11.夜はこれから

 ふわふわといい気分で、キングサイズのベッドに座っていた。清潔感といやらしくない程度の高級感がある内装。アロマか何か、甘めのいい匂いが空間を満たしている。


 落ち着いたBGMを適当なJ-POPに変え、ボリュームを上げた。


「じゃ、カラオケにいるっていうことで」


「オッケー」


 せっかく1位になったんだから、毎日配信しないと勿体ない。その気持ちだけで、この後を想像して焦る心を落ち着かせた。深呼吸を一つして、配信画面を開いた。


「はーい、みんなおつおつ。今日も楽しい一日を過ごしたか? 俺は今カラオケで休憩中~」


月(るな)

「歌うんですか?」


Kiki

「ただのん歌上手そう!」


麗華

「カラオケなんて珍しいね」


「今日はちょっとね~、この前俺の配信に来てくれたアヤメと一緒にいまーす!」


『みなさん、こんばんは! ただのん、めっちゃイケメンだよ!』


黒夜/低音系ボイス

「ただのん、やるじゃんwww」


とりちぃ

「えー! あたしとも今度デートしてよ!」


そら

「ただのんとデートうらやましい~」


たっちゃん

「うおー! 俺も女の子とデートしてえ!」


「たまたま家が近かったみたいでさ。住んでるところを公開してみるもんだな!」


『想像してたより、ただのんがイケメンで緊張してますぅ~』


 そう言いながら、アヤメは俺にすり寄ってくる。上目遣いで見てくるその目に、吸い込まれそうになる。


「そういう訳で、今日はアヤメとカラオケを楽しむからさ!」


「でも配信もしないとな~と思って、報告に開いてみたわけ! 歌はまた今度聞かせるから、それまでアイテムとっといてよ!」


月(るな)

「私もデートしたいです」


ふーみん

「ふーもブースト頑張るから会ってほしい!」


ななか

「ただのんに会っただけで、元気になれそう」


 適当にだらだらと実のないことを垂れ流していった。


 その間も、アヤメはしゃべりすぎず、かと言って無言になることもなく、配信に参加した。俺のスマホを一緒に覗き込むその距離が近すぎて、ドキドキしていた。


 触れたら弾けてしまいそうな柔らかで瑞々しい肌が、ほんの数センチの距離にある。熱い息遣いや、いたずらっぽく笑って俺にちょっかいをかけるアヤメの指から目が離せなかった。


「今日は短いけど、ここまで! みんなまた明日!」


 飛んでくる課金アイテムが途切れるところを見計らって、配信を終了した。


「次は私との時間だね」


 あやしい笑顔で言うアヤメの言葉が耳をくすぐる。


「シャワー浴びてきたら?」


 上擦ってしまいそうな声を必死で抑えて言葉を返した。うん、と一言残してアヤメは風呂場の方へと姿を消した。


「やっっっばい」


 流れてくるシャワーの音を聞きながら、このあとのことに頭がじわじわと支配されていく。


 こんな休日を過ごしたことが、いまだかつてあっただろうか。彼女もいたことはあるが、それとは違う充実感が確かにあった。


 FORKで1位になっただけで、こんなことになるなんて夢にも思わなかった。


 アルコールの回った頭で、何の気なしにスマホを眺める。今日も山のように届くDM。お誘いメッセージの数々。


 心地いい水音に包まれながら、何人かの女の子に返事を返していった。

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