八冊目 『長い小説が読みたい』(KAC20211:お題【おうち時間】)

 




 読書とは手軽そうに見えて実は下準備も体力も必要な趣味です。


 ページをめくるにしても、タブレットの画面をなぞるにしても。




 座り心地の良い椅子。居心地のいい部屋。明るい窓辺。美味しいコーヒー、もしくは紅茶。


 お茶うけだって欲しい。


 クッキーが欲しい時もあるし、がっつりカステラとかケーキとか思い浮かぶ時もある。


 いや、ほうじ茶とせんべい。大福なら、豆大福かイチゴ大福かで、なんとなくふさわしい『本』が違いそうな気がする。




 環境は大事。長時間の読書、集中力を必要とする本を読もうとするなら猶の事。


 


 ――というわけで。本稿は読み手に根気と根性を要求する『長い小説』をテーマにお話を進めていきたいと思います。




 おうち時間。がっつり読書をするとして。


 あなたの脳裏に今浮かんだお話は、どんな長編小説ですか?




 ◇◆◇




 ちょっと固め重めだと。




『グインサーガ』(栗本薫 著)本編147巻 外伝あり


 のっけからこれか。容赦ねえな。という諸方からの苦笑いが聞こえてきそうなこのタイトル。

 1979年(昭和54年)9月に第1巻『豹頭の仮面』が発刊。現在147巻らしいけど、もうどこまで自分が読んでたか思い出せない。


 アニメが存在していると知ったのは放映からずいぶん経ってから。よくやろうと思ったなあ。五代ゆう先生が受け継がれたと知ったのも最近です。今から再突入しても大丈夫だろうか? むしろ、こっちの寿命が気になる大作です。




『ファウンデーション・シリーズ』(アイザック・アシモフ 著) 全3巻


「ロボット三原則」でも知られる現代SFを代表する巨人、アシモフの代表作で芯になる部分は全三巻。……なのですが、前述の「三原則」がテーマのお話が入口になるロボット物も最終的には壮大な未来史へと合流することになるので、全部つながってると思うと再度『我はロボット』『鋼鉄都市』あたりから読み直すのはかなり根性がいります。




 次に時代小説や歴史小説。




『宮本武蔵』(吉川英治 著)全8巻


 複数巻にわたる長い小説を石束が一番最初に認識したのがコレでした。まだ中学生でしたが、武蔵よりも一筋に武蔵を想いながら健気に一生懸命に追いかけるお通さんが可哀そうで可哀そうで。


『SLAM DUNK』の井上雄彦先生による『バガボンド』は本作を原作としていますが、これがまたいい漫画で(涙) 宝蔵院編のオリジナルエピソードがもうどんなにすごかったか。わたしが生きてるうちに巌流島迄見せてほしい。


 のちに色々読むことになり、映像としても様々に目にする剣聖『宮本武蔵』を石束の中に根付かせたのは間違いなくこの物語。またこの物語を全部読んだ後でぜひとも読んでいただきたいのが裏話満載のエッセイ集『随筆宮本武蔵』です。これは吉川英治先生による武蔵執筆についてのエピソード集で、今でいうロケハンをやってたり、登場人物の子孫(に間違われた人)からのクレームがきたり等と本編読んだ後なら絶対楽しい一冊です!


 つづけて吉川版『三国志』も読みまして、三国志のストーリーの基本も吉川先生(とNHKの人形劇三国志)。




『鬼平犯科帳』(池波正太郎 著) 全24巻+番外編(文庫本)全135作


 これはテレビシリーズ(主演:中村吉右衛門)が先だったせいで、放映回の原作を探して買うなんて読み方をしました。なのでウチにある鬼平はとびとびだったりします。あまつさえ同じ本が二冊あるとか。


 ……このへんも整理しないといけないなあ。


 何巻から読んでも、何処から読んでも面白い名エピソードぞろい。


 個人的には『五月闇』『雲竜剣』『泥鰌の和助始末』『暗剣白梅香』あたりが好き。




『坂の上の雲』(司馬遼太郎 著)文庫版 全8巻


 秋山真之? 誰それ? だった石束に戦艦三笠と東郷平八郎を教えた偉大な小説。


『竜馬がいく』に比べると格段に情報量が多くて『長い感』があります。


(『竜馬』は全六巻なのにあっという間に終わる様な気がする)


 映画の『二百三高地』とNHKドラマ『坂の上の雲』中の関連エピソードは同じ事柄を扱っているのにどう位置付けるかで印象が変わって見えました。




 つづいてミステリー。




『オリエント急行殺人事件』他ポアロ登場のシリーズ


 長編33 短編54


(アガサ・クリスティー著)




「オリエント急行殺人事件」でわたしはエルキュール・ポアロとアガサ・クリスティー女史に出会い、ポアロの半生を追いかけるかのように最終登場作『カーテン』までを読み終えました。ホームズもルパンも同じ読み方をしましたが、これだけ長いと作中の時間経過に伴い、永遠のヒーローたる彼らであろうとも時の流れとは無縁足りえず、若い時代の冒険があり円熟の活躍があり老年の苦闘がある。ベルギーの警察署長の務めを終えてイギリスで第二の人生をスタートさせたポアロが、類まれな頭脳のみを武器に難事件に立ち向かい時間を積み重ねていくのは一冊一冊独立した物語でありがながら、彼の人生を追いかけていくようでもありました。


 複数回映画化されている『オリエント急行殺人事件』ですが、どれも面白いです。


旧作のローレン・バコール。ケネス・ブラナー主演監督による2017版におけるミッシェル・ファイファー。どっちも綺麗でカッコよかった……。




 ほんとは書きたいこといっぱいあるけどいつまでもラノベに行けないのでミステリーはこれだけ(笑)




