第16話 大切な人

龍野帝さん。

俺の勤めている会社の上司の30代と思われる女性だ。

ミステリアスでグラマナスと言える。

胸が大きく.....本当にミステリアス極まりない。

喉がゴクリと鳴ってもおかしく無い。


そんな龍野さんにデートしない?と誘われた。

そして俺は水曜日にその.....デートをする事になったのだが。

その事に関していち早く反応したのが皆野と沙穂。

この二人は俺を好いている為に俺は額に手を添える日々が続いている。

死んだ目を向けられているんだ.....。


「.....えっと今日はデートなんですよね」


「.....そ、そうだ」


「.....私がバイトの面接の日にデートですよね。.....あはは」


「.....そ、そうだな.....」


かなりのジト目をする沙穂。

水曜日の朝、そう会話していたのだが.....沙穂が死んだ目をしている.....。

相当にその、圧力が有るな.....。

思いながら俺は盛大に溜息を吐いた。

そして沙穂を見るが沙穂は諦めた様に目線を逸らす。


「.....まあ良いですけどね。別に」


「.....沙穂。何も無いって。あの人、ミステリアスだけど.....殆ど何もしてこない様な人だから」


「.....でも女性ですよね」


「.....そうですね.....」


非常に複雑なんですよね.....。

思いながら沙穂に釘を刺される俺。

そして朝食を食いあげた。

それからデートをする為に玄関の元へ行く。


「.....準備は大丈夫ですか」


「多分、全部持ったと思う」


「.....服装も良いです.....し、持ち物もOKですね。じゃあ気を付けて」


「.....沙穂」


何ですか?

と少しだけ複雑そうに顔を上げる、沙穂。

俺はその姿を見ながら.....溜息を吐く。

それから頭をポンポンとした。


「.....何も無いさ。俺は.....誰とも付き合う気は無いし、相手は経験豊かって言ったら駄目だけど.....それなりに大人だ。大丈夫だよ」


「.....うん.....」


初めて子供の様な感じの返事をした。

俺はそんな沙穂にデコピンをする。

すると沙穂は、痛い、と声を上げて俺を見る。

俺はニコッとした。


「.....沙穂。お前も頑張れ。なるだけ早く帰る」


「.....はい。.....気を付けて」


「ああ。早く帰るから」


信じてます。

と柔和な笑みを見せた、沙穂。

その姿を見ながら俺は手を上げた。

そして挨拶をして家を出る。


今日は.....青空が広がっている。

だったら大丈夫だろう。

何も起きない筈だ。



「待たせたわね」


「.....はい」


「.....かなり格好良いじゃ無い。清楚感が有るわ」


「.....有難う御座います」


胸元が少しだけ開いた服装だ。

ラフな格好ながらも.....相変わらず胸が。

と思ってしまっていけないと思いながら首を振る。

そして.....俺は笑みを浮かべた。


「.....行きましょうか」


「.....そうね。行きましょう」


「お勧めのカフェとか有りますから」


「あら?長谷場がサポートするの?私を」


え?どうする気だったのか。

思いながら.....俺は目を丸くしながらクスクスと笑う龍野さんを見る。

龍野さんは俺に向きながら、悪い意味じゃ無いけど長谷場はそこだけは鈍感かと思ったのよね。御免なさい、と言った。

俺も、大丈夫です。鈍感ですから、と俺は苦笑する。


「勉強したんですよ。俺も」


「.....あら。嬉しいわね。有難う」


「.....はい。折角のデートですから」


少しだけ龍野さんの顔が赤い。

俺はその姿を見ながら.....笑みを浮かべる。

そして.....歩き出した。

龍野さんは俺を見ながら、やっぱり貴方は良い人だわ、と呟く。


「.....」


俺は良い人じゃ無いんだけどな。

本当に、だ。

思いながら俺は龍野さんと歩き出した。

そして.....カフェに向かう。



そしてあちこちを巡ってから。

時間を気にしつつ.....夕方になった。

すると龍野さんが俺に向いてくる。

そして今日はこの辺りにしておきましょうか、と切り出してきた。


「.....龍野さん.....?」


「今日は楽しかったわ。有難うね。長谷場.....じゃ無い。小五郎くん」


「.....」


馬鹿だな俺。

ほぼほぼ集中出来なかった。

と言うのも.....頭の中を.....何故か沙穂の顔が映っていて。

集中出来なかった。


「.....ところで.....まだ良いかしら。時間」


といきなり龍野さんが何処かを指差した。

その場所は.....ラブホだ。

俺はビックリしながら龍野さんを見る。

龍野さんは胸を触りながらアピールしてくる。


「.....私、こう見えても大きいの。色々と。.....行かない?」


「.....いや.....俺は.....その!そこまでは.....!」


しかし龍野さんは周りに人が居ない事を良い事に。

俺の耳に吐息を吐きかけてきた。

そして.....その下半身のイケナイ場所に触ろうと.....!


俺は思いっきり退けぞった。

それから心の準備が要ります!、と言葉を発する。

そうしていると.....龍野さんはニコッとした。


「やっぱり君は.....良い子だね。小五郎くん」


「.....え?」


「.....いきなりラブホなんて.....私の性に合わないわ。.....だから試したんだけど.....貴方は私の言葉を断った。そして.....私は上司なのにね。普通はこんな艶かしい事をされたら私の様な顔だったら男は断らないわ。でも貴方は断った。.....もしかして貴方は誰か大切な人が居るのかしら?」


「.....それは.....」


何故か沙穂が悲しむ顔が浮かんだ。

それが.....もしかしたら引き金なのかも知れない。

退けぞった事の、だ。

俺は.....冷や汗を拭って.....龍野さんを見る。


「しかしその.....龍野さん。性悪ですね」


「.....私は試すのが好きなのよ。あはは」


「.....そうっすか」


「.....でもそれはそうと.....こんな対応されたら君にますます惚れそう。私」


実はね、私は貴方の事が気になっているの。

と龍野さんは俺に打ち明けてきた。

俺は驚愕しながら.....龍野さんを見る。

龍野さんは優しく俺が持っていた荷物を持つ。


「.....私の荷物を持ってくれて。そして.....私に楽しい話。.....エスコートも最高だった。貴方は.....良い男の人だわ。また.....明日ね」


「.....は、はい.....」


そして龍野さんは手を振って去って行った。

残された俺は.....目をパチクリしながら空を見上げる。

全く.....何で女性ってのは俺みたいなのに惹かれるんだ?

と思いながら、だ。

だけど問い掛けても.....夕焼け空は答えなかった。


「.....帰るか」


そうだよ。

今は俺には大切なものが有る。

沙穂という.....女の子が、だ。

だから帰ろう。

思いながら俺は.....帰宅した。

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