第7話 争い

※ガネシとは、ヒンドゥー教のガネーシャをモチーフにした架空の生き物です。ねずみのラッタ♂と子猫のビラロ♀と一緒に地球でたくさんの経験を積んでいます。


「ねぇラッタ、人間界では私たち天敵だって知っていた?」


「え?人間界では?オイラたち天敵だろ」


「・・・いい度胸ね・・・。猫はネズミを食べるのよ・・・」


「嘘だろ!オイラを食べたら重罪だぞ!魂を抜かれて人間にされちまうぞ!」


「私はそんなことしないわよ。不思議だなぁって思っていたの。人間界って争いごとばかり。些細なことから取り返しのつかなくなることまで。毎日どこかで人が争っているわ」


「神界じゃそんなこと絶対にありえないよね。僕も最初は人たちが争っているところを見るのが嫌で、見ないようにしていたんだけれど、どこもかしこも争いばかり。これも解決しないといけない課題のひとつなんだろうなって思って、今では争いもみるようにしているんだ。でも見れば見るほど嫌な気持ちになっていくから息抜きが必要だよ。ほら、目を閉じたらすぐに争いが始まる」


「争いごとが好きなのは・・・男性の方が多いかしら」


「男はなぁ、誰もが自分がトップに立ちたいと思っているからなぁ」


「ラッタ、中にはね、そこまで闘争心がない男性もいるみたいだよ。光太郎くんは、彼は人のために行動できる子だった。自分がトップに立ちたいんじゃない。みんなが楽しんでいる姿を見るのが好きで、みんなで楽しいことをしたいという気持ちが彼のモチベーションになっているようだったんだ」


「そうね、光太郎くんは本当に珍しいわね。ところで男女では染色体の構造に違いがあるのわかるかしら」


「XとYだろ。オイラでさえわかるよ。でもなんで突然その話になるんだよ」


「これは私の持論ね。男性はXY。女性はXX。人間界では左右対称が完全と言われているの。だから人間界のもの、生き物も含めて、全てにおいて左右対称であることが多いの」


「つまりあれか、女性はXXで左右対称の染色体だから完全で、男性はXYで左右非対称だから不完全ってことか」


「そういうこと」


「でもだからってなんなんだよ」


「男性はね、本能でわかっているのよきっと。自分たちは不完全だって。女性には勝てないって。だから男性は権力や暴力でねじ伏せようとする。ガネシも人間界をずっと見てきたからわかると思うけれど、この世は男性に都合のいいようにできているの。自分たちが社会のヒエラルキーのトップに立ちたいからこそ」


「なんだかややこしくなってきたぞ。それと男性が争いごとが好きな理由が結びつかないぞ」


「ごめん、好きではないかもしれないけれど、自分たちは不完全だという劣等感とそれを認めないために、誰よりも優位に立とうとして争いが生まれるのよ。一種の防衛本能よね」


「そうか、劣等感を感じているやつほど人の上に立とうとするのか」


「それを人間界ではマウンティングというそうよ」


「マウンティングかぁ。劣等感かぁ。防衛本能かぁ。自分に自信がないんだよね。みんな自分に自信を持てたら争いがなくなるのかな」


「争いの理由にもよると思うわ。人間はそもそも欲が強い生き物。欲望を捨てられた時、争いは無くなるんじゃないかしら」


「そっかぁ。みんな仲良く協力し合って生きていくことは無理なのかなぁ」


「輪を乱すKYが必ずどんなところにもいるからな」


「あら、ラッタ、KYなんて言葉を使って人間みたいじゃない」


「空気読めないの略だぞ」


「知っているわよ、今のあなたよ」


「・・・ビラロが人間界の生き物に成り下がったら、オイラも一時的に許可をもらって人間界の生き物として生み落としてもらう」


「ラッタ、いきなりどうしたの?僕は二人が人間界の生き物になったら誰と一緒に修行をすればいいの?」


「ガネシ、最後まで言わせてくれ。ビラロをネズミにしてもらって、オイラは猫になるんだ。毎日追っかけ回して恐怖のどん底に陥れてやる」


「そうしたら私はジェリーであなたはトムね」


「あはは、僕その話知っているよ。子どもたちがよく見ているよね。猫がネズミを追っかけるんだけど、いつも返り討ちに合って痛い目に合うのが猫なんだよね」


「そう!自業自得!カルマの法則よ!痛め付けようと思って行動すると、自分が痛めつけられるの!」


「神界でも男が女に敵わないっていう法則があるのかな。オイラ、ビラロに勝てる気がしない」


「ラッタ、ビラロ、僕たちはいつまでも仲良くしようね」

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