第22話

 平安異世界から異世界管理組合へと登の行き先は変更される。

 登は一旦、ヘルヴィウムのモンスター天国へと移動した。

 ウィラスに麒麟を任せてきている。今、登と共にあるのは青龍だけだ。


「本来なら、まだ足を運ばなくても問題ありませんが、麒麟の誕生と白龍の報告には行かねばなりませんから」


 ヘルヴィウムが言った。


「神獣は、異世界管理上の報告義務があるのです」


 登は頷く。

 クライムが渋い顔をしながら口を開く。


「白龍と麒麟か……ややこしくなりそうだな」


 なんとなく、登にもクライムの危惧は分かっている。

 青龍の鍵に連なる白龍。その役割はまだ明確ではない。ウィラス曰く、『願いの泉』の意思で、『世界はたくさんの想いでできている』から新たな冒険を始めたのだ。


 それから、麒麟。これもまた誕生からして規格外なのだろう。それも、現在、確立異世界以外に麒麟は存在しないらしい。

 想像のメインに登場することの少ない麒麟は、放置異世界においてすぐに消滅するという。


 麒麟以外の神獣は、登録管理されて異世界へと派遣されているようだ。とはいえ、その神獣も稀少で、異世界マスター間で取り合いになることもあるという。

 異世界マスターでも神獣を扱える者は少ない。

 使徒できる神獣は、鍵となる神獣だけの異世界マスターが大半なのだ。


 つまり、鍵でない神獣の希少価値は高いのだろう。さらに、五神以外であるが白龍はレアモンスターでなく神獣に分類される。龍だからだ。


「ある意味、まだどちらも『石』がなくて正解かもしれません」

「『石』に収まることで、派遣可能だからか」


 登は『フゥ』と安堵の息を吐き出した。


「とりあえず、異世界管理組合に行きますから、クライムここを頼みます」


 まだ、モンスターが空を飛び交っているし、地上やら地下を歩き回っているのだ。


「ここまで多いと、依り代になる『石』の準備が追いつかないからな」


 クライムが肩を竦めた。

 登は周囲を見回す。

 クライムが助っ人に連れてきたらしい令嬢らが、悲鳴を上げながらもモンスターを世話している。数十人はいるだろう。


 そこで、涙目のアンネマリーと目が合い、登はつと視線を逸らした。

 しかし、アンネマリーが登の方へと駆けてきた。


「モンスターの世話は高給バイトなのよ!」


 そう言って、登の鼻先に指を差す。


「ああ、うん。頑張ってください」


 登は片言のように返した。

 クライムがワッハッハと笑う。


「アンネマリーは、登のところに派遣させた方がいいようだな」


 クライムの発言に、涙目だったアンネマリーの表情がパァと明るくなる。


「ええ、私もそう思っていましたわ」


 アンネマリーが、登に手を差し出した。

 登は首を傾げて、手を見つめる。


「令嬢の差し出した手を取らないのは、失礼だぞ」


 クライムが言った。


「私、開発部長の秘書『安寧真理』を引き受けますわ。ちゃんと給金ははずんでくださいましね」

「いやいや、クライムの右腕なんだろ?」


 登は頬を引きつりながら言った。


「こういうのを、ヘッドハンティングというのよね!?」


 アンネマリーが楽しそうに言う。

 どうやら、この展開は根回しされていたようだ。ヘルヴィウムが親指を立ててニカッと笑っている。


「ほら、早く手を取って上げなさい。令嬢に恥をかかせるのはいただけません」


 登は渋々アンネマリーの手を取ったのだった。



 ヘルヴィウムの開いたゲートで、異世界管理組合へと移動する。

 いつものように、目前の光景に登は目を擦る。


「ここって……歌舞伎町か?」


 ネオンきらめく歓楽街が目前に広がっていた。


「いえ、『異世界町元締め番街』です」


 ヘルヴィウムが軽やかに答えた。

 確かに、ネオンゲートにはそんな文言が光っている。


「よく、分からん」


 登はガクッと肩を落とす。


「いわゆる『ギルド』街よ。異世界マスター下にない者は、だいたいどこかのギルドに所属しているわ。そのギルドを統括するのが異世界管理組合になるの」


 アンネマリーが簡潔に説明した。

 ネオンゲートの奥に大きな建物が見える。


「ここは人のギルド街です。人外を登録し、各異世界での仕事を紹介できるのも異世界管理組合になります。派遣業の情報も組合から配信されます」


 ヘルヴィウムが大きな建物を指差した。

 そして、タブレットを見せる。


「異世界マスターに支給されるタブレットもあそこでしか受け取れません」


 つまり、神獣のことだけでなく、登専用のタブレットも受け取るために赴いたのだ。


「あそこは戦場ですから、気をつけてください」

「は?」

「神獣の貸出し所が建物内にあるのですが、異世界マスターらが殺気だって集結しますから」


 派遣する神獣の奪い合いが時折勃発するらしい。


「アンネマリーに『SAKE』を飲ませればいいと思うけど」


 登は口を滑らせる。そして、ハッとして口を押さえた。

 恐る恐るアンネマリーを向く。

 いわゆる、ピキリと頬が引きつってギラギラした瞳で笑んでいる。


「えっと、俺らを助けてくれるって意味。だって、有能な秘書だから?」


 登はへヘッと笑った。


「ええ、もちろんですわ、部長」


 何やらご機嫌になったのは、有能な秘書発言のおかげだろう。

 ヘルヴィウムが小声で『人たらし』と耳元で伝える。

 登は聞こえないふりをして、ネオンゲートを潜った。



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