第30話相応の罰

 

 レノンの言葉にゴズは手に取った短刀を落とした。

 自害もしくは処刑………

 死ぬのは確定……


「……そんな馬鹿な話があるか!!私に抵抗もさせず死ねというのか!!そん……『黙れ、やかましい』……!!」


 また口を塞がれる。


「まぁ時間ももったいないから早く選べ。ちなみに俺は自害を勧める。なにせ後ろの連中、お前に対してただならぬ殺意を持っているからな……何されるか分かったもんじゃないぞ?……ふむ、そうだな。少し戯れてみるか。おいお前ら、こいつの処刑をやりたい奴はいるか?」


 レノンがそう聞いた瞬間、背後に控えるほぼ全員が一斉に手を上げた。

 自分でやっておきながらあれだが、ゴズどれだけ嫌われてんだよ……

 その光景にゴズ自身も驚きを隠せなかった。


「き、貴様ら!!普通に戦えば敵わないからと言ってこのような方法で私を殺して満足か!!」


 誰もがゴズに冷ややかな視線を向ける。

 何を馬鹿な事を言っているのだと。

 お前程度に敵わないわけないだろうと。

 この雑魚がと。


「はいはーい、魔王様!!是非僕にゴズの処刑をやらせてくださーい!!」


「……キャラットは大人しくしていなさい。私がやりますから」


「えー、なんでさハンラ!!僕が一番ゴスを苦しめて殺せるのにー」


「あら、それは勘違いもいいところだわ。一番苦しめることができるのは私……よ。最近ちょうど私の新しい子供たちの餌が欲しいと思っていたところなのよね……」


 自分の手で口元を覆い、ニヤニヤと笑うアクネラ。

 その姿にレノンは少しだけ身震いした。

 なにせ幼少期からどうしても蜘蛛が苦手なのだ。

 アクネラは別になんとも思わないが、その子供が全身に這い上がってくる光景を想像してしまったのだ。

 そして思った。


 俺にとってはこれが一番の処刑方法だなと。


 まぁ相手はゴズだ。

 誰がいいかなんてのは自分で選ばしてやるのがいいだろう。


「どうだ?自害する気になったか?短刀がいやなら別のものも用意してやっても良いが」


 レノンがそう聞くとゴズはしばらく下を俯いて沈黙を保った後、覚悟が決まったのか顔を上げ、


「………では私の愛用しているポールアックスを用意してはいただけないか。最後くらい自分の愛用した武器で死なせてくれ」


 小さくそう呟いた。


「よかろう。それはどこにある?」


「私たちの本陣に置いてきた。逃げる時には邪魔になると思ったからな……」


「……誰か取ってきてやれ」


「では我が行こう。我ならば誰よりも早くとりに……「その必要はねぇよドゴラ。もう取ってきたからな」……早く行けるはずだったのだよ……」


 ガクッと項垂れる。

 つくづく思うが十二翼の奴らというのは自己主張の激しい連中ばかりなのか?


「ほらよ。取ったきてやったんだから感謝しやがれ」


「……ああ、ありがとうワンズ」


 先ほどまでとは打って変わって素直になったゴズにワンズは少し驚いていた。

 それは他の連中も一緒で後ろであのゴズが感謝をしただととかありえないとかいろいろ声が上がりだす。

 死に直面すれば人は変わるというが、今がまさにそうなのではないかと思う。


「ゴズ、最後に何か言い残すことはあるか?」


「そうだな……一つ謝っておいてくれないか。私の妻と子供たちに。先に逝く父を許しておくれと」


「……ああ、伝えよう」


 そしてしばらく沈黙した後、ゴズはポールアックスを構え


「などというとでも思ったか!!死ぬのはお前だ!!この最強のゴズ様にポールアックスを持たせたこと死んで後悔するといい!!!」


 地面を蹴り、手にした斧でレノンに斬りかかった。

 玉座に座っているレノンは微動だにしない。

 椅子は固定され後ろに倒れることもできない。

 前に出れば斧の餌食だ。


 ゴズ自身もそう考えたのだろう。

 しかしそれは大きな思い違いで


「チェイン 二本」


 ギーラが飛ばした鎖がゴズの手足を繋ぎ、空中に大の字で捕らえられる。

 ポールアックスは地面に落ち、ゴズはただひたすらにジタバタするが、レノンにすら簡単に引きちぎることが出来なかった鎖をゴズが解けるはずもなく、ただただ離せと叫びながら暴れるばかりだった。


