7.1位の俺が捨てた愛

「おい、お前らもお前らだ! 俺はお前らに愛されてると思ってたのに、あいつの言うことめっちゃ鵜呑みにするじゃん。なんなの?」


 動かないコメント欄を睨みつけながら、吐き捨てた。


「ここまで一緒にやってきたんじゃないの? お前らも俺のことを応援してくれてるもんだと、信じてくれてるもんだと思ってたのにさ。なんにも言わないどころか、たかが荒らしのコメント信じちゃってさ」


呑兵衛@酒に呑まれる全ての人に愛を

「全ては酒が悪いのさ。おじさんそうして今も生きてる」


麗華

「どうしていいか分からなかったっていうか…」


とりちぃ

「それよりさっきの言葉、めちゃくちゃ女の子のことバカにしてる言い方だったよね。男ってそんなんばっかり」


たっちゃん

「正社員がそんなに偉いのかよ!」


月(るな)

「ハッキリ否定してください」


アヤメ

「ただのん…」


 ワインを口に運びながら流れるコメントを目で追う。どいつもこいつも、口先ばっかりで腹が立つ。


「そんなに俺のことを信じられないっていうなら、どうぞお好きに。俺は俺だし、お前らもそう思ってくれてるもんだと信じてたのに。たかが荒らしのコメントに、こんなに心動かされちゃうわけね」


 アルコールのおかげで饒舌になった口が、俺の心の内を吐き出していく。


「失望したよ。そんで、今は怒りだ。あいつがその元凶だけど、そんな言葉をすぐに信じるお前らに腹が立つ。俺が1位じゃなかったらお前らはここに居ないのか? 俺の代わりはいくらでも居るっていうのか? 今までの時間は、じゃあなんだったんだよ!」


月(るな)

「信じさせてください」


ななか

「なんでそんなこと言われなきゃならないの?」


Kiki

「失望したのはこっちなんだけど」


黒夜/低音系ボイス

「ただのん、落ちつけwww」


 もうどうにもならない。自棄になって、さらにワインを煽る。


「俺が信じてたリスナーはこんな簡単に離れてっちゃうわけだ。俺だけが信じててバッカみてえ。くっっっだらねぇ。こんなん全部ゴミだ。ゴミクズだ。んなもん全部捨ててやる」


 吐き捨てるように毒づいた。


 その勢いのまま、コメントもろくに確認せず俺は配信を切った。


「………………」


 スマホをベッドの方に投げつけた。収まらない激情に口は動くが言葉にならない。


 熱を持った両目で部屋を見渡す。


 倒れたままのコップ。その縁から赤い液体がテーブルを濡らしている。元はブドウだったとは思えない液体が異臭となって俺の鼻に届く。カーペットには大きな染み。俺のズボンにも赤黒い染みが広がっている。


「どうしてこんなことになっちまったんだ……」


 唐突に空しさが込み上げてきた。誰も居ない部屋で、画面に向かって一喜一憂。荒れた室内と、増えるばかりのアルコール。果ては自分の生活にまで影響を及ぼして。


「うぅ……」


 これで終わりかもしれない。


 ようやくその考えに辿り着いたら、顔面が涙で濡れた。熱を帯びた両目よりも、ずっとずっと熱い涙がとめどなく溢れて止まらない。


「なにしてんだ、俺……」


 そう呟いてみるものの、流れ落ちる雫は留まるところを知らない。しまいには獣のように声を上げて泣いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る