第7話[旧都市東京 鬼ヶ城決戦]3

 勝家は思わず特任のカメラデータを自身の機体コクピットと同期した。

 腹部破損。箙兵衛の機体データが赤いアラートと共に投影された。

 「箙兵衛──!?」

 勝家は思わず声をもらした。


 《アース、待て! 持ち場を離れるな!》

 ジャンが日々乃に焦って呼び掛ける。

 「分かってる! 分かってるが……先に入った特任が!!」

 《今離れたら、コイツらを巣に集結させてしまう……アジトの撲滅がより困難になるぞ!》

 自衛隊の石田隊員は歯軋りしながらアースセイヴァーを制止する。  

 オーガロイドの数は非常に多い。総数決戦である今回の遠征で、傷を負い、息絶えたものもいる。

 「うぉぉぉっ!! 邪魔だテメェら!! 見殺しかよクソッタレ!!」

 アースセイヴァーの“皮膚”を通して、戦場の叫び声が次々と津波のように日々乃に伝わった。

 日々乃は生い茂ったジャングルを掻き分けながら迷って走るようにオーガロイドの群勢を殴り払う。それでも数が非常に多く、援軍に迎えない。

 「行かないと、援軍にっ……無力かよ、俺は!?」


 「俺の仲間たちを甘く見るんじゃねぇ! これも想定内だ……アジト撲滅に、支障をきたす特任ではない!」


 アースセイヴァーの背後に勝家が駆るT-10式が両腕のランチャーで援護射撃を行う。


 「だから、俺たちはアイツらの作った道標を確実に進むんだ! 焦るな、お前はこの作戦の要なんだ、アイツらの希望なんだ、アースセイヴァー!!」


 勝家はアースセイヴァーの背中に激励の言葉をかけた。彼の言葉は、アースセイヴァーが全身に回すエネルギーから無駄な配分をなくし、目の前の敵、それを越えた道標に意識と力を集中させた。

 「──行くぞアースセイヴァー、奴らを突破する!!」

『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』


 《箙兵衛隊長、俺を助けに……すみません! コクピットに被害が──》

 「気にすんな、ケガはなんてことねぇから進むぞ」

 箙兵衛は血の流れる頭をかきながら意識を保つ。今、足に踏みつけたオーガロイドからの奇襲にあい、機体腹部が潰れコクピットに甚大な被害が出ていた。

 「この先が鬼ヶ城への道……敵は増えるぞ、ここで止まるより先に奴らの陣を崩す!」

 「は、はい!!」

 箙兵衛の機体は二挺のライフルを構え、部下を引き連れ一歩前進した。


 オーガロイドは群れを組み、鬼ヶ城への通路を遮るように通って進軍していた。

 そいつらは驚く。通路の壁を蹴って複数のアッシュガルが飛びかかってきたからだ。忍者めいたアッシュガルに応戦する暇もなく、その顔や胴体にダガーが突きつけられ活動停止となる。

