90点と続き、Jさんの10点までキレイに10点刻みだったとします。この時、Aさんの偏差値は65.7、Jさんの偏差値は34.3となります。このテスト(を受けた母集団)では先ほどのような偏差値120どころか偏差値70も出せません。偏差値は他の人が取った点数に大きく左右される数値なのです。


3.受験者の偏りに気をつけないと参考にならない


 述べてきたように、偏差値は比較する人(母集団)に大きく左右されます。高校生の間では進研模試(ベネッセ)と全統模試(河合塾)など、模試業者が変われば偏差値も違うことはよく知られていますが、これはどちらかしか受けない高校生もおり母集団が違うからです(傾向として進研模試の方が大学受験者が少ない高校でも実施することが多いです)。差異があってもどちらかがおかしいとか嘘つきとかいう話ではなく、参照するデータが違うから数値も違います。

 自分の過去のデータと比較する時も注意が必要です。大体同じ集団が受けるであろう模試、つまり同じ業者かつ同系統の模試でなければ、そもそも集団が違いますから偏差値の比較はできません。

 また、同じ模試でも「校内偏差値」と「全国偏差値」が出る場合があり、大きく数値が異なることがありますが、比較対象が変われば当然数値も変わります。そして、校内偏差値はまず意味がありません。

 テストの偏差値はもともと高校受験の志望校決めのために1950年代に考案されました。入試は合格する人数が決まっているので、問題が難しくて点数が低くても、他の人がもっと点数が低ければ合格できます。そこで、点数そのものより他の受験生との比較を重視した数字である偏差値が使われるようになりました。 

 今まで例で示したように、2人や3人のデータでも偏差値は出せます。しかし、他の受験生との比較がしたければ、他の受験生も受けているテストで偏差値を出す必要があります。学校の中だけで比べていても仕方なく、広く他の受験生と比較して偏差値を出さないと意味はありません。

 なお、資格を取る試験は基本的に基準を超えれば全員合格できる、逆に基準を1人も超えられなかった際は全員不合格になるので、偏差値は意味を持ちません。偏差値は受験のために生み出された他の受験生と比較する数値なのです。


4."学校の偏差値"はない(各業者の合格目安しかない)


 「A大学の偏差値は70」といった”学校の偏差値”がネット上には膨大にあります。しかし、テストを受けないと偏差値は出せないので、学校の偏差値というものはありません(代表学生や校長がテストを受けたわけでもありません)。

 業者が出す”学校の偏差値”は、「自社の模試データから算出した、自社の模試でこれくらいの偏差値出せば受かりそうという基準」に過ぎません。例えば、代表的な入試情報サイトの掲載情報は以下の通りで、「受かりそう」のラインも微妙に違います。


◆マナビジョン(ベネッセ)

 「第1回ベネッセ・駿台大学入学共通テスト模試・9月」のB判定値(合格

可能性60%)

◆Kei-net 入試難易予想ランキング表(河合塾)

 今年度の「全統模試」の合格可能性50%


出典:各サイト(2022年10月21日現在)


 当然、業者によって数字は違います。また、業者内でも模試の種類によって対象者が異なります。掲載された情報と自分の模試結果を比較したい場合は、その情報と受けた模試の種類に注意しないと比較できません。

 また、大学入試は全国規模の模試業者が複数ありますが、中学校では高校の進研模試のような全国の多くの生徒が共通で受けている模試がありません。(入試自体が主に都道府県単位であり)模試業者も県単位のものが主流です。例えば、東京都ではVもぎ(進学研究会)Wもぎ(新教育研究協会)、埼玉県では北辰テスト(北辰図書)、北海道では北海道学力コンクール(進学舎)など地域ごとに違う会社が担っています。また、ある程度の受験生をカバーして有効なデータを示せる模試業者がそもそもあるかも県によって異なります。


 いずれにしても、模試が違えば「自社の模試でこれくらいの偏差値出せば受かりそうという基準」は違います。

 そして、どの模試から偏差値を出したのか示していない情報は、参考になりません。ネット上の”学校の偏差値”情報には、でたらめなものも多数あります。元になるデータを全く書かず「独自の算出」としか記していないサイトも多数。ご注意を。


おわりに.偏差値はテスト結果の位置以上の何者でもない


 偏差値はあくまで「平均を50として、集団の中での位置を示す数値」です。試験によってはとんでもない値も出ます。

 また、何のテストでも点数さえ出れば偏差値は出せます。自分で作った○×クイズでも出せます。ただ、それでは意味がありません。多くの受験者がいる大規模模試なら極端な集団や極端な問題となる可能性は減り、受験競争の中での立ち位置がある程度わかります。

 ただし、その情報にどれだけの価値があるかは人それぞれです。受験をしない人には無価値な情報です。また、大学入試になれば共通テストの得点率などで見ますし、2次試験は各大学異なるので、汎用的な大規模模試の結果より各大学の問題が解けることが重要です。入試を大切と考える人でも、偏差値の意味はそこまで大きくないかもしれません。

 「偏差値」という言葉に振り回されることなく、意味を正しく理解して適切に活用したり無視したりできるよう、全ての中学生高校生に伝えるべきと思います。本記事がその一助になれば幸いです。


(本文おわり。詳しい参考文献は以下URLに記載)

https://note.com/gakumarui/n/n535e53135550

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る