最終楽章【奏剣絆戦】

第30話【変わりゆく世界】

ここは……どこだ……

何も無い真っ暗な空間だった

静かで音もない。とても冷たい世界だ

「そうか……僕は死んだのかな? 心残りがあるなら……まだ音楽を完全に世界に広げれてない……それだけだ」

独り言を言っていると空から誰かの聞き覚えのある声が聴こえる

「全能神様……全能神様……聞こえますか? 本官は貴方様のアシストであります。時と闇の神であるルーヴィヒを討ち取った際、貴方様は相討ちになられました」

そうか、僕は死んだのか。疑問が確信に変わった

神になって親殺しをしたら天国にも地獄にも行けない。ルーヴィヒの言ってた通りだな

それでもあの選択は間違っていなかった……

幸や岩本さん、キロルの娘。それに世界の人々を守れたのだから

「全能神様、貴方様は世界を作り変えることが出来ます。今のお力なら……この空間を消す事さえも可能でございます」

作り替える事が出来る……?

つまりこの戦いを無かったことにも出来る……でも僕は今の世界を生きていたい。それが皆との絆なのかもしれないから

「それなら……元の世界に帰らせてくれ。僕の力ならこれも出来る」

「もう神にはなれないですよ? それでもいいのですかい? 」

「ああ、それでいいんだ。あの世界には僕の好きな人や帰るって約束した人が居るから」

アシストは笑い、こう言う

「なら、あなたの雷斬に祈ってください。自分は神をやめて普通の人として暮らしますからと……」

ヨルナミは自分の雷斬を取り出し祈り始めた

「僕は元の世界に帰ります。神は辞めます。なので、今いる世界に魂を……」

すると雷斬は光りだし、ヨルナミを包む

「最後に聞くんだけど、君は一体何者なんだ? 」

アシストは少し微笑み声で話した

「キロルです。神になったんだ。いつも君を見守ってるから……ワタと一緒に……」

キロル……神になったんだ

そうか。ノルト教の墓に名が刻まれないのは

神になるから……

そういうことなんだろうか

そんな事を考えているうちに光に導かれヨルナミは謎の空間から消えていた

ワタもあっちに居るのか。いつか寿命が来るまで、ワタの分もキロルの分も生きようと心に決めた


気が付くとかつてルーヴィヒと戦いを交わした王室に寝ていた

辺りは散乱しており、とても閉鎖的な空間だった

ヨルナミは戦いで疲れた体を思いっきり起こし、当たりを見渡す

ワタの亡骸以外、誰の死体も転がっていない。最初はルーヴィヒが本当に死んだのか分からなかったがもう気配はなかったので死んだんだなと思った

とりあえずワタを連れて帰ろうと思い近寄って顔を改めて見るととても綺麗な死に顔をしている

「ワタ……キロルに会えたんだね。僕がそっちに逝くのはいつかは分からないけど、待っててね」

ヨルナミは冷たくなり、死後硬直が始まり出しているワタを背負い、城の外に出て行くのだった

空はとても綺麗で雲ひとつない晴天だった

「ワタ……ありがとう」

ヨルナミは何故か涙が流れていたが涙を拭いてとりあえず岩本さんの所へと向かった


岩本の家に着くとやっと2人が帰ってきたことに気が付いたが、ワタが死んでいる事に2人は驚きを隠せなかった

「ヨルナミ……1ヶ月も城の中で……戦っていたんだ……でも、君は生きていて良かった。ワタは死んじゃったけど、君がその分生きたらいい話だよ。」

幸の励ましにヨルナミは微笑む

岩本はとりあえず一呼吸置いてヨルナミに話た

「今、この国には王が居ない。王がいなかったらやがてこの国は滅ぶ。それで君にはふたつの選択肢があるんだ。強要するつもりはないがね。ひとつ、タトイヒ国に戻り静かに暮らす。ふたつ、ここに残り王になる。どっちかだ」

いきなりの選択にヨルナミは悩む

「ちょっと……」

とりあえず何日か考えようとするヨルナミに対し、岩本はこう言う

「今決めなさい。それじゃなくちゃ大変な事になります」

ヨルナミは1分ぐらい黙り込んだがひとつの大きな決断をした

「僕は……王になります。お母さんに助けてもらった命を無駄にしたくはないから……」

岩本はそれを聞いて安心したのか、「なら、とりあえずワタをタトイヒ国に……」

「いや、ワタはここに葬るよ。タトイヒ国の王子をここに葬るのなんか違う気がするけど、相棒だから……せめていつも来れる場所で眠って欲しいんだ」

ヨルナミが提案した事に誰も口出しはしなかった

ヨルナミが王になると言った瞬間からこの国の王なのだから

「ヨルナ……国王様……」と幸が言おうとするとヨルナミは「国王なんてみんなが張るレッテルだから……僕は国の治安を守るために王になったのだから……国王様なんて堅苦しい事は言わなくていいよ」

「はい。あの……ワタの葬儀はいつ行いますか? 」

ヨルナミは少し考えた

とりあえずタトイヒ国に連絡を取らないと行けないし……

「ワタの葬儀は1週間以内に行うよ。その間僕は即位の準備とかしたりするよ。そうと決まればとりあえずライチに連絡しないと……」

ヨルナミは手紙を取り出しライチに手紙を描き始めた


拝見 ライチ様

1ヶ月ほどの戦いが終わった事をお知らせ致します

戦いが終わったという朗報以上に訃報があります。ワタがルーヴィヒとの戦闘中に僕を庇い、亡くなりました

正直、悲しいです。僕が死んだ方が良かっただなんて思ったりもしましたがそれはワタとの約束に反するものなので言わないことにしました。ワタの葬儀は返事が来た1週間以内には行います。その間にアクアヒルス国にお越しください

返事をお待ちしております

ヨルナミ=ユナミ


手紙を描き終えたヨルナミは幸にお願いしふくろうに手紙を持たせてもらった

ライチは今ノルト教の教会にいるだろうと言うことを告げ、飛ばした

その2日後後返事の手紙を咥えた持ったふくろうが帰ってきた

手紙には了解しました。向かいますという文字と涙であろうシミのみがあった

唯一生きていた血の繋がった人が死んだんだから悲しかったんだろうね

その気持ちは僕も一緒だから……

ヨルナミも気が付いたら目頭が熱くなっていた

泣きたいと言う気持ちを抑えてるヨルナミを見て幸は後ろからヨルナミにハグをした

岩本は何かを察したのか別室に無言で向かっていった

「幸……どうしたの? 」

とヨルナミは全くもって気が付かず逆に疑問を持っていたが自分も恥ずかしかったのか顔が赤くなっていた

「あたしは……あたしは貴方の事が好きなの! まだまだ出会って間も無いけど助けて貰って、あたしの為に動いてくれて……嬉しかったの……ボロボロになりながらも……あの王子を殺してくれて……こんなあたしで良ければ……一緒に居てくれないかな……」

幸はヨルナミに想いを伝えた

それがヨルナミに届いたのかは分からないがヨルナミはそっと幸を抱きしめたのだった

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