4

 次々と旗を取り、最後の1本。ここまで順調。順調すぎて怖いくらいだった。相手が練習不足なのか相性がよくなかったのか、それとも……。

 防衛のためにヒメと玲音を残し、最後の1本目指して大型液晶モニターのあるエリアを一人目指した。


『最近調子悪いね』


 聞き覚えのある声とセリフがする。声のする方にはモニター。


『調子悪いっていうか、やる気が無ぇんだろ』


 モニターには、あの時の玲音とヒメが映っている。なんでこのシーンが? まだ癒えていない傷が痛む。急いでこの場から立ち去りたい衝動に襲われた。しかし非情にも映像は続く。


『俺たちは優勝するためだけに組んだチームだ。もともと仲が良いわけでもねぇ』


(その通りだ。僕は、それなのに迷惑をかけて……)


 僕は静かに次の言葉を待った。けれどモニターから返ってきた言葉は意外なものだった。


『けどな、練習が疎かになるくらい気掛かりなことがあるなら相談しろよ』


「あれ……?」


『一応聞いてやる』


 一言目で勝手にいっぱいいっぱいになって、二人の言葉を僕は、ちゃんと聞けてなかったんだ。

 背後から足音がして振り返ると、同じようにモニターを見る相手チームのメンバー、いや……"僕"がいた。それもさっきまでのやる気が出ない僕。僕の姿を見てもうひとりの僕はボロボロと涙を流し始めた。


「僕、みんなと大会に出たいんだ。決勝を諦めたくない」


 僕は最後に残った青いフラッグを握り、もう一人の僕に手渡した。


「諦めなくていいよ」


―――次はちゃんと皆に自分の気持ちを話そう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る