第一局 三連星②

僕は囲碁部を探していた。




なんとか大学生になることができた僕は、大学では何をしようか考えた。


完全な個人種目で、頭をよく使い、体を使わない競技。

囲碁か将棋、どちらかを始めようと思った。



だってどんなに足が遅くても、相手の後に自分の番がちゃんと来てくれる。


そして、ルールの範囲内であれば、自分の狙ったところへ駒や石を置ける。


駒や石が明後日の方向へ飛んでいくこともない。



囲碁を選んだのは、昔とある囲碁漫画に熱中したからだ。



そして、僕は囲碁部を見つけた。


部室は地下一階、通気が悪いのか少し黴臭かった。


僕に囲碁を教えてくれた先輩は四回生で、

おおらかな体に大仏のように柔和な顔立ちだった。


そして顔立ちのとおり、とても優しく教えてくれた。


毎日毎日、夕方から日付が変わるまで打っていた。

そして、部室の黴臭さに慣れたころ、先輩がぽつりと言ったのだ。



「東さん、冗談ですか?」

「いやいや、冗談でも何でもないよ」東さんは笑って言った。

プロ棋士で真剣にそう主張する人がいるのさ、と。


曰く、囲碁では素晴らしい一手を打つことが肝要だ。


素晴らしい一手とは、自分が美しいと信じる一手。

美しい一手を打つためには、感性を、心を豊かにしなければならない。


ただ盤に向かうよりも、

美しいもの―――景色、芸術、歌などで心を震わせることこそが、

上達の秘訣なんだ、と。



そして東さんが続けて言った言葉を聞いて–––––



僕は自分が打ちたいところにどんどん打っていった。


自分が美しいと思う石の並びを、キラキラと輝く一手を。



勝つことはほとんどなかったけれど、楽しかった。


今までは部活というものであまり活躍できなかった僕でも


強くなって、


この盤の上なら、ヒーローになれると信じていた。


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