ゴミ箱

第27話

 天照大神が青龍とオーロラの空を舞っている。

 白龍が上昇の舞いを披露し、麒麟が草原を駆け巡る。

 登は、スケッチブックを開き、目の前の光景を写し取る。


「天岩戸は……青龍の住処から少し離れたこの辺りかな」


 日出ずる東の地が妥当だろう。


「……仕事中はお隠れ?」


 天照大神の天岩戸は有名な話だ。


「それも面白い設定よ」


 いつの間にか、天照大神が登の横でスケッチブックを覗いていた。


「ワープは五色じゃ」


 天照大神が、青、赤、黄、白、黒の色鉛筆を指差した。

 登は天照大神の指示通りに、天岩戸の横に五つのワープを描いていく。


「見に行くぞえ」


 登と天照大神様は、宙を移動して天岩戸に向かった。


「本当に心地良い地じゃなあ」


 天岩戸に到着し、ワープを確認すると、天照大神が満足げに頷いた。


「そろそろ、仕事に戻るとするか」


 天照大神が、スケッチブックに描かれている願いの泉をちょんちょんと突いた。


「ここは、開く」


 登はその言葉を瞬時に理解した。

 スケッチブックの願いの泉に光の輪を描く。


「秘密の通路。想いが繋がるゲートじゃ。行きたい場に……否、必要な場に誘ってくれよう」


 スキルでいうなら、『真実への誘い』だろうか。願いの泉には意思があるからだ。ウィラスを登に誘わせたのも、そういうことだろう。

 登と天照大神は愉しげな瞳を交わす。


「その情報は出さぬ。では、また来るぇ」


 登はスケッチブックの天岩戸に異世界管理組合行きと記した。

 天照大神が頬を緩ませて、天岩戸に入って消えた。


「いつでもご自由に」


 登は姿が消えた天照大神に微笑む。

 天岩戸が閉まった。




 天照大神と入れ替わるように、登の頭上にゲートが開きヘルヴィウムが現れる。


「完璧なワープですね」

「師匠、天照大神様が去るのを待っていたかのような登場だな」


 ヘルヴィウムが明後日に口笛を吹いた。しっかり、頭の後ろで手を組んでいる。

 登は、昔懐かしい漫画で見たような表現方法だと笑った。


「さて、ワープの説明をしましょう」


 登は、五色のワープに視線を移した。


「そういえば、俺は黒所属って情報だったよな」


 登は、タブレットを取り出して送信情報を確認した。


「黒は、様々な異世界を管理する色になります。異世界の管理だけでなく、モンスターの育成やら、アイテムの開発、現実世界にも仕事があり、役割は多種多様です」

「つまり、名前のままブラックなわけだ」


 登は苦笑した。


「ええ、黒というのは全てを呑み込むことができる色なので、そういう役割なのです」


 ヘルヴィウムもタブレットを取り出して、操作する。


「これが、色の系図になります。青、赤、黄、白、黒を主色として、それに付随した形で系列色が並びます」


 登も、ヘルヴィウムの見よう見まねでタブレットを操作して、色の系図を開いて確認した。

 黒以外の色には、瑠璃色、茜色、山吹色やら、様々な色が連なっている。


「この系図の頂点が、異世界マスター協会になります」


 異世界マスターを色分けすることで、異世界の管理区分を分けているとヘルヴィウムが説明した。


「なんか、ちゃんとしてるんだな」

「ええ、国連並みに」

「はっ?」


 ヘルヴィウムがニヤッと笑う。

 登は、そこで気づいた。


「五色って、常任理事国かよ!?」

「流石、登ですね!」

「色が各国で、内五色が常任理事国。異世界マスター協会が国連総会とでも思っていただければ」


 まあ、分かりやすい例えだったのは間違いない。

 登の脳内は整理がつく。


「それで、このワープってどこ行きになるわけ?」

「異世界マスターのメイン創造世界に飛びます。メインの創造世界にワープを設置する規則なので」

「じゃあ、黒のワープに入れば『ヘルヴィウムのモンスター天国』の老村に飛ぶのか?」


 登は黒のワープの渦に足を踏み込む。


「あれ?」


 目の前の光景は変わらない。


