第45話

「失礼、アンネマリー君、そろそろ『グレイ』を出国手続きに連れて行って」


 男がアンネマリーに声をかけた。


「またね、登」


 アンネマリーに手を振って、男と向き合う。


「初めまして、山田登です。銀マスターのシュメールさんにヘルヴィウムからお届け物があるのですが」


 男が微笑した。


「私がシュメールですよ」


 さて、登はまたも歴史の一ページに触れることになる。


「シュメール人って本当に存在していたんですね」


 紀元前に存在した人物を目の前にして、登は少しばかり興奮している。


「ハハハ、アッカド人もその辺にいますよ」


 宇宙出入国部には、紀元前の人が多く働いているとシュメールが説明する。


「ヘルヴィウムとザガンから聞いているかと思いますが、銀マスターは現実世界マスターです。異世界マスターの対になります」


 登のこの訪問も研修の一環なのだ。

 銅マスターは引退異世界マスター、銀マスターは現実世界マスターである。

 想像される物語は完全異世界とは限らない。完全異世界の想像をハイファンタジーと指すなら、現実世界に織り込んだファンタジーをローファンタジーと呼ぶ。いわゆる現実ファンタジーである。


 想像される世界なので、全て異世界と称してもいいのだが、管理を分けるために最近できたのが、金銀銅マスターなのだ。


「ご覧の通り、現実世界で想像の産物の世話をすると言いましょうか。現実世界に逃走した異世界人やら、未確認ゲートやらを任されています」


 浦島友也も本当なら銀マスターの出番だったが、ちょうど何十体も『グレイ』が現実世界に放たれてしまい、手が回らなかったようだ。


「いやあ、最近ではSNS等に発信されてしまうので『グレイ』の管理は大変なんです。あ! こら」


 シュメールが登の足下にバッと手を伸ばした。

 登は突然のシュメールの行動に驚く。

 シュメールが何やら小さい人型を追っている。


「捕獲の時、出でよ、玄武!」


 登の足下から岩が起こり、小さな人型へと進んでいく。

 岩は小さな人型をあっという間に取り囲んでいた。玄武が岩となって逃げ道を塞いだのだ。

 シュメールが小さな人型の首根っこを捕まえた。


「これも最近現実世界に出没するので参っています」


 登は小さな人型を見る。


「これは、あの……『小さいおじさん』か」


 なぜか、この小さいおじさんを見た若い女性が多いらしい。


「そりゃあ、見られるならくたびれたおじさんより、若い女性に見られたいからでしょうね」


 シュメールが大きくため息をついた。


「た、大変ですね」


 シュメール人も大変なのだと、登は親近感がわく。


「それで、この『シーグラス』なんです」


 シュメールが、登から受け取った『シーグラス』を一つ取り出した。

 宇宙人やら、エイリアンやら、小さなおじさんの依り代石にするために『シーグラス』を必要としていた。

 小さなおじさんが手足をバタバタさせている。


「収まる時、古代の力」


 シュメールが息を吹きかけると、息は白蛇となって小さなおじさんに巻き付く。小さなおじさんはより小さくなっていく。

 そして、フッと小さなおじさんが消えた。


「この中です」


 シュメールが『シーグラス』を登に見せる。

 小さなおじさんが、『シーグラス』の中でコサックダンスを踊っていたのだった。


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