クーデレすぎる義妹に毒舌を吐く度にキスをすると言ったら毒を吐きつつデレてきます

しゆの

第1話

「眠い……」


 朝ご飯を食べるためにリビングまで来たが、橋本遼はしもとりょうは盛大な欠伸をした。

 十月という過ごしやすい気温と、週明けの月曜というのが原因だろう。

 眠気が取れず、学校に行く気が起きない。

 一応、きちんと学校には行っているが、高校二年生になると面倒な気持ちすらある。


「はあ……兄さんは本当にだらしないですね。土日はあんなに寝たというのに」


 一つ下の妹である橋本聖雪はしもといぶが呆れたようにため息をつく。

 二人は血の繋がっていない兄妹で、聖雪はだらしない遼に毒を吐きまくる。

 死ねとか言うわけではなく、遼がだらしなすぎるために呆れてしまって毒舌になってしまうだけ。


「聖雪よ……そんなジド目で毒を吐いたら、せっかくの可愛い顔が台無しだぞ」


 遼の言う通り、聖雪はとんでもない美少女だ。

 きちんと手入れされている銀色のストレートヘアーは腰まで伸びているにも関わらず一切の枝毛などないし、長いまつ毛に藍色の大きな瞳、潤いのある綺麗な唇、透き通るような白い肌は誰もが見惚れてしまう。

