第6話 もう一人美人なお姉さんが出るとか知らないぞ

 隣の美人なお姉さんに、フィーリングで惚れられた。

 そして現在、お隣さん以上恋人未満という関係になった。

 ほんと、急展開すぎる。


「よし、これでおっけー」


「ほんとにこれで大丈夫なんですか?」


「うんたぶん大丈夫。私のイケメン彼氏持ちの親友がきっと届けに来てくれるから」


 そう言って朱里さんの家の扉に一枚の張り紙を貼っておく。

『左隣の家にいます』と書かれた紙を。


 貼り終えたら、再び俺の部屋に入る。


「でもなんで昨日とか、それも始発とかに届けてくれなかったんですかね」


「たぶんどっかのホテルにでも泊まってると思ってるんでしょ。私財布は肌身離さず持っておくようにしてるから」


「だったらバッグも肌身離さず持っておきましょうよ。せめてスマホくらいは」


「残念。私は財布一つしか装備できないの」


 どこのアイテム一つしか持てないクソゲーだよ。

 

「ほんと、昔から朱里さんはそんな感じなんですか?」


「そんな感じって?」


 きょとんとした表情を浮かべながら、俺のベッドに座る。

 俺は座る位置を迷った挙句、地面に座った。


「その自由な感じですよ。昔からそうなのかなって」


「あれれー? そんなに私のこと気になっちゃう?」


「別にそういうわけじゃないですよ。ただの興味本位です」


「ちぇー」


 「ぶー」と子供っぽくすねた後、ベッドから立ち上がってわざわざ俺の隣に腰を掛けた。

 そしてグイっと腕と腕が触れ合いそうな距離まで詰めてくる。


「ちょ……近いですよ」


「これくらいの距離が、お隣さん以上恋人未満かなって」


 いや腕と腕が時折触れあっちゃってる時点で恋人未満に納まっているのか疑問なところなのだが、フランクな朱里さんから見れば適切な距離なのか。

 

 でも俺は少し恥ずかしいので、腕一本分距離を取る。


 すると負けじと朱里さんは距離を詰めてきて、その繰り返し。

 そして俺が壁際へと追いやられ、これ以上いけないというところで「ついにとらえた」と満足げな表情で、今度は完全に腕と腕を密着させてきた。


 つまり、今俺は壁と朱里さんに挟まれている状態。


「でさっきの話の続きなんだけどー」


「いや普通この状態で続けます? 明らかにおかしな状態でしょ!」


「直哉君自ら壁際に向かっていったから、こういうプレイが好きなのかなって」


「プレイって言い方やめてください! なんだかいかがわしい気がするので」


「えぇそれは直哉君がお盛んなだけじゃなくてぇ?」


 つんつんと俺の頬をつついてくる。

 今の朱里さんは心底楽しそうだ。

 

 みんな、黒髪ロングの美人なお姉さんだからって優しいとは限らないと、肝に銘じてくれ。


「もうこのままでいいので、話を続けましょう」


「わかった! で、私が昔からこんな感じだったかって質問だよね。私基本的に自分のことを客観視しないからわかんないけど、たぶん昔からこんな感じ。元気さは取り柄だよ!」


 今度は太陽のようにニコーっと笑う。

 朱里さんは笑顔のバリエーションが多い。これは魅力の一つだなと、ひそかに思う。


「そうなんですね。だから過保護な親友が生まれるわけですね」


「たぶん、私と真澄は二人で一人。一心同体なのよ」


「今現在離れ離れですけどね」


「そしてイケメンの彼氏作って分離したけどね」


 妬みすぎじゃないか?

 でも女子って大体こういうものなのかな。女子と関わりが少ないから分からないけど。


「でも、今の私には直哉君がいる! もう君にぞっこんだよぉ~」


 今度はまたさらに近づいてきて、頬をすりすりしてきた。

 何だこの人。距離が近すぎる。


 さすがに耐えきれなくなって離れようとするが、離れようとした先は壁。上下へと逃げようとするが、くっついて離れない。


 朱里さんにパーソナルスペースはないのか? というか、朱里さんの肌がすべすべすぎる。自分でも、頬に神経を集中させていることが分かる。


 これが逃れられない男の性か……。


「寂しさが紛れるぅ~」


「ちょっと朱里さん。やめてくださいよ。そういうのは早いです! 恋人未満の範疇を大きく超えてると思います!」


「えぇーこれでもダメなのー? ちぇー」


 なんだかんだで素直なため、言ったらやめてくれる。ときもあるっぽい。


 ようやく壁と朱里さんに解放され、自由の身に。


 一息ついていると、「ピンポーン」と珍しくインターホンが鳴った。


 きっと朱里さんの親友、真澄さんだろうなと思いながら扉を開けると、案の定朱里さんの親友らしき人が立っていた。


「こんにちは。朱里いますか?」


 そう俺に尋ねる女性はいかにも大学生らしく華があり、目立つ長い金髪も、輝く青い瞳も、どれも常人離れした美しさを放っていた。

 白を基調にしたコーディネートは、あまりにも似合っていて、美しさが倍増している。


 とんでもなく美人な人が、もう一人現れた。

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