グリドラ公爵令嬢の行方不明

愬月茉乃

グリドラ公爵令嬢の行方不明

 とある国ではある噂が流れていた。



 バンッと勢いよく執務室のドアが開けられる。


「王子! グリドラ公爵令嬢が駆け落ちだって! お相手は元平民の女の子だっていっ……」

 

 俺は入ってきた男を物凄い目付きで睨んだ。グリドラ公爵令嬢は俺の婚約者レビィアだ。駆け落ち?冗談じゃない。それに相手が女だって?そんな素振り、一度も俺には見せてない。


「ヅール……それは事実か?」

 

 きっとただの噂だ。だが、駆け落ちしてしまったという噂ならば、今は王都にいないということか?


「昨日から公爵邸に帰って無いそうだ。それに、侍女の一人も行方不明らしい」


「今から探す。仕事は今日の分はもう終わらせてある。今は夕方、5の刻だから、まだ今の季節は日も落ちない。少し席を外させてもらう」


◇◇◇



「ヅール。公爵にもあってきたが、やっぱりレビィアは王都に居ないのかもしれない……。王都の知り合いに片っ端から聞き込みをしたが、誰も見ていないらしい。そんなに俺は婚約者として駄目だったのだろうか」


「……嘘ですよ」


 あまりに小さくて聞こえなかった。


「え? ヅール何て言った?」


「だから、噂なんて最初からありませんよ。演出です、演出!」


 おい、王子騙しといて罪に問われないとかおもってんだろうけど、……まぁ側近だからしょうがない。


「最初から、王子の愛を試していました。どんなに変わった婚約者でも受け入れられるか、そして探しだそうとするか」


「噂は、公爵も知っていた。そして、そうかもしれないといっていた」


「そんなの、口裏合わせてたに決まってるじゃないですか。公爵、さすがですよね、迫真の演技。いつも本心が見えないから大変だけど、こういうときはいいと思いますね。王子さんはどうせ公爵にも噂について聞くと思ったし、全員に噂を流さずとも、聞きそうな相手を予測しやすいですから」


「……ひどい。こんな試さなくてもいいじゃん。俺、婚約者にたいして愛が伝わってないの?」


「殿下、余所でのろけ回ってる癖に婚約者当人は『殿下に嫌われています。どうしたら改善できるでしょうか?』って聞いてくるんですよ?」


「そんなに、というか逆に凄いな。こんなにも好いているのに」


「心を覗くような魔術を使わなければわかりませんよ。ちゃんと伝えてくださいヘタレ王子。ほら、そこに」

 

 ヅールのさす後ろをみると、執務室の入り口のドアが少し開いていた。

 そこには、顔を俯かせたレビィアがいた。


「レビィア、ずっと勘違いさせていたようで、すまない。……俺はレビィアが好きだ。その気持ちは昔から変わらない」


 レビィアが顔をあげる。何だか顔が赤い。


「殿下、わたくしも殿下が好きです。わたくしも昔からお慕い申しております!!」


 部屋の隅でヅールがニヤニヤしているのはこの際気にしない。空気だ空気。


「レビィアは何故愛を試すなんていって変なことしたの?」  


「……愛を試すとは大袈裟です。最近、殿下に嫌われていると思っていた私はヅール様に相談をしていたのです。ヅール様は、殿下が私を嫌うなんてあり得ないとおっしゃいましたが、あまり信じられず、それなら、試してみようとなりまして」


「へぇ、そーなのヅール? レビィア、これからは俺に何でも相談すること。いいね?」


「わ、分かりました。」


「でんかー、それはあんまりじゃない? 殿下に殿下のことを聞くのってなんかあれだよ」


「俺以外の人とあまりいて欲しくない。今回のせいで、女でも心配になる。嫌いにならないでほしいが、嫌いになったのなら一番最初にそれを知りたいし、日常の楽しいことも何でも全部知りたい」


「殿下のことを嫌いになんてなりません!」


「レビィア嬢、殿下の中身こんなのだけどほんとにいいの?」


「ヅール様、確かに殿下に関する相談を殿下にするのはあれですけど。それ中身ならば私の方が酷いと思いますので」


「私は昔から殿下といつも一緒にいるヅール様に嫉妬しておりました。何故、私よりも? 婚約者なのに全く話もできない私よりも下らない話ができるのです! っと、心のなかでは毎日のように」


 ヅールが「もっと重症だ……」っていっていたのは聞かなかった。


「レビィア、すまない。それには訳がある。俺はレビィアが好きすぎるあまり、婚約者なのに引かれて婚約をなかったことにされるのが怖くて、あまり近づけなかった」


「殿下最初会った時から大好きでしたもんね。一目惚れでしたから」


 ヅールには肘で脇腹を強目につついておく。


「これからは誤解を招かないように、毎日話しかけてもいいか?」


「もちろんです。殿下と毎日お話したいです。学園卒業まであと一ヶ月ですが、宜しければ一緒に下校しませんか?」 


「友達はいいのか?」


「いつも5人程で帰っていたので、私が居なくても一人にすることもない為、話せば大丈夫だと思います」


「では、明日から」


「はい!」

 

 嘘をつかれるのは困るが、お陰でレビィアと帰れるようになったから、少しだけヅールを見直した。

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グリドラ公爵令嬢の行方不明 愬月茉乃 @sozu_mano

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