お嬢様のティータイム ~白うさぎを追え~

よりこ☆

第1話 ツインテールの女の子

 

  世の中には知らないことが多すぎる


  知らないから騙されるし、知らないから損もする


  色んな物事を誰かが丁寧に教えてくれていたならば……


  今とは違った暮らしをしていたのかもしれない


§ § § 


 以前、トラブルに巻き込まれた子がいた。


 その子なりに良かれと思って取った行動だったが、結果的に更なるトラブルを招いてしまい、大変な事態へと発展してしまった。


 顔に手を当て泣いてる子に


「知識が乏しいと教養が身につかないの」


 泣いている子の頭を優しく撫でながら


「教養が身についてないとトラブルが発生しても様々な視点で物事を深く考えることが出来ないから、解決策は『これしかない』って安易に考えてしまいがちなの」


 泣いている子の肩に手をのせ優しく抱き寄せる。


 少女は私の胸に顔をうずめて更に泣きじゃくった。


 そんな少女の背中を優しく撫でながら


「だから、他の人からしたら決して最善とは言えないようなやり方でトラブルを解決しようとしてしまって、更に大きなトラブルを抱えてしまう場合があるの」


「じゃぁ。どうすれば良かったの?」


「自分本位の考え方で行動するんじゃなくて、様々な視点で物事を深く考えて行動するのよ。その為には色んな知識を得て様々な教養を身につける事も必要なんだけどね」


「私は悪くないもん!」


 ある程度の水準にまで教養が達していなかったその子には、先を見越して行動することの大切さや、知識を蓄えておくことの重要性を理解する事が出来なかった。


§ § § 


 私が生活しているこのコミュニティーでは経済的な理由で親に売られた子供が十人近く一緒に生活している。


 そして、全員日々の生活のために働いているので、私を含めてみんな学校に通ったことがない。


 そんなまともな教育を受けたことがない子供達は文字の読み書きは出来ないし、この国の通貨の種類も分からなかった。


 紙幣よりも硬貨の方が価値があると騙される子がいたり、違う国の通貨を渡されて騙された子もいた。


 なので、このコミュニティーに連れて来られると、まず最初に大人達からこの国の通貨の種類と簡単な計算方法だけは教え込まれた。


§ § § 


 今から約二年前に私はここのコミュニティーに連れられて来たが、どこのコミュニティーも同じような感じで、親に売られた子供たちが学校に通うことなく毎日お金を稼ぐために働いていた。


 コミュニティーを移動する理由は様々だけど、主に地域の勢力争いが理由で色んな場所に移動させられているようだった。


 ある地域では対立するグループとのいざこざを解決するのにお金が用意出来なくて、私や一緒に働いていた子供たちが引き渡された。


 また、別の地域では勢力の強いグループから便宜を図ってもらう見返りに、私や一緒に働いている子供たちが引き渡されたりもした。


 つまり、私たちの稼ぎが程度まとまった金額になるので、私たちを現金の代わりとして利用しているらしい。


 ただ、地域が変わるたびにそこで生活している人達の国籍が変わるので使う言語が変わる。


 なので、コミュニティーを移動するたびに言葉を覚えるのが大変だったりもする。


§ § § 


 私達が働いているコミュニティーは見た目が大人っぽくなると、地域内の違うコミュニティーで働かされる。


 この二年の間に一緒に働いていた子供たちの中にも見た目が大人っぽく成長したために違うコミュニティーに移動した子が何人もいた。


 私のちゃんとした誕生日は分からないけど多分今年で十七歳か十八歳になるんだと思う。ただ六、七年くらい前から私の容姿は変化していないので、見た目は十歳くらいのままだ。


 新しい地域に移動するたびに一緒に働いていた子たちとはバラバラになり大人達も変わったので、実は私が十七、八歳だってことを知る人は誰もいない。


 なので、周りのみんなは私の事を十歳くらいの女の子とだと思っている。


 見た目が十歳くらいにしか見えないこの身体は大概の人達を騙せるので便利だったりもするけど、ここ数年まったく成長していない私の身体は実は病気なのではないのかと、少し不安に思っていたりもする。


 でも、色々と手続きが必要になる病院には通わせてもらえないので、いくら不安に思ったところでどうしようもなかった。


§ § § 


 地域によって客層は様々だけど、どの地域でも日本人のお客は一定数いた。


 そして、今滞在している地域は他の地域と比べても日本人のお客が多かった。


 日本人のお客は他の国のお客と比べて無茶な要求をして来たり支払いを渋ったりするような面倒な事を起こす人が少ない。


 なので、仕事をするうえでは大いに助かっていた。


 無理やりだったり強引にされると身体に傷を負うことになるし、状況によっては身体が壊れてしまい傷が癒えるまで仕事を休まないといけなくなるので厄介なのだ。


 そんな優しくて金払いの良い日本人のお客に気に入ってもらうために、私は日本語を覚えようと思った。でも、私が生活しているコミュニティー内では日本語を話せるのは少数の大人達だけで、子供たちは挨拶程度の言語しか話す事が出来なかった。


 なので、私は日本人のお客から日本語を教えてもらいながら仕事をするようになった。


 私がお客と日常会話が出来るくらい日本語が話せるようになるとリピーターが増え始め、私はコミュニティー内で誰よりも稼げるようになっていた。


 すると、大人達は私と優しく接するようになり、周りの子供達からは一目置かれるようになった。


 最近は仕事の合間に日本人のお客から文字の読み書きや一般常識とかも教えてもらっている。


 なので、ここのコミュニティーに来てからの二年間で、日本人のお客から色んな知識を得ることが出来たのと同時に、私が世の中の色々な物事を知らなかったって事と、実年齢の割には教養が不足しているって事も知った。


§ § § 


 さて、そろそろ仕事の仕度を始めないとだ。

 

 待機部屋にある私専用のクローゼットから水色のワンピースを手に取る。


 前回お客からプレゼントしてもらった服だ。


 ワンピースに袖を通して鏡の前で糸くずやホコリが付いていないかを確認する。


 腰の辺りまで伸びた長い髪をブラッシングし、お客に受けの良いツインテールに髪型をセットする。


 鏡には表情の乏しい女の子が映っていた。


 首を傾げて口角を上げると、鏡に映った女の子の表情が少し明るくなった。


 そして、鏡に映る女の子に向かって私は言い聞かせる。


「今日もお仕事頑張るぞ!」

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