12.初のリア凸だったけど
「…ってわけで、めちゃくちゃ有意義な時間を過ごしましたとさ!」
飲み慣れた味のビールを流し込みながら、報告を終えた。もちろん、全部は言っていない。アヤメと事前に決めていた、言ってもいい部分だけだ。
「アヤメまじで可愛くてびっくりしたわ~。またそのうち遊びに行こうな!」
アヤメ
「楽しかったよね~!」
麗華
「すごく楽しい時間を過ごしたんだね~」
月(るな)
「私の住んでるところからは結構遠いんですよね……」
ななか
「あたしも一緒に過ごしたぁい」
カナコ
「私だったら何歌おうかな」
ぴよち
「わたしのただのんが!」
さとし
「くそ~! うらやましいぜ! 俺も可愛い女の子とデートしてえ!」
呑兵衛@酒に呑まれる全ての人に愛を
「やっぱりおじさんが見込んだ男だよ、ここまで来るなんて君は。全く鼻が高いね!」
見慣れた面々のコメントを見ながら、俺はアヤメの柔らかい唇を思い出していた。しっとりと吸いつくような肌も、眉間に寄る皺も。
「まぁまた時間が合えば誰かとリア凸することがあるかもしれないな~。お前ら全員と会うことも、遠くない未来かもな!」
このFORKを始めて、俺の人生は180度変わった。自堕落で無意味な日常から、全てが上手く行くバラ色の人生へと。
このアプリで1位を獲り続けている限り、女の子にも遊ぶ金にも苦労しない。俺の話すことにうんうんと頷いてくれるリスナーに囲まれて、有意義な時間を過ごすことができる。
つまらない毎日の仕事だって、配信で話せばネタになる。
完全に俺の生活はFORK中心に塗り替えられたし、それでいいと思える。
「こんなに楽しい毎日が俺にやって来るなんて思いもしなかったよ。ホント、お前たちのおかげだわ。ありがとうな」
「…っつっても辞める訳じゃないからな! これからもっともっとたくさんのリスナーに愛されるナンバーワンをやっていくからさ、ブーストの応援よろしくな!」
毎日毎日見ているこのアイテムたちが、今は現金に見える。こっそり画面を操作して、今日の配信でもらったブーストのポイントを計算してはほくそ笑む。
早くも次の週末のことを考えて、鼻の下が伸びた。
「じゃ、今日はこの辺でお開きということで。また明日の配信、来てくれよな! お疲れ!」
月(るな)
「また明日待ってます」
とりちぃ
「お疲れ様―!」
Kiki
「お疲れさまでした~」
麗華
「ゆっくり休んでね」
ぴよち
「お・や・す・み・な・さ・い」
黒夜/低音系ボイス
「あとで詳しく聞かせろよなwww」
途切れたところを見計らって、配信を切った。
配信を切ると、ピンと張っていた緊張が一気に緩んでぐったりする。これは始めたての頃から変わらない。
「喉痛え」
そう言いながら水を取りに行くのが億劫で、仕方なくビールを口にした。すっかりぬるくなって、しぶとく居座る炭酸が喉を焦がしていく。
台所の隅の空き缶の山にちらりと目をやる。1位になってから格段に酒の量が増えた。ゴミの日をうっかり忘れてこのザマだ。近所のスーパーやコンビニに捨てに行こうかとも考えたが、あれをガラガラと持ち歩く姿がダサすぎて萎える。
「さーて、誰かいい子はいるかな……と」
机に置いたスマホを手繰り寄せ、目ぼしい女の子にDMを返す作業を開始した。
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