課長封月

架橋 椋香

課長封月ってどういうことだよ

 気分のよくない日だ。安い社食を食べている。少し喉に詰まりそうになる。

 課長が月を封じた、らしい。

「俺も詳しくは知らないんだけど、なんか課長が、月を封じたらしいんだよ」

と、同期の松島くんがひそひそ。僕は尋ねる。

「月を封じるってどういうことだよ」

「よく分からないけど、昨日月が無くなっただろ?」

「ああ、それは聞いた」

 朝、ニュースになっていた。世界中の研究機関が現在調査をしている、ということだった。画面には偶然撮影された、月が消える瞬間の映像が"視聴者投稿"として映されていた。映像の中の月は、雲に隠れるように、ゆっくりとぼやけて、消えた。

 僕は続ける。

「で、どうしてその犯人が課長ってことになってるんだよ」

「それが、奇妙な噂があってさ、昨日、課長の鞄に『』って赤い字で書かれたお札が、入ってたのを見掛けたっていう知り合いがいるんだ。それは一昨日までは無かったらしくて、今日も入ってないみたいなんだ」

「それは昨日偶然入り込んだだけ、と捉えるのが普通だな」

 僕は物事を疑いやすい性格らしい。家族や、高校以来の友人にもよく、つまらない奴だ、と言われた記憶がある。

 松島くんは切羽詰まった表情でさらに言う。

「それだけじゃない。どうやらそのお札には、三日月のマークが描かれていたみたいなんだよ」

「ふうん…」

 僕が考え込んでいる風に手をこまねいていると、しばらくして松島くんが言った。

「今回はどうだ?」

「まあまあかな。良かった点としては、月が消えたっていう最新の話題を入れてきたところと、話し方だな」

 松島くんは話すのが上手い。その松島くんは言う。

「良かった点はいつもそれだな」

「仕方ないだろ。君は話が上手いんだから」

「で、悪かった点は?」

「もう少し現実味のある話題だったら良かったね」

「月が消えた今、現実味もなにもないだろ」

「ま、そうかもね」

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課長封月 架橋 椋香 @mukunokinokaori

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