高校バイト禁止3つの理由 ~高校生の申立「バイト禁止は憲法違反では」~


 多くの高校でアルバイトが禁止されています。高校生全体でバイトをしている人は約2割、8割の人はバイトをしていません。(2020年マイナビ調査で19.4%)許可制で認めている学校でも成績など条件がついていることもあります。

 禁止の判断は各学校で独自にしており、自由にバイトできる高校もあります。高校生のバイトを禁止する法律や国の見解はありません。法律にないなら学校が生徒の学校外の行動まで制限できるのか、と思われるかもしれません。そうした問い合わせは行政に度々寄せられますが、どの自治体も各学校の裁量が認められるという見解を示しています。

 これから述べますが、バイト禁止に合理性がないわけではありません。しかし、きちんと説明があるべきだと思います。


1.憲法違反?貴重な高校生の苦情申立・回答

 重要な事項にもかかわらず、高校生のバイトについて国や行政の言及はほとんどありません。そんな中で、行政の見解を示した貴重な文書が「北海道苦情審査委員」の回答です。こちらは1999年に設置された道機関の業務に対する苦情を審査し、妥当な場合は機関に改善要求をする制度です。

 この委員に2016年度、高校生がこちらの通り、高校がアルバイトを制限・禁止するのは憲法違反ではないかという申立をしました。


高校がバイトを許可制、また原則禁止とすることは以下の理由で違法と考える。

・憲法第27条において労働の権利が認められている

・労働基準法第56条2項で、15才未満の児童の雇用は学校長の証明書等が必要と定められているが、高校生は対象ではない。

・学校に裁量権があっても、憲法に定められる労働の権利は妨げられない。

(『北海道苦情審査委員 平成28年度活動状況報告書』pp.15-16より投稿者要約)


 この高校生の申立に対して、以下のように学校の校則と教員の指導は合理的であるという回答が示されました。


 仮に許可制ではなく、届出制であったり、無制限であった場合には、判断力の未熟な生徒が劣悪な環境のもとで労働させられる危険性があったり、あるいは、例えば経済力の乏しい親が子である生徒に労働を強いることなどの弊害も考えられ、その結果、学業がおろそかになる可能性もありますし、生徒が健全な成長を果たせないという可能性もあると思われます。したがって、アルバイトを許可制にするという高校の校則には、合理性が認められると考えます。

(『北海道苦情審査委員 平成28年度活動状況報告書』p.16より引用)


 あくまで申立人の1高校に対する見解ではありますが、学校が生徒のアルバイトを制限・禁止することは認められる、合理的であると示されています。おそらく、この見解は他の自治体も支持するものと思われます。 

 ちなみに、本申立回答の最後には全ての校則や指導が際限なく認められるわけではないことが記されています。記された通り、申立人の行動はとても意義のあるものです。実際、この高校生が申立をするまで、高校生のバイト禁止に関するしっかりした見解は公式文書には見られなかったので、この申立と回答は貴重な資料となりました。


 以上のとおり、申立人の申し立てた苦情については、理由がないものと判断いたしましたが、苦情審査委員が、高校の校則や、教師の指導に生徒は盲従すべきだと考えているわけではないことは もちろんです。

 申立人が校則に問題を感じたときに、憲法上の権利はどうなっているのだろうと考えたことは、非常に有意義なことだと感じました。

(『北海道苦情審査委員 平成28年度活動状況報告書』p.16より引用)


 この北海道の見解を土台に、高校生のアルバイトが制限・禁止される理由を考察していきます。


2.理由1.生徒を守るため ~無知で安価な労働力にしない~

 多くの高校は労働に関してあまり指導していません。バイトをする高校生1854名が回答した2016年厚労省の調査では、労働条件を書面で明示する必要性や有休制度、事業主が一方的に減給できないことなど、雇用に関する法律を知らない高校生が多いことが明らかになりました。多くの高校生は法律を知る機会、もとより知る必要性を認識する機会がないのですから、当然の結果です。

 実際に、雇用者側も適切な扱いをしていないことが多々あります。前述の調査では、バイトする高校生の60.0%が労働条件通知書等を交付されていない、32.6%が何らかのトラブルがあり中には賃金の不払い等もあることが示されています。

 経験の少ない高校生は、雇用者から不当な扱いを受ける危険性が高いうえ、どんな不当な扱いを受けても自分が悪い・自分が頑張らないといけないと「過剰適応」し、バイトを減らす・辞めるという選択肢を考えないケースも少なくありません。