 というわけで、ラノベ。




 人気のあるラノベは長いので、むしろ印象に残る一冊完結作品を探す方が難しいです。




『ソードアート・オンライン』(川原礫 著)本編25巻以下続刊


 2002年同年11月から2008年7月まで作者自身のサイトで連載された小説。ネット小説黎明期で投稿サイトも限られていたので、あとは使われ始めていたブログとかしか方法がなかった頃に生まれた小説ということになる。


 文学賞に応募するために書いた小説だけど、長くなりすぎたのでボツにして別に応募作を書いたとか。出来上がった応募作が『アクセル・ワールド』(小説投稿サイト『Arcadia』初出時点のタイトルは『超絶加速バースト・リンカー』)だったというから、この人の頭の中は面白いお話をつくるための異空間かなんかになってるんじゃないかとか思わずにいられません。


 半分くらいは異世界のような電脳世界を舞台とする『アリシゼーション』なので、VRMMOでデスゲームという後にネット小説界の一大潮流になる道具立ても、最初のとっかかりに過ぎず、そこを越えて世界観を共有できた人たちにこそ作者が見せたかった物語があったのではないかと今になって思います。


 まごうことなき新時代のSF小説の金字塔。インターネットで小説を書き始めたばかりの物書き志望者たちに、物語作りの深さも広さも高さすらも示してみせたネット小説の到達点。





『銀河英雄伝説』(田中芳樹 著)本伝10巻 外伝4巻他


 少し戻って(笑) 1982年11月、徳間書店のトクマ・ノベルズより刊行。1987年までに本編全10巻完結。壮大な歴史叙事詩ですが、本編での時間経過は本当に短い間なので、そんなに長いという感じはしません。というか、多分これ1988年から2000年にかけて作られたOVAを全部見方がはるかに時間がかかるような気がします。


(メディアが1巻1話収録のVHSテープだった。OVA本伝110話。外伝52話。ほかに劇場公開アニメ3作)


 ヤン・ウェンリーというキャラクターをラノベ世界に送り出して、ラノベ世界の軍師像を一歩前進させた作品でもあります。発刊当時はカタカナの名前の主人公は受け入れられないといわれたそうですが、世の中の在り方のほうが「一変」してしまいました。


 ご都合主義がないわけではないけれど、それ以上に「歴史」をメインテーマとするなら「理不尽」こそが物語の主軸でありえるのだと、知らしめた小説。


 作者の田中先生が最終巻で「この後の物語は書かない」といったためかそうでないのか、この作品を愛するファンによって盛んに二次創作が行われており、面白い小説も多い。本当にみんなよく勉強してて愛情深い。無論それらの作品では原作で不幸になった人間が幸せになっていたりします(笑)




『ゼロの使い魔』(ヤマグチノボル 著)本編全22巻。


 作者のヤマグチノボル先生の死去によって未完のまま絶筆となった本作はその後残されたプロットを元に21巻22巻が刊行され完結しました。


 アニメ化されること4度。釘宮理恵と日野聡という今もアニメ界をけん引する名優がヒロインヒーローを真正面から具現化して多くの人を幸せにしました。


「え! 終わってたのアレ!?」とコレを読んで思ったあなた。ちゃんと完結しているので安心して読んでください。


 カクヨムで二次創作が書ける小説でもあります。恥ずかしながら過去にルイズが呼び出した使い魔が吉村貫一郎だったという二次を書きかけたことがあり――結局、書けなかったけど。




『ロードス島戦記』(水野良 著)本編7巻 


 1988年、第1巻が角川文庫より刊行。元がテーブルトークRPGのリプレイだったというのは周知のこと。とはいえ小説のイメージはゲームではなくむしろ海外のムアコックやアン・マキャフリィらの本格ファンタジー小説を思い出させる。ファンタジー小説に「ゲーム」のインターフェイスが入り込むのはもっとずっと後の事。ゲームを原作としながら、物語自体はファンタジーだった時代のゲーム小説。

 同時展開の「ソードワールド」が世界を自由に遊ぶテーブルトークRPGだったのに対して、ロードスは壮大な叙事詩の中に没入して登場人物を「演じる」ゲームだったと理解しています。

 だからこそ、主人公パーンは何も持たない常人として出発する。

 人の力では抗しえない超常の生物や奇跡を前にそれでも只人のまま覚悟と信念だけを武器に理想に向かって登っていく青年像が眩しかった。


 そして――この物語はまだ終わっていません。


 続編「新ロードス島戦記」の完結後10年を経たのち、2019年8月1日には更なる続編「ロードス島戦記 誓約の宝冠」が刊行されました。


 ――つまり! 今もあの島へ行けば『彼女』に会えるのです!




 言い足りないけど文字数が限界(笑)


 長い小説を読むなら今、と思いますのでどうぞ皆様もお楽しみください。


「アレがないぞ」と思われた方はどうぞお教えください。今は無理ですが4月になったら読ませていただきます。


 ◇◆◇


 ……というのが今年のKAC(KAC2021)で突然始めた感想文エッセイでした。


「おうち時間」というお題だったのでいつもの発掘作業の傍ら「せっかくだから長い小説を読むぜ!」という方向で選んでみたのです――が、のちに


「いや、この切り口は『おうち時間』に対してダイレクトなラインナップになっていないでは?」


とか、思いはじめ。結局、こっちにまとめるついでにもう一回考えてみようとおもいはじめました。


 なので、ここから再び始めます。『昔読んだ本、発掘記 Season2』


 ――『KAC2021やりなおし編』です! 



 次回、『おうち時間』の小説が読みたい改。





 なお、こちらのエッセイで


『【特集連動企画】カクヨム公式レビューをねらえ!』

『Vol.01 新着エッセイ・ノンフィクション編』


に参加作品してみようと思います。

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