第7話 貴重な笑顔

食器を洗い終えた紗良は柚稀に言われダイニングテーブルの隣にあるソファーに腰掛けた。

 


「(え、なんでテレビ見てるの?

この家の事教えてくれるって言われたから柚稀さんの隣に座ったのに……)」

  

  

 紗良の一人分空けた隣には柚稀が座っている。

 

 だが、紗良を呼んだ当の本人はテレビに夢中になっていた。

 

 

 何かの刑事ドラマを見ているようだ。

 

 

「……終わった。見たか、あの推理は凄いな」

 

 

 テレビから紗良に視線を移した柚稀。

 

 そこには、仏頂面ではなく笑みを浮かべた柚稀がいた。

 

 

「……っ! はぁ」

「(その笑顔は反則でしょ!

普段笑わない人の笑顔は破壊力がありすぎて心臓に悪いよ……)」

 

 

 思わず顔を逸らす紗良。

 

 

「俺は犯人によってミスリードされてたようだ」

「……」

「(でも、なんなんだろ? この人。

怖いと思ったらテレビの感想言ってくれるし貴重な笑顔見せるし。

てか、私今のドラマ途中からだから全然わかんないよ)」

「あ、家のことだな。

まず、朝食だが俺はパン派だ。後は好き嫌いはない。

俺の部屋に入らなければ好きなようにやってくれ。わからなければ聞けばいい」

 

 

 先ほどの笑顔はどこかへ消え、柚稀は仏頂面に戻っていた。

 

 

「あ、わかりました。

……えっと、柚稀さんの部屋はどこですか?」

「お前の部屋の向かいだ。絶対に入るなよ」

 

 

 ——そして睨みながらそう口にした。

 

 

「は、はい」

 

 

 それから紗良は朝の内に柚稀が回した洗濯物を干した。

 

 その後は掃除機をかけ、ひと段落した所で自室へ戻った。

 

 

「疲れた……。

自分の家じゃないから掃除とかもう、怖い。高そうな物いっぱいあるし」

 

 

 そのまま、紗良はベットに転がったのだった。

 

 

「……なんで柚稀さんの部屋入っちゃいけないのかな?

掃除機かけてないけどいいのかな? まあいいっか」

 

 

 ──コンコン

 

 

 

 暫くすると、ドアを叩く音が聞こえた。

 

 

「は、はい」

「外案内する。ついでに買うものあんなら買えよ。行くぞ」

「はい」

 

 

 近くのコンビニ、スーパー、ショッピングモールの場所を柚稀に案内された紗良。

 

 

 2人はそのまま、ショッピングモールで買い物を始めた。

 

 使えそうな物を買い物カゴに入れる紗良。

 

 

「柚稀さんは好きな食べ物なんですか?」

「肉」

「お肉ですね。わかりました」

 

 

 紗良はお肉をいくつかカゴに入れた。

 

 

「(なんか2人で買い物してると傍から見たら夫婦に見えるのかな?

嫌だな、こんなイケメンの隣歩くの)」

 

 

 レジを済ませ店を出た2人。

 

 

 買い物した2袋分の荷物は柚稀が持っている。

 

 袋詰めが終わるや否や柚稀に荷物を持っていかれたのだった。

 

 

 紗良が持つと伝えても柚稀は聞く耳を持たなかった。

 

 

「お昼……出来ました」

「ああ」

 

 

 帰宅するなり、紗良が作ったのは親子丼。

 

 卵が半熟になっており、見た目はとても美味しそうだ。

 

 

「いただきます」

「……」

 

 

 柚稀が食べるのをじっと見つめる紗良。

 

 

「お口に合いましたか?」

「ん、美味い」

「よかった……」

 

 

 柚稀の返事に安堵した紗良は親子丼を食べ始めた。

 

 

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