 そして、多くの高校はこうした状況から生徒を守る術や雇用者に対応する経験・知識を有していません。生徒に何かあっては大変ですから、できれば一律に禁止したいということになります。(もちろん、そうして労働から目を背けた結果が今の高校生の立場を生んでいる側面もあるので、今の対応でいいのかは考える必要があります。)

 逆に高校側が信頼できる雇用者については、例外的に認められることもあります。例えば、私の出身高校では原則バイト禁止でしたが、年末年始近隣の神社と郵便配達のバイトだけは公認されていました。地域の歴史の中で根付いている職場・業務ゆえに、学校に信頼されていたということでしょう。


3.理由2.詰め詰めの授業時数設定 ~大学との違い~

 2つ目の理由は、授業や課題など正規の学習だけで時間的・肉体的に厳しくなるであろう時間設定を多くの高校がしている点です。よく「学業がおろそかになる」と言われますが、根気の問題ではなく時間の問題で両立が困難ということです。

 学習指導要領で、高校全日制課程における週当たりの授業時数は30単位時間を標準、つまり週5日なら50分授業を6時間とされています。しかし、「必要がある場合には、これを増加することができる」とも記され、現実には土曜授業や7時間目などがある高校も多いです。授業時間だけならまだしも、これに家庭で学習する課題も加われば、日々学習だけで手一杯です。部活動もしていればなおさらです。(学校によって授業数や課題の多い少ないは異なるので、バイトをする余裕があるかないかは異なり、バイトを許可するかも異なってきます。)

 ここで大学と比べてみましょう。大学は一般に15時間(45分授業)で1単位、実際には2単位の授業を90分×15回を行うことが多いです。大学は4年間で128単位を取れば卒業できるため(大学設置基準第32条)、平均で年間32単位を前期・後期で分けて16単位ずつ、つまり週16単位時間とればいいことになります。大学は一部を除き授業が自由に選べ、自らこれ以上学習することも可能ですが、最低限で言えば高校の半分で済むことになります。大学設置基準上は授業以外にも自らの学習時間も含めて単位を出す(21条)ことになっていますが、実際には授業外ではほとんど学習せずとも卒業可能です(その是非は今回扱いません)。大学と比べると、高校の拘束時間は長く、その分バイトに割く余裕はないことが多いと言えます。


4.理由3.雇用者と生徒の思惑のズレ ~勤務時間・日数~

 個人的にはバイトで得られる経験、バイトで得た金銭も用いて得られる経験も有意義だと思います。高校の授業時数自体の見直しも必要ですが、バイトも週1や1日1-2時間といった短時間の勤務形態であれば学校との両立もやりやすいでしょう。しかし、雇用する側の立場としてはそうした勤務形態は難しいです。

 雇用者は同じ人にできるだけ多い日数・長時間働いてもらいたい傾向にあります。雇う人が多くなるほど調整や連絡も大変ですし、新しい人が入るたびに勤務について教える必要があるのでその手間が増えます。また、変な人を雇って店に損害を与えるリスクも高まります。

 実際、2020年マイナビの調査(回答1738名)では、高校生のバイト勤務日数は平均週3.0日、1日の勤務時間は平均3.6時間でした。希望日数は平均週2.4日、希望時間は平均2.8時間となっており、希望より多く・長く勤務しているのが実態です。

 高校生活のことまで配慮できる雇用者は少なく、長時間・高頻度の勤務は生徒の学校生活を壊しかねないので、学校としてはバイトを認めたくないというのは理解できます。


5.おわりに 高校生と労働の関係から目を背けない

 以上のように、高校が生徒のバイトを制限・禁止することには一定の合理性があります。

 とはいえ、生徒と労働の関係は進路目標を考えさせるだけで、後は全く切り離している現状は良くありません。義務教育段階または高校段階で労働に関する法律などを学ぶ機会も必要でしょう。

 そして、現状働いている高校生を無視する、自己責任論だけで放置することは社会全体として大きな損失です。前述したマイナビのネット調査では、バイトの理由として、20.6%が学費のため、10.0%が家族の生活費のためと回答しました。学校行事への参加や自分の将来への準備、さらには家族を支えるためにバイトをしている高校生もいるという現実は受け止めなければいけません。

 学習権・生存権の保障という観点で考えるという長期的な視野とともに、今個々の生徒が置かれている状況を見て対応・配慮をしていく必要があります。


(本文おわり。詳しい参考文献は以下URLに記載)

https://note.com/gakumarui/n/n1484bd35c1fe

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