4.ちょっと聞いてくれよ

「っていう話を聞いてさぁ、やっぱ嫉妬でしょ、それって」


 昨日の出来事を、他のリスナーから聞いた話として話題に上げていた。熱いような、冷たいような、粘度があるような、硬いような、よく分からないしこりのようなものでひどく邪魔だった。


「過疎配信の連中は俺らみたいなランキング上位の配信者のことをディスってるけど、じゃあお前らは何してんだよって言いたいね、俺は」


「くだらない傷の舐め合いをして、しょうもない仲間意識で仲良しこよしを気取ってるだけだろ? 小学生かよwww」


ふーみん

「わかるぅ」


月(るな)

「大手がうらやましい人たちなんですね」


とりちぃ

「あるある~! めんどくさいよねぇ~」


黒夜/低音系ボイス

「今日キレッキレだなwww」


「いやぁ、だってねぇ。聞いた話だけどさぁ、自分たちが人来ない配信しかできねーからって俺らのことディスるのは違くね? だったらお前らもやってみろってんだよな~。それする覚悟もないのに、陰でコソコソ言ってんなよって感じだよ、ホント」


 昨日感じたことをだらだらと吐き出していく。俺は他の大手とは違う。みんなに届くはずもないが、言わずにはいられなかった。


ななか

「ただのんがあたしの思ってること言ってくれるからスッキリする~」


てぴ

「できないやつらの僻みとかダサいよね」


Kiki

「めちゃくちゃわかるわかるっ」


 共感コメントに続いて、課金アイテムが飛び交う。一つの金額が大きいものばかりが画面を埋めていった。


「やっぱみんな思ってることは一緒なんだなぁ。そういうの聞くと、まじでうざいよね。俺、そういうのも全部黙らせられるように1位獲るべきだって、すごく思った」


月(るな)

「私の気持ちも代わりに言ってください」


ブンちゃん

「ただのんは強いからハッキリそういうことが言えてうらやましいよ」


ぴよち

「ただのんのこと応援するわ・ヨ」


ヒナ

「ただのんはFORKのご意見番としてこれからやったら人気出るんじゃない?」


黒夜/低音系ボイス

「いいぞw もっとやれwww」


 クレしんさんやいちごさんたちへぶつけたい気持ちを、自分の配信で発散した。悪く言えば言うほど、課金アイテムが多く飛び、また初見も多く訪れていた。


 人は、特にネットでは刺激や過激なこと、悪口が好きなんだな。本人たちに直接言えないのはモヤモヤとしたが、自分の配信でこれだけの人数に聞いてもらって、しかも共感してもらえるのは気分が良かった。


 きっと彼らはこの気持ちを味わうことはできないのだ。そう考えたら、だいぶスッキリした。


 俺は間違っていない。誰からも愛されたいと思うのは当然のことだし、そのための努力をしているだけなのだから。


 その日、俺の配信はランキングで初めてトップ5入りを果たした。


 嬉しいし、スッキリしたものの、しこりの根っこは生えたままだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る