「ギーラ助かったぞ」


「いえ、魔王様ならばあの程度たやすく回避できるとは思いましたが、わざわざお手を煩わせるほどのものでもないと思い行動したのみです」


「まぁそうだが、それでも感謝は述べるべきものだよ」


「魔王が感謝とは……やはりあなたは面白いお方だ」


 そう言ってギーラは一歩後ろに下がった。

 しかし鎖のジャラジャラという音とゴズの叫び声が響き、非常に耳障りである。

 一瞬もう息の根を止めるかと考えたが、十二翼の面々が誰が殺すか決めるため『自分だったらこうやって処刑する演説』をしている中で俺が殺すのは彼らにとってはつまらないだろう。


「ゴズ自害の意思はないようだな。では処刑執行人を選ばねばならない。……誰が良い?今ならまだ選ばせてやるぞ?」


 選ばせてやると言うか、選んでくれないと収集がつかなくなりそうだ。

 だから正直なところ早く選んで欲しいのだが、そうはいかないのがゴズである。


「いやだ!!死にたくない!!まだ私にはやるべきことがあるんだ!!死にたくない死にたくない死にたくない!!!」


 錯乱状態に陥っているのか、ただただ死にたくないと連呼するのみで一向に誰が良いか指名をしない。

 このままでは拉致が開かないので、


「ではもうこちらで指名する。貴様の処刑人は……アクネラ、任せたぞ」


 やはりアクネラの方法が俺にとっては一番嫌だった。

 他の奴らもそれなりに方法を述べていたが、殴る、蹴る、斬るなんかよりも少しずつ捕食されながら死んでいくのが一番精神的にもきついだろう。


「かしこまりましたわ魔王様。この私がゴズを夢の世界……へ連れて行ってあげますわ」


 そう言うとアクネラは白い糸でゴズの体をぐるぐる巻きにし始める。

 足先から徐々に徐々に上半身に向かって、まるでミイラでも作成してるかのごとく糸が巻かれていく。


 ゴズは必死に体を揺さぶる

 鎖で繋がれていた時とは違い、手足は完全に固定されもう動かすことすらできなくなっているのだ。


「や、やめてくれ!!アクネラ!!私を誰だと思っているのだ!!魔王軍十二翼のリーダーにして最強の……『最強の餌になるのよ……フフフ』……餌は嫌だ!!」


 そして糸が首元まで巻かれたところでアクネラはゴズを吊り上げ上空へと引き上げる。

 そして大きな蜘蛛の巣を作りその中央部にゴズを置いた。


「では魔王様、子供たちを集めますので少しお待ちくださいね……坊やたちこっちにいらっしゃい……」


 アクネラがそう言うと、どこからともなく小さな蜘蛛が少しずつ集結し始め、アクネラのはった蜘蛛の巣を経由しゴズに向かっていく。


 お、おお………鳥肌が。

 にしてもどれだけいるんだアクネラの子は。


「んーーーー!!!!んーーーー!!!!」


 口だけを糸で結ばれて喋ることのできないゴズは接近してくる蜘蛛たちに恐怖を抱くことしかできなかった。

 そして………


 チクチクと体の至る所に痛みが走り始める。


「ーーーーーーーーーー!!!!」


 声にもならない叫び声が上がる。

 自分で命じて相手なんだが、これはやばいな。

 もう見てられないぞ……

 とんだグロ映像だ。


「あはは!!やばいやばい!!」

「ああ、子供たちが食事姿はいつ見ても可愛らしいわ……」

「いいなぁ、私がやりたかったなぁー」


 なんて声が上がるのは俺はおかしいと思う。

 こんなことなるなら指名していればよかったのではないか……ゴズ。

 まぁ後悔してももう遅いんだがな……


 しばらく上空にはゴズの叫び声とカサカサと言う音が響き続けた。

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