 基本的に丁寧な言葉遣いで品行方正なのだが、兄に対してのみ毒を吐く。

 ちなみに聖雪の名前はクリスマスイブが誕生日だからという単純な理由でつけられた。


「兄さんは本当にどうしようもないくらいにシスコンですね。心療内科に行けば治りますか?」

「俺のシスコンは絶対に治らない。聖雪が可愛すぎるのが悪い」

「いくら妹が可愛いからって、普通はシスコンになりませんよ」


 本当に兄には容赦がない。


「実は嬉しいくせに。上手く好意を伝えられないから毒を吐くんだろ?」

「はああぁぁ。自意識過剰もいい加減にしてください。私が兄さんを好きなんてあり得ないですから」


 何で私が兄さんを好きにならないといけないんですか? という視線を向け、聖雪は「むう……」頬を膨らます。

 どう見ても怒っており、シスコン過ぎる兄に嫌気が差したのだろう。


「ごめんごめん。でも、聖雪が毒を吐くから」

「それは兄さんがどうしようもないシスコンでだらしないからです。ちゃんとしていたらそんなことは言いません」


 最もな意見で、遼がまともであれば聖雪もあんなことは言わない。

 両親が出張でいないので家事を分担してやらなければならないのだが、面倒くさがり屋の遼はほとんど家事をしないのだ。

 そんな遼に聖雪は呆れてしまい、どうしても毒舌になってしまうのだろう。


「毒を吐かれたら流石の俺も嫌だから、少し対策を考えた」

「対策ですか? だらしない生活を改めてくれるんです?」

「笑止。俺がそんなことをするとお思いか?」

「全く思ってないですね。それでどんな対策を考えたのですか?」


 「ふふふ……よくぞ聞いてくれた」と遼が不敵に笑うと、聖雪はほぼ反射的に「キモい」呟いて後退る。

 本能が聞いてはならないと感じとったのだろう。


「聖雪が毒を吐く度にキスをすることにした」

「…………は?」


 数秒の沈黙の後、ようやく聖雪は反応したが、よくわからないといった感じになっている。


「だから毒を吐く度にキスをする」

「はあぁぁ? 兄さんはアホなのですか? バカなのですか? いえ、どっちもですね」

「ふむ……今のは三回だな」

「え? ちょ……」


 毒を吐かれたので、遼は早速聖雪の背中に手を回して引き寄せた。

 それにより女性特有の甘い匂いや感触が遼の脳を刺激する。


「兄さん、私たちは兄妹なのですよ? それなのにキスをするなんて変です」

「嫌なら毒を吐かなければいい」

「そ、それは兄さんがだらしないからです。真面目にすればそんなことを言いません」

「俺は真面目にだらけているだろうが」

「それは真面目ではなく、自堕落というのです」


 聖雪の意見は正論であるが、遼にそんなことは通用しない。

 相手が妹だろうと、毒を吐かれたらキスをすると決めたからする。


「本当にされるのが嫌なら俺のことを突き飛ばせばいいじゃないか。そんなに力は入れてない」


 遼の言った通り、聖雪が抵抗すれば離れることが可能だ。

 だけど聖雪は口ではあんなことを言っているが、抵抗しようとしない。


「うう~……兄さんのアホ」


 逃げれないのわかってるくせに……と、ウルウルとさせた瞳を聖雪は遼へと向ける。


「じゃあ、四回だな」


 まずは前髪を退かしておでこに軽くキス。

 それにより聖雪の顔は真っ赤に染まり、毒を吐く割には初心だということがわかる。

 毒舌になってしまうのは、自分に向けてくれる好意が恥ずかしいからだろう。


「兄さんってキスとか初めてですよね?」

「そうだな。はっ……まさか聖雪は初めてではない?」


 妹に溺愛している遼にとって、聖雪が初めてじゃなかっただけで発狂してしまいそうになる。

 そして「聖雪の初めてを奪ったやつは誰だ? 殺しに行く」などと呟き、今にもどうにかなってしまいそうだ。


「な、何言ってるんですか? 私がそんな破廉恥なことするわけありません」

「そうか。これから俺にファーストキスを奪われることになるけどな」

「兄さんはロマンチックにキスをしようと思わないのですか? 女の子のファーストキスは特別なんですよ。それなのに毒を吐くからという理由でキスしようとしてくるなんて……」

「今のは毒を吐いたとカウントしてもいいのだろうか?」

「知りませんよ。理由がないとキス出来ないヘタレ」

「ええぇ……」


 ヘタレなんて言われると思っておらず、遼は驚いてしまう。

 毒を吐くのが当たり前になってはいるが、ヘタレと言われたのは初めてのこと。


「私は理由がなくたって兄さんとなら……」

「ん? 何て?」


 至近距離だったにも関わらず、聖雪は小さな声で呟いたために遼は聞き取れなかった。


「な、何でもありませんよ。それよりどうするんですか? しないならご飯食べて学校に向かいますよ」

「するに決まってるだろ」

「なら早くしてください。しょうがないので、私のファーストキスを捧げてあげます」


 仕方ないような感じで言っているが、聖雪の口元がニヤけている。

 とても可愛らしく、思わず遼は聖雪の頭を撫でてしまう。


「に、兄さん、あんまりのんびりしていたら遅刻してしまいますよ。するなら早くしてください」

「そうだな。休んで何回キスすることになるか数えてみたいだけど、それだと聖雪が怒るだろうし」

「ズル休みするようなら兄さんと口を聞きませんね」


 聖雪と口が聞けないことがあっては、遼が生きていけなくなる。


「じゃあ、次はここ……と」


 プニプニと柔らかい頬にキス。


「次は口かな」

「はい……初めてですから乱暴にはしないでくださいよ」


 頷いてから、遼はゆっくりと聖雪の顔に近づけていく。

 温かい吐息が感じられ、思わず遼は息を飲む。

 最愛の妹である聖雪のファーストキスを貰えるとあって少し緊張してしまい、後少しのとこで遼はキス出来なくなる。


「兄さんは本当にヘタレ」

「ヘタレじゃない」

「なら早くしてくださいよ。本当に後少しなんですから」


 後、一センチでも近づけば、二人の唇は触れ合うことになるだろう。

 それなのに寸前のとこでこうなってしまっては、ヘタレだと思わずにはいられない。


「私の知ってる兄さんはシスコンでどうしようもないですけど、いざという時はちゃんとしてカッコいいんですよ。だからシャキっとする」

「いしゃい」


 渇を入れるためか、聖雪は遼の頬を引っ張る。


「兄さんは学校で馴染めない私のために必死に頑張ってくれました。その時の兄さんはどこにいったのですか? 今はだらけすぎてカッコいい兄さんは消えたんですか?」


 そう言われて遼は小学生の時のことを思い出す。

 二人は両親の再婚によって兄妹になり、再婚によって転校することになった。

 新しい学校で聖雪は日本ではあまり見ない見た目と名前のためか、クラスに馴染むことが出来ないでいたのだ。

 周りと見た目が違いすぎるから差別されるというのは良くある話で、聖雪も例外ではない。

 見た目のことはいっぱい言われたし、教科書や上履きを隠されたりした。

 言葉の暴力により聖雪の精神は限界にきてしまい、学校にも行かなくなったほど。

 日に日にやつれていく聖雪を見てられず、遼は当時お小遣いを貯めて買った漫画や人気キャラのカードなどを腕っぷしの強いクラスメイトにあげて、一緒に彼女のクラスに乗り込んだ。