 「グハッ──!!」

 箙兵衛は咳き込み、ヘルメット内に血を多く吐いた。

 「クソッ、こんなところで腹ぁやられるなんてな……」

 鬼ヶ城の奥へ突入するたび、通常より強化されたオーガロイドの守備担当群と応戦する。

 ダガーは尽きかけ、ライフルの弾倉も残り僅かとなっていく。

 味方は2人やられた。1人は機体を壊される寸前でコクピットから脱出できたが、もう1人はコクピットを潰され安否不明だ。

 残る味方は僅か2人。

 《隊長!!》

 箙兵衛機の真横を、新入りの機体が通過しオーガロイドの顔にダガーを突き刺した。

 《撤退しましょう!! 我々だけでは、どうしようも……》

 箙兵衛は俯き、アッシュガルに送られる戦況データを確認した。

 自分達以外にも本拠地へ突入した部隊は現れては潰されていく。じり貧であった。

 《外にいる部隊へ通達する……オーガロイドが使うであろう通路を全て塞ぎ監視しろ》

 モニター越しに箙兵衛と部下達は頷きあい、退路を塞ぐことを選択した。

 《箙兵衛──》

 その時、箙兵衛のコクピットに通信が入った。

 「勝家か? 戦闘中だろ、何かお知らせか?」

 《──この戦い、俺達が勝つぞ。後ろは俺らが援護する。お前らに、勝利の武運を》

 勝家からの鼓舞に、箙兵衛は吐血した口で、小さくフッと笑った。

 「行くぞ、お前ら! これが日本最後の、鬼化討伐決戦だ!!!」

 ダガーの柄に仕込まれた弾倉をハンドガンに装填し、箙兵衛ら特任アッシュガルはオーガロイドの大群へ進軍した。

 ブースターを最大加速し、箙兵衛の機体は通路を飛びはね、ライフルの弾丸をオーガロイドの急所に食らわせる。

 「ぐはっ!! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 今日で戦いを終わらせる。

 激しい動きにより、身体にかかる負担でダメージを受けながら、箙兵衛は吐血した顔を必死の形相で前に向けた。

 弾は切れた。装填する隙もなく、オーガロイドは襲いかかろうとする。

 「防衛連邦、舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 ブースターの出力を一気にあげ、アッシュガルは加速した。

 機体のバランスを瞬間で調節し、足蹴りがオーガロイドの顔面を抉った。


 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!』

 アースセイヴァーは拳を前に突きだし、オーガロイドの大群を吹き飛ばす。

 《作戦地点に到達!! これより先、鬼ヶ城への突入経路あり!!》

 《了解した、藤虎隊員!!》

 エモンはライフルを構え、仲間と共に周囲の敵反応を確認した。

 《まだ周囲にオーガロイドはいるぜ。奴ら、巣穴に集結する気だ》

 《鬼ヶ城を守るか……させねぇぞ、ここは俺らが引き受ける!》

 勝家率いるT-10式が、アッシュガル第54部隊を背中に囲み、腕部ランチャーを周囲に向ける。

 《中で俺らの仲間が戦っている! 進路はあるハズだ! 行ってくれ、お前ら!!》

 「勝家さん! 皆! 了解です!!」

 日々乃は拳を構え、都市内湾岸を越えた先の地下鉄に続く線路をカメラアイ越しに目線を定めた。

 《かたじけない! 我らも向かうぞ、アースセイヴァー!》

 エモンのアッシュガルがキルオーガの切っ先を、アースセイヴァーの目線へ向けた。


 このとき、アースセイヴァーは違和感を抱いた。

 湾岸から漂う、謎の気配に対して。


 《何だ!? 何なんだこれはぁぁぁぁぁぁ!!》


 一同の回線に、箙兵衛の掠れた声での絶叫がこだまする。


 《……いねぇ、最奥部に、何もいねぇぇぇぇ!!》


 「何だと!? どういうことだ箙兵衛!?」

 勝家がすぐに箙兵衛へ通信を入れた。


 箙兵衛の回線に様々な通信が入る。

 箙兵衛は唖然とした顔で、コクピットに写る目の前の光景に絶句した。

 「何もいねぇ……巣が破壊されている……逃げたんだ……奴ら、自分の巣を破壊して逃げやがった……騙されたんだ、俺らはぁ!!」

 箙兵衛は瀕死の状態で操縦桿を勢いよく殴った。目線が下を向き、ふと床に倒れた何かに気づく。

 「あれは確か……カブトガニ?」

 ただのカブトガニでない、大型の、オーガロイドサイズであった。その死骸が塵となって消える瞬間を箙兵衛は目撃した。

 「あれは確か生息地が──まさか!?」

 箙兵衛はすぐに回線を全ての隊員に繋ぎ、僅かな体力を全て込めて叫んだ。


 《奴らは、水中にいるぞぉぉぉ!!》

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