両隣の幼馴染みと共同生活をすることになりました!

鼠野扇

新生活、始めます。

新しい生活は……

「へー! 思ったより広いのね!」

「本当だねぇ〜 これなら三人でもゆったりできるね」

「…………」

 

 二人の楽しそうな声を聞きながら俺は呆然と立ち尽くす。

 想像よりも大きな玄関。そこから続く廊下を通り正面のドアを開くと、そこには明らかに複数名で寛ぐ事が前提であろうリビングが広がっていた。

 この後、引越し業者により家具が届く予定になっている為、部屋には何もない。フローリングの床にカーテンすらついていない、ベランダへ続く窓から陽の光が差し込み、部屋を明るく照らす。

 想像以上に良い物件だった為か、連れの二人はかなり興奮気味だ。片やニーソックスち包まれた足で、スケートの様に足を滑らせベランダへと近づいて行く。

 そんな事をしたら足裏汚れるのに……

 もう片方はまるで尻尾を振る犬の様に辺りをキョロキョロ見回しながら、ニコニコと笑顔。

 きっとこれからくる家具をどう配置しようか考えているのだろう。気持ちは分からなくもない。

 

「あー!お父さん達上がってくるよー!」


 声のする方に目を向けると。

 窓を開けベランダに身を出し下を覗く少女。


「あ、癖で鍵閉めちゃいました。開けてくるね」


 部屋の内装決めに想像を膨らませていた少女は、その声にはっと正気を取り戻すとパタパタと玄関へと向かって行く。


 これから始まるのはこんな二人の少女と共に過ごす共同生活。

 きっと多くの少年青年からすれば喉から手が出る程羨ましい状況なのだろう。俺だって勿論嬉しい。

 だけど、少し複雑な気分だった。

 何故かって? それは……


「俺の一人暮らしは何処へ……」

 ぼそりと呟く俺のため息混じりの一言に。

「なによ? 私達と一緒に居られるのに嫌なの?」

「ふふっ。せっかくなら三人で新生活を楽しみましょ?」

 正面からはベランダから部屋へと戻り、口を尖らせ不満げな表情で。

 後ろからは鍵を開けて廊下の方からクスクスとした笑い声と共に。

 二人の少女に両腕をそれぞれ取られ、上目遣いで見つめられる。

 

 何か文句でも言ってやろうかと口を開きかけ……止める。

 実際問題、一人暮らしをするよりこの二人と暮らした方が楽しいのは間違いないから。

 でも、取り敢えず。

「里香、翔子……おじさん達が来ちゃうから手を離して……」

 二人の少女に、俺の顔が緩みそうになるのを出来るだけ抑えながら、何とかそれだけは伝えた。

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