注目

 人からの視線に痛みを感じる。そんな錯覚を覚える程、今朝の俺には注目が集まっていた。


 里香の作戦が発覚してから全てを諦めた俺は、最早考えることを放棄して、学校の門を潜った。時間帯は、ちょうど生徒が一番多く登校してくるタイミングらしく、いつもより些か賑わっている様に感じる。

 そんな中でも俺は左右に里香と翔子をそれぞれ侍らせて、登校をしていた。


 言い訳をするのなら、里香はまぁ作戦とは言え、怪我をしていることには変わり無いわけで。支えがある方がやっぱり歩きやすいだろうと、善意で腕を貸したが、翔子に関しては完全に、悪ふざけで俺に引っ付いている。曰く「最近私に借り結構ない?」との事。

 俺は黙って腕を差し出しました。 


 そんな二人を何とか教室に送り届けると、その足で自分のクラスへと向かう。

 俺一人だというのに、注目を集めてしまっているのが分かる。よほど、里香や翔子の人気が凄いのだろう。本人達が居なくても『二人と一緒にいた俺』というだけで、これほど人目を引くのだから。

 そそくさと廊下を歩き、教室へと入ると、俺はそのまま自分の席へと腰を下ろした。

 やっと落ち着ける……わけもなく、教室内でも多くの視線を感じ、そしてヒソヒソと小声で話す声も。

 思わずため息を吐く。このまま、寝たふりでもしてやろうかと考え始めた頃。能天気そうに俺に手を振る木戸とクラスの雰囲気に若干引いている様子の楓が揃って俺の所にやってきた。


「おはよう、飯島。なかなか面白いことになってるな」

「おう、喧嘩なら買うぞ?」

「やめやめ、落ち着けって……まぁこれだけ注目されると苛立つ気持ちもわからんでも無いが」

「なら瞬君は発言に気をつけなよ……」


 楓が人差し指でブスブスと木戸の脇腹を刺しながら、眉を寄せて注意を促す。

 楓は本当にいい子だ。女の子だったら好きになっていた。うん間違いない。


「改めて、ちょっと騒がしくなっちゃったみたいだけど、大丈夫?」

「諸々大丈夫とは言えないけど、楓が気にするほどでもないよ」

「ならいいけど。でも凄いね! 昨日の今日でまさか両腕を二人に取られながら登校してくるなんて! 漫画みたい!」

 楓が目をキラキラさせながら興奮気味に言うと(今なお木戸の脇腹を攻撃中)、木戸はその攻撃を防ごうとしながら(何故か殆ど防げていない)、クラス内を見渡し。

「昨日の放課後の件がどれほど影響しているかは分からないが、今日のこの騒ぎは、まさにその事で噂になってるみたいだぞ?」

 そのこと?

 俺のよく分かっていなさそうな表情を見て、木戸は続けて口を開く。

「いや、なんか漫画みたいに美女二人を連れて登校してくる一年生が居る。みたいな話だな」

 当たり前だが上級生の方でも結構盛り上がっているらしいぞ。と、真上を指差しながら木戸は話す。

 俺達一年生が二階、以降その上を二年、更に上には三年と学年毎に階層が上がる構造になっている。 

 ちなみに、教室の窓からは校門の方が見える様になって居る為、さぞ上の階の人は良く見えていただろうと察せられる。

「なるほど……ね」

「瞬君……亮平君を虐めるなら許さないよ?」

「え? 何もしてないよ! 事実を述べただけで」

「俺は……もうダメかもしれない……」

 そんな悪ふざけをしながらも、気持ちを紛らわさせてくれる二人には感謝をしながら、俺は朝の時間を過ごす。

 時期に担任が来てホームルームが始まれば、クラスの雰囲気も多少は落ち着く事だろう。

 このまま、何事も無く過ごせば、学校全体の騒めきも治るはずだ。

 そう、何事も無く。何事もーー


「すみません! このクラスにイケメンが美女二人を侍らせて登校してきたとのタレコミがあったのですが、何方でしょう!?」


 耳が痛い程のボリュームで、その少女は臆面もなく教室へと入ってくる。

 あぁ。何事も上手くはいかないものだなと、俺は狸寝入りをしながら思うのだった。

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