第17話 旅人の授業:休憩

「……ん、こんなもんかな」


 前半の授業が終わり、後半の準備(と言っても授業内容のメモを見る程度だが)をしていると、ミリアが話しかけてきた。


「あの、レオンさん、少しいいですか?」


「ええ、構いませんよ。何か質問でもありましたか?」


「その……、レオンさんは魔法を使えないといっていましたよね?」


「ええ、そう言いましたね。なので他の子たちに技術的なことを質問されたらできるだけ答えてあげてください」


 それは授業をすると決まりそうなときに念押しをしていたことだった。授業をするのはいいが、教えられるのは座学だけで、あとはせいぜい旅の中で得た知識が少し話せるくらいだと。

 授業を受ける全員に話して納得もしてもらったはずなのだが、やはり不安だっただろうか。そう思ったのだが、


「でも、光魔法の素養がありますよね?」


「…………ええ、そうですね」


 思いがけない質問だった。そうか、魔力眼を持っているなら気づくのも当然か。


「……使えない、いえ、使わないのは、……その、『個人的な理由』ですか?」


「そういうわけじゃない……ああいや、ある意味じゃそれが理由ですかね」


「どういうことですか?」


「教えてくれる人がいないんですよ」


 光魔法は『神聖な力』だ、その扱い方はどこに行っても教会とか、そういった団体によって秘匿されていた。

 それはこの地方でも例外ではなく、アリステア教という一大宗教によって秘匿されていた。

 このアリステア教は今まで旅をしてきた中でも最大の規模を誇る宗教で、その教義の中に【命令】持ちを悪と断ずる一節がある。……今までも「人の心すらも操る存在だ」と敬遠されてきたが、こうも直接的に明言されているのは驚きだったな。『個人的な理由』というのはこの悪者扱いの事だろう。

 とにかくそんなわけで、ただでさえ嫌がられる【命令】持ちに光魔法を教えてくれる奇特な人間には出会えなかった。教えてくれる人がいないというのはそういうことだ。


「まあ、だから俺は魔法を使えません。野営中に焚火から離れて作業できるというのは魅力的なんですけどね」


「そうなんですね、高い適性があるみたいなのに勿体ない……」


「【命令】持ちじゃなければよかったのに、と文句を言われたことならありましたね」


 どうやら納得したらしい、本当に勿体なく思ってくれているようで少ししかめっ面をしながら呟いたところへ苦笑しながら付け加えて話を締めくくった。


 そこへ、カイがやってきた。後ろには、授業を受けていた子供たちのうち、年少者たちを引き連れている。


「レオにい、みんなが『魔法のべんきょうやめた方がいいのかな』って心配しちゃってて……」


「……やっぱり、脅かしすぎちゃいましたよね……」


 …………やはりやりすぎてしまったらしい、魔法の危険さを教えることには成功したが、その結果必要以上に不安をあおってしまった。どうにも教えるのは苦手だ。

 とにかくこのままでは逆に危険だろう。そう考え口を開く。


「皆さんには『魔法は危険なものだ』という話をしました。それについては理解してもらえたと思います」


 全員が頷く。


「では、どうして危険なのでしょうか?」


 即座に答えが返ってくる。


「人にけがをさせるかもしれないから」


「では怪我をさせないように人に向けて使わなければいいですよね?」


「しっぱいするかもしれないよ?」


「じゃあ失敗しないように練習しましょう」


「でも、れんしゅうしてるときにだれかが来たらあぶないし!」


「なら練習しているときは友達に頼んで人が不用意に近づかないようにしてもらいましょう。これでもまだ魔法は危険ですか?」


「……たぶん、きけんじゃない」


 みんなが『危ない』ということ一つ一つに対して対処法を挙げていく。そうしていくうちに過剰な恐怖心は取り除くことができたようだ。


「……大事なのは、何が危険なのかを知ること、そして適切な扱い方を学ぶことです。なのでこの後の授業もしっかり受けてください」


 そう言ってこの話は終わりだ、……とそう思っていたのだが、


「……やっぱりレオにいのしゃべり方こわい!」


「はい?」


「こわい人じゃないのにこわい人みたいでヤダ!」

「もっとふつうにしゃべって!」


「え、ええと……。」


 急に口々にそんなことを言われる。つまり感情の起伏を感じられない話し方が嫌ということなのだろうが……。


「いやでもこれは【命令】が暴発しないように必要だからそう簡単には―――、」


「そうかもしれないけどヤダ!」


 埒が明かないと思い助けを求めようと近くにいたミリアに目を向ける。しかし、


「……確かに暗殺者みたいですよね」


 詰め寄られているのが面白かったのか、クスリと笑いながらそんなことを言ってきた。


―――別に多少暴発した程度じゃそいつらも怒らねぇだろ。諦めて普通に喋ったらどうだ?


 ちょうど戻ってきたヴァルナにまでそう言われてしまったらもう諦めるしかない。


「―――ああもう、分かった! 分かりました! この暗殺者みたいな喋り方はやめますからとりあえず席に着いて! 後半の授業始めますよ!」


「「「はーい」」」


 こんな調子じゃ休憩が終わらない。そう考え無理やり話を切り上げた。

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