作戦

 翌朝、俺達はいつもより早く家を出る事にした。

 というのも……

「りょうへい~♪」

 コアラの様に俺の胴体に抱きつく里香を見下ろし、頬の筋肉がヒクつくのを感じながら、街中を歩く。


 足の怪我から一夜明け。当然ながら今だに痛むであろう足を考慮し、俺は里香を支える様に登校をしているわけだが。


「えへへっ〜」


 里香がキャラ崩壊をおこしていた。

 昨日よりエスカレートした、抱き付き方。

 そこにはしおらしさなど皆無な態度。

 身内以外には努めて優等生キャラを演じていた筈の里香が、ここ数日お預けをくらっていた為か、タカが外れてしまっている。

 田舎にいた時ですら、外ではここまで引っ付いてこなかったのに!


「しょ、翔子。何とかしてくれ」

 俺は一縷の望みにかけて、後ろを歩くもう一人の幼馴染に声をかけたのだが。

「うーん。無理かな」

 無慈悲な返答。

「何故!?」

「だって里香が幸せそうだし」

「いやいや、このままじゃ近い未来後悔する破目に合うぞ!」

 主に俺が! 里香も羞恥で身悶えるだろうが。

「俺達幼馴染を救えるのは、お前しかいない」

「ごめん……救えなかった……」

「諦めるの早いから! まだ間に合うから!」


 歩き始めて数分。今だ学生服を着た人は見られない。

 今ならまだご近所さんに見られただけで済む。

 それなのに、翔子は助けるどころか、もはや見守るように一歩引いた位置をゆっくりと歩いている。

 もはや援軍は望めそうにない。


「里香! 足が痛いのは分かるが、もう少し体重のかけ方を考えよう!」

 昨日と同様、腕に抱きつけるように腕を前を出し、こちらに抱き付くように誘導するも。

「やだ」

 この否定を聞くのも、本日もう何度目の事だろう。

 完全に幼児退行してしまったこの娘を、どうしてくれようか。と頭を悩ませ続け、歩き続けていたが、そろそろそれも限界に近い。


 学校まで残り僅か。

 時機に学生達が姿を現すであろう、距離となっている。


 ……ここまで来ては仕方があるまい。

 実際、この足の状態では校内を歩くのも困難だろう。もういっそ全てを明けっ広げにしてしまい、堂々と里香達と過ごすのも、悪くないのかもしれない。


「わかった。そんなにくっつきたいなら学校でも俺と一緒にいていいから。その代わりもう少しちゃんとしてくれ」

 俺は諦めに似た懇願をする。


 それに反応したのは、意外にも後ろを歩いていた翔子。

「あら、ほんとに上手くいっちゃったか」

「え?」

 翔子の口振りに思わず後ろを振り向くと、真下からはくぐもった笑い声。


「ーーほら、言った通りでしょ?」

 里香は俺から離れると、一人、その両足で立つ。

 最も、右足を庇う様にして立っている様子ではあるが……


「えっと、これは一体?」

 俺は里香と翔子を交互に見ながら疑問を投げかける。

 そんな俺に翔子は苦笑い気味に、里香は勝ち誇った様な笑顔で、俺に言う。

「この怪我を機に、亮君と学校でも普通に過ごせる様にしようって」

「私が計画、実行致しました!」

 まだ足は痛いけど、元から支え無しで歩けない程じゃないんだよねぇ〜、と続け。

 満面の笑みで、言質とったから! とはしゃぐ里香に、俺は言葉通りに頭を抱えた。

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