「登、ワープの行き先は多数あります。それを設定しなければ、起動しませんよ。登のワープはまだ貫通していません。貫通後に、情報が流れます」


 登はブスッとする。

 少しばかりワープに心が弾んでいたのだ。


「それで、設定はどうすればいいんだよ?」


 ヘルヴィウムがタブレットを掲げる。


「あ! そうか、初期設定をすればいいんだな」

「はい。ホーム画面にワープアプリがすでにインストールされているはずです」

「つくづく、便利になってるわけだな、異世界」


 登は、タブレットのホーム画面からワープアプリをタップする。


「まずは、創造世界登録を」


 登は、メインの創造世界である『世界はたくさんの想いでできている』と打ち込んだ。


「そういえば、師匠は他にも創造世界があるんだよな?」


 登は、『ヘルヴィウムのモンスター天国』しか行ったことがない。それどころか、他の異世界マスターの創造世界にも行ったことはなかった。


「もちろんです。『ヘルヴィウムのムッキムキザップ』とか『ヘルヴィウムのマイナスイオンモール』とか『ヘルヴィウムの漢方の宿』とか」

「待て、もういい」


 登はヘルヴィウムを止めた。


「異世界住民の行き場を増やすために」

「……そっか。そのためにワープはいるんだな」


 登はタブレットに集中した。


「まずは、『ヘルヴィウムのモンスター天国』と繋げましょう。ワープ貫通設定から、行き先指定を選んでください」


 登は、ワープ貫通設定を開いた。未通で五色のインジケータが表示されている。その他にも、金、銀、銅のインジケータがあるが、黒以外は半透明の表示になっている。


 黒をタップすると、行き先設定の画面に切り替わった。

『行き先指定』と『同色行き先』、『同異色行き先』と表示される。

 ヘルヴィウムの指示に従い、行き先指定をタップする。

 画面に既往歴が表示された。


『ヘルヴィウムのモンスター天国』しかない。登は、ヘルヴィウム以外の異世界マスターの創造世界には行っていないからだ。

 登は『天国行き』と言いながらタップした。


『世界はたくさんの想いでできている』

→『ヘルヴィウムのモンスター天国』

『世界はたくさんの想いでできている』

←『ヘルヴィウムのモンスター天国』

『世界はたくさんの想いでできている』

↔『ヘルヴィウムのモンスター天国』


 画面には、矢印が異なる表示が出る。


「これは?」

「そうですね……本来は↔双方向の矢印設定をするのですが、双方向にすると」

「ファレイアとかが来るって?」


 登は悟った。


「ええ、必ず来ることでしょう」


 登は、→をタップしていた。


「ワープ職人が手がけていないワープなので、稼働するか確認するために、この設定なのだと説明がつきましょう」


 タブレットが振動する。

 情報が更新されたのだ。



【速報!新設ワープ情報】

 『世界はたくさんの想いでできている』

→『ヘルヴィウムのモンスター天国』

  山田登(黒)           

→ ヘルヴィウム(黒)


 『世界はたくさんの想いでできている』

↔『異世界管理組合』

  山田登(黒)           

↔ 天照大神(使用限定ワープ)


 ヘルヴィウムが画面を見て固まった。


「天照大神様限定ワープ?」


 登は、天岩戸を指差す。

 ヘルヴィウムが天を仰いだ。


「ここは、神まで集う場になるようですね」

「ヘルヴィウムの所は、どの神様が担当なんだ?」

「そんな担当制度ありませんよ」


 登とヘルヴィウムは顔を見合わせた。


「ハ、ハハハハハ」


 登はとりあえず、乾いた笑いで誤魔化す。


「さて、貫通しているか、私が使用してみましょう」

「じゃあ、俺も」

「止めた方が賢明ですよ。きっと、タブレット情報で老村には異世界マスターが集まっていそうですし」


 登はまたファレイアを思い出す。


「他の異世界マスターの創造世界ってどんな感じ?」

「もしかして……乗り込もうとしていますか?」


 登はニタッと笑った。

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