 そして聖雪への虐めを止めさせた。

 もちろん少し問題になって虐めてた児童の親が文句を言ったのだが、遼は携帯のボイス機能で録音されている音声を聞かせてモンスターペアレントを黙りこませたのだ。

 流石に証拠があっては文句を言うことは出来ない。

 遼の両親も参加し、証拠があるからこれ以上するなら訴えることも考えていると言うと、最早モンスターペアレントになす術はなかった。

 それに虐めてた児童も低学年じゃなくて、ある程度考えられる年齢で、虐めはダメなことだってわかるはずだ。

 それなのに虐めてたのだから、その家族を訴えたとしてもおかしくない。

 だから虐めてた児童の両親は必死に「もうするな」と自分の子供に言い聞かせ、聖雪の虐めについてはカタがついた。


「あの時の兄さんは童話に出てくるような王子様でしたよ。まあ、シスコンになってしまいましたが」


 虐めを止めさせた後、遼は聖雪の心のケアに徹していたために重度のシスコンと化す。

 最初は嬉しそうにしていた聖雪であるが、中学に入ってから鬱陶しいと思ったようで、それから毒舌になった。


「だからあの時のようにカッコいい兄さんを見せてください」

「わかったよ」


 遼は深呼吸をし、再び聖雪の顔にゆっくりと近づけていく。


「んん……」


 ようやく遼の唇と聖雪の唇が触れた。

 生まれて初めてのキス……衣服の唇はとても柔らかくて熱くて止められる気がしない。


「さて、キスもしましたし、ご飯を食べて学校に向かいましょう」


 キスを止めると、聖雪はいつもの涼しい顔に戻った。


「超クール」


 そんな言葉とは裏腹に、遼から顔を見えなくすると聖雪の口元からは笑みがこぼれる。


「兄さん、ずっと大好きです」

「ん? 何て?」

「何でもありませんよ」

「そうか。でも、後一回残ってる」

「ヘタレたから一回分消費させました」

「そ、そんなあぁぁ~」


 もうキスが出来ずに項垂れてしまうが、聖雪は遼の唇に人差し指を当ててこう言った。


「兄さん、また毒舌を吐いてあげるので、その時はキスしてもいいですからね」

「いや、毒舌を止めてほしいんだが……」

「それは無理な相談ですね」


 笑みを浮かべながら「毒舌を止めたらキスしてくれなくなりそうですし」と聖雪は小声で呟く。


「兄さんが自堕落な生活を止めてヘタレじゃなくなったら言わなくなりますよ」

「俺はヘタレじゃない」

「ヘタレじゃないですか。いざとなった時にキス出来ずだし、理由がないと出来ないヘタレ」


 図星を言われて遼は反応出来なくなる。


「だから私は毒舌でいてあげるんです。キス出来る理由が出来て良かったですね」

「なら、ヘタレヘタレと毒を吐いたからキスしてやる」

「んん……んちゅ……」


 何回もヘタレと言われたので、遼はたっぷりと聖雪にキスをしていく。

 聖雪の口から甘い声が漏れても気にせず、自分が満足いくまで止めない。


「兄さんのバカ。本当に遅刻……んん……」


 遼は再びキスをする。


「兄さん……」


 キスをされすぎて、聖雪の顔は蕩けきっていた。


「学校休む?」

「いちいち聞かなくてもわかるようなことを言わないでください。行くに決まってるじゃないですか、このシスコン」

「行くのか?」

「当たり前です。ただでさえ昔は引きこもってしまったのですし、今は学校に行くと決めているんです」

「そうか。ならしょうがないな」


 遼は聖雪から離れてご飯を食べようとする。


「あ、でも、行く前にもう一度キスをしてもいいんですよ? ヘタレな兄さん」


 上目遣いで頬を赤らめながらの聖雪は、遼にとって効果は抜群だ。

 再びキスをし、学校にはギリギリの時間に着くのだった。

 でも、二人が幸せを味わえたのは言うまでもなち。

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