第5話 不条理

※ガネシとは、ヒンドゥー教のガネーシャをモチーフにした架空の生き物です。ねずみのラッタ♂と子猫のビラロ♀と一緒に地球でたくさんの経験を積んでいます。


「お前がいるとつまらなくなるから来るなよ」


いつものようにガネシは瞑想をしていると、ある風景が浮かび上がってきた。子どもたちが学校の校庭で遊んでいる。人数は3人。その中にリーダー格の男の子がいた。みんなより少し大きめで、少し威圧的で恐い。その男の子が小柄のか弱いメガネをかけた男の子に向かって暴言を吐いていた。


「お前なんかいなければもっと楽しいのに、お前なんかどっか言っちまえ」


もうひとりの男の子はリーダー格の男の子の顔色を伺いながら言い放った。


「そうだそうだ!もう俺らについてくんな!」


子どもは残酷だ。いや、残酷なのは子どもだけではないか。残酷な大人もこの世にはたくさんいる。暴言を吐かれた男の子は泣いていた。そうまでしてその子たちと遊ばなくてもいいのに、とガネシは思った。


すると突然、どこからかもうひとりの男の子がやってきて、リーダー格の男の子を後ろから蹴飛ばした。リーダー格の男の子はその衝撃で顔から転げ落ちた。


「痛っ!お前、何するんだよ!」


「お前こそいじめてんじゃねぇよ。さっさとどっかいけ」


「むっ・・・なんだよ、光太郎かよ。しらけちまった、ほら行くぞ」


いじめっ子ともうひとりの男の子は渋々どこかに消えて行った。


「大丈夫か?」


「光太郎くん、ありがとう」


「あんなやつらと遊んでいないで、俺らと遊ぼうぜ。あっちでみんなとサッカーやっているんだ」


光太郎と呼ばれる男の子は満面の笑みで男の子を誘った。男の子は涙を両手で拭い、満面の笑みで応えた。


「うん!」


後日、光太郎は先生に怒られていた。どうやらいじめっ子の二人が先生に告げ口をしたらしい。いじめっ子の顔には大きな擦り傷が残っていた。光太郎は口答えせずにただ黙って謝った。


「ガネシ?不思議なこともあるもんだ。ガネシも同じ光景を見ているんだろ?きっとガネシの怒りが強すぎて、オイラにも同じものが見えているようだ」


「ラッタ、多分今の光景は一昔前の光景だったと思うんだけれど、どう思う?」


「ガネシの言いたいことはわかるぞ。理不尽だよな。正義が必ず勝つわけではないんだな、この世の中は」


「神界であんなことをしたら厳しい罰を与えられるだろうね。でも神界であんなことする者なんていないけれどね。全てがお見通しだからね。光太郎くんって男の子はどうして黙っていたんだろう」


「あれ?ガネシ見えるか?」


「あ、まだ続きがあるみたい・・・。」


それからどのくらいの月日が流れたかわからないが、少し大人びたあの3人がいた。そして3人は光太郎の悪口を影で言っていた。遠くに見える光太郎の表情はどこか寂しく、どこか悲しく見えた。


「なんだあいつ!せっかく光太郎が助けてやったのに、恩を仇で返しやがった!オイラ許せない!」


「ますます僕、人間のことがわからなくなってきたよ。光太郎くんは良かれと思って彼のことを助けてあげたのに、どうして彼は光太郎くんの悪口を言っていたんだろう」


「あの後何かあったのかもな。あれだろきっと、光太郎の仲間に入れてもらったはいいけれど、やっぱり合わなかったんだろう。光太郎に劣等感を抱き続けて、一緒にいると惨めな気持ちになったとか。結局はあいつらと同じ穴の狢だったんだろ」


「そんなことってあるんだ。あの子のために先生に怒られても我慢していたのに」


「きっと人間社会ではこんなこと日常茶飯事よ」


「おい、ビラロも今の見えていたのか!?」


「見えていたわ。人は残酷な生き物よ。こうやってすぐに人を裏切るの。でもね、裏切られた人は好きで人助けをしているの。だからまた同じような場面に出くわしたら同じことをするのよね。光太郎くんが今どうなっているかはわからないけれど、人助けをすればするほど裏切られる回数も増える。大人になればなるほどなおさらね。でもきちんと感謝をされて人徳と霊性を高めているでしょうね。ストレスときちんと向き合えているといいけれど。そうじゃなかったら心は荒んで行く一方よ。疑心暗鬼になって、人を信じられなくなるわよね。もう一度言うわよ。人は本当に残酷よ。信頼するのが馬鹿らしくなるくらい」


「ビラロ、何かあったのか」


「私もガネシと同じで瞑想をするといろんなものが見えるの。神界にいた時からね。だから私はいろんな嫌なところを見てきたわ。まさかその世界に来ることになるとは夢にも思わなかったけれど。でもね、ガネシ、中には光太郎くんみたいな子もたくさんいるのよ」


ガネシはこの世の理不尽さと不公平さを知った。誰もが平等に救われる世の中にしたい。ガネシは常々そう思っていた。しかし、果たしてそれは正しいのだろうか。

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