7.話し合いでの発言ルールや形式 ―何のための「型」か―

 特に小学生の場合、話し合いでの発言が定式化されていることがよくあります。例えば、以下のように場面によってフレーズが決まっており、「…」の部分のみを変えればいいというものです。(こういった話し方のパターンのことを「話型」と言うこともあります 。なお、特に公的な用語ではなく「わけい」と呼ぶか「わがた」と呼ぶかも地域によって違うようです 。)


○友だちの意見と同じ時は「わたしは…さんと同じで、…です。その理由は…です。」

 意見が違う時は「わたしは…とちがって、…です。その理由は…です。」

○質問する時は「…さんに質問します。…がよくわからなかったので、もう一度説明してください。」

○付け足す時は「…さんにつけたしです。もう一つ…ということがあります。」


 こうしたパターンは、子どもが話し合いを進めやすくするための手がかり や、きちんとした発言や互いに聞き合えるようになるためには形から入らざるを得ない といった考え方から用いられているようです。クラスのルールとして、教室掲示で貼ってあることもあります。確かに、話し方は崩れなくなりますし、型からズレていることは子どもにも捉えやすいので子ども同士が自ら注意し合うようにもなります 。

 しかし、逆にいうと、子ども同士が型ばかり気にするようになる、発言の中身に注目せず型があっているかだけに注目するようになる、といった危険性もあります。話し合う内容ではなく、大前提である型の方についていけないから発言できなくなる・自信をなくすという子もいるでしょう。用意した「型」のそもそもの質、言い回しのぎこちなさや種類の多さにもよりますが、場面ごとの言い方を1つに限っているということ自体が「異質な」状態であるということは言えます。

 また、この「型」はそのクラス限定、広くてもその学校限定の狭い範囲でのルールです。学年が上がって先生が変わったら「型」が様変わりしたなんてことは珍しくありません。「型」はあくまでも例示であり、話すための道具として使うことができるものであることを、子どもに伝えておく必要があります。でないと子どもは「なんかよくわかんないけど教室では一言一句間違えてはいけない“法”」と捉えかねません。


 「型」は影響力が大きく、形を整えやすいだけに使いたくなる指導法ですが、話すことや聞くことではなく「型」を守ることが主目的になっていないか、注意する必要があります。


(「話し合い」についておわり。追加すべき内容があれば追記するかもしれません。)


【参考文献】

◆増田和明「話し合いによる学び合いを行える学級を目指して ~スモールステップを踏まえた指導と実践のプロセスの明確化への試み~」(第5回21世紀ぐんま教育賞入賞論文)群馬県総合教育センター、2007年

◆堀正人「小学校高学年における発言意欲を高める取組」『教育実践研究』28、p.193-198、2018年

◆佐賀県教育センター『低学年生活・学習習慣指導の玉手箱』2007年

◆日本国語教育学会編『国語教育辞典』朝倉書店、2009年

◆教育Zine HP「水戸部先生に聞く!『単元を貫く言語活動』Q&A(16)」(文部科学省教科調査官 水戸部修治)2015年7月17日 掲載:https://www.meijitosho.co.jp/sp/eduzine/tangengo/?id=